藤井精工株式会社 代表取締役 藤井福吉
今回お話を伺ったのは、福岡県鞍手郡に本社を構える藤井精工株式会社。今年で創業45年を迎える同社は0.001mm単位の技術が求められる超精密金型分野において、長い歳月の中で培った高い技術力でアジア諸国の他の追随を許さず、品質で評価されている企業だ。常に顧客の要望に+αの提案を行い続ける姿勢から、今は世界に類を見ない医療機器開発を目指しており、「グローバルニッチトップ企業100選」に選定されるほどの実力を持つ。今回お話を伺ったのは、同社の社長であり、創業者でもある藤井福吉氏。藤井社長より会社が歩んできた軌跡と見据える会社の未来について伺った。
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
「楽しい」を体現する社風
「社員が活き活きと自由に働いている会社ですかね」と嬉しそうに話した藤井社長。その様子は、業務においてだけではなく、社内イベントでもみられる。楽しいことが大好きで、特に「遊び心」が大事であると語る藤井社長。会社のイベントなども、若手の社員が舵を取り、社員旅行、バーベキュー、忘年会など、様々なイベントを積極的に企画し、いつも大盛り上がりだという。その「遊び心」が仕事に与える影響は大きく、流れ作業的な仕事ではなく、難しい部品を加工する仕事は柔軟で活発な思考を要する。高品質な商品づくりには、この「遊び心」が欠かせない。日々真剣で、時に楽しく。メリハリのある働き方を実践できているからこそ、同社は確かな実績を誇っているのだろう。「まずは引き受け、やってみること」これが藤井精工の独自性
「まずは引き受け、やってみること」これが藤井精工が大切にしていることであり、成長の軸となっている。実際にアメリカのとある医療メーカーからほとんどの人が躊躇するような量産の仕事が舞い込んだ時、真っ先に手を挙げたのが藤井社長。納品までに1年の歳月が掛かったが持ち前の負けん気で乗り切ったのだという。なぜそこまでして難しい事に前向きに取り組めるのだろう。その神髄はお客様のパートナーでありたいという熱い想いからきている。パートナーでありたいからこそお客様の「困りごと」や「難しい作業」にもひるまず挑戦しているのだろう。挑戦を続けた結果、0.001mm単位の仕事を可能にすると共に、業界でもいち早くENISO13485を取得し高い精度で品質マネジメントを行っている。この先もお客様に多くの付加価値と満足を提供していくことができる素晴らしい独自性といえる。目指すのはメディカルタウン。「核」となり牽引していく覚悟
藤井精工が目指すのは、メディカルタウンの「核」となること。九州大学の先生からお声掛けをいただいたことから始まった医療事業部。北九州の地域全体で、世界一の医療機器の量産体制を構築していくという想いから「メディカルタウン」構想は始まった。「メディカルタウン」という名称は、九州地方がかつて呼ばれていた「シリコンアイランド」という言葉に由来する。この「シリコンアイランド」は半導体産業が最盛期の時代に生産量が全世界の約10%にも達したこと、半導体の原料がシリコンであることから、シリコンバレーに倣って生まれた名称である。「メディカルタウン」を実現するために、同社が連携の「核」となり、互いの得意分野で強力なスクラムを組み、世界基準の量産体制をつくる。地域社会に貢献し、世界を相手に挑戦し続ける同社は益々発展し続けることだろう。開催する忘年会
藤井精工が大切にしていること
藤井精工の創業の経緯を教えてください
もともと新卒で会社に就職して設計をやっていたんです。ただ、その会社では「自分の将来が描けない」と思い会社を退職。そうして無職になった時に何をしようか色々考えていました。トラックの運転手になるべきか、「ブドウ園でも作ろうか」など、様々な思考をめぐらせ、悩んでいる時期がありました。そんな時、ある会社からお声掛けいただき、金型の設計を頼まれて自宅で図面を書いたんですよ。それがきっかけとなり、その会社からよく仕事がくるようになり、設計事務所を立ち上げることになりました。図面を書いて終わりという仕事では面白くない、金型自体を自分でもつくってみようと思い、自分で設計したものを形にできる会社を探し、この部品はここでお願いしよう、あの部品はあそこでお願いしよう、機械が必要なら揃えよう、と自然体でつくっていきました。自然体の中で考えていたのは「商売を成り立たせること」ではなく、「面白いことができないか」ということで、価格勝負ではなく、発想、技術、品質などを競争力にして、いろんなものを「やってみる」中で一人、また一人と藤井精工に集まり、そのうち自然と会社が大きくなってきました。藤井精工をこれから成長させるにあたり何が必要だと感じますか?
やっぱり「人」ですかね。メディカルタウンという構想の実現のためにも、挑戦意欲がある人にぜひ入ってもらいたいと思っています。金型であれば、個人個人が職人技でつくっていく必要がありますし、医療機器であればこの体制の構築が必要。これから様々な人材に入社していただきたいと思っておりますし、入社前から専門的な知識や経験は必要ありません。社内に掲げた品質方針に従ったOJT、教育を受けていただければ金型のプロになれるので、これから入社してくれる方は安心して藤井精工を選んでほしいですね。藤井社長の想いをお聞かせください
やはり自分たちで作ったものが実際に「誰かのためになっている」ということを伝え続けていきたいですね。例えば医療事業に携わっていますが、医療の本質は病が治ること。あなたがつくった製品を使ったことにより病が治ったということを伝えると、やりがいにも繋がりますよね。お客様第一主義とか、かっこいいことを言いたくはないですが、やっぱりお客様からお金だけもらえたらいいやという精神ではなく、誰かの役に立ったと実感できるようなモノづくりを行いたいですね。私自身、もともと「人を喜ばせたい」ということを大切にする性格なので、そんな想いを全員が持てるような会社になれば良いかなと思います。年は72歳ですがまだまだ心は若いので、若い子たちと一緒に頑張りたいですね。(笑)藤井精工の中核を担う 若きグループリーダー
藤井精工株式会社
製造グループ長 兼 設計グループ
橋本竜之佑
今回、お話を伺ったのは製造グループの長として、常にチャレンジを続けている橋本グループ長。所属していた金型部から医療事業部への異動があり、紆余曲折を経つつも実績を積み重ねてきた同氏。同社の基盤ができる前から働いており、共に藤井精工を創り上げてきた同氏には、藤井社長からの信頼も厚い。そんな橋本グループ長だからこそわかる藤井精工の「歴史」、「魅力」そして自身が現場で体感してきた仕事のやりがい等についてお話を伺った。 伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
偶然の出会いと藤井精工の魅力が働くことにつながった
藤井精工を知ったきっかけは大学時代の先輩だという。今も会社の上司でもあるその方から「うちの会社は大学の近くにあって素晴らしい技術をもっているよ」と教えてもらったことが、同社と出会うきっかけであった。同氏自身、高校時代に物理や数学といった理系科目を得意としており、大学で学んだモノづくりを社会人としても継続して行いたかったという。様々なモノづくりを行う企業があるなか、同社に入社した理由は、会社が外向きに発信している情報などを頼りにするのではなく、会社見学や現場の生の声を聞き、肌で感じた「同社の魅力」や「自分の直感」を大切にしたかったからであると強く語った。入社当時は社員数が今よりも少ない時代から藤井精工を支える中核的な存在となって創り上げてきた。入社から11年経った今、グループ長という立場で同社を支えている。振り返らず、前へ前へ
仕事においてやりがいを感じる瞬間は、お客様のリクエストをもとに製造工程を組み、意図している通りに進行し目標を達成できたときだという。藤井精工は2015年より医療機器製造部を立ち上げ、橋本グループ長は金型部からその部署に抜擢された。金型部は個人で技術を磨くことが重要であるため、当時は「関わった製品が形になること」がやりがいだった。医療事業部は安定供給が求められるため、自分がやりがいとしてきた作業ができず、苦悩したという。しかし、そこでくじけず品質の維持や不良品を出さないことにこだわり続けた結果、お客様から数多くの喜びの声が挙がった。そのため、新たなやりがいを見つけることができたという。同氏の功績も認められ、現在は同部署のグループ長として会社の成長をサポートしている。新たな挑戦にもひるまず前向きに邁進する橋本グループ長の今後に目が離せない。藤井精工のキーマンとして生きる
「会社が成長するなかで自分も自己研鑽を止めることなく、進化し続けることが目標である」と橋本グループ長は「夢」ではなく「目標」を語った。医療事業部は、その名の如く、医療品を手がけているため、作業上のミスは人の命に関わるという。一瞬の気のゆるみが大惨事を招く可能性もあるため、確固たる意志を持ち、「夢」ではなく「目標」として語ったのだろう。 現在はグループ長に昇進したことにより、後輩への育成も自分へ与えられた責務だという。しかし、「技術」を伝えることはできても、「マインド」を育てることは難しく葛藤中だという。恐らく強い意思を持ち、人一倍責任感の強い同氏には、会社の基盤を創った社員と安定した基盤から入社した社員の橋渡しを期待しているのであろう。今後の同社を成長させるためにも橋本グループ長の存在は欠かせない。指示を送る橋本グループ長
藤井精工の未来を担う橋本グループ長の想いとは
入社時のことを教えてください
自分が入社したのはもう10年以上前のことですね。入社した当時は医療事業部ではなく金型部に配属されました。機械を扱うことはなく主にパソコンを使い設計を行っていましたね。入社当時は社員数が少なかったこともあり、割と即戦力として働かせていただいたので、「責任」や「作業時間」など、大学生と社会人のギャップを感じたため、ものすごく大変でした。しかし自分が決めた道ですし、大学時代からモノづくりを専攻していたので、最初から楽しく働くことができたのです。現在は出来上がった製品に自分の書いた図面が使用されている場面を見ると、「達成感」や「やりがい」にもつながっていますね。
橋本グループ長から見た10年前の藤井精工と現在の違いを教えてください
10年前と現在で一番変わったことは「会社として求められる力」だと思います。入社当時は基盤を創るために個々の能力や技術を磨くことを求められました。正直なことを言うと、あまり協調性がなくても個人の力を高めることができれば良いという風習がありました。しかし、現在は金型部だけではなく医療事業部も増えたことにより、「個々の能力や技術」より「協調性」を求められるようになりました。ある程度会社の基盤ができていくなかで、全員がある一定のレベルをキープできるようになることを求められました。今後は「個人の能力や技術」と「協調性」を高いレベルで維持できるようにしたいですね。橋本グループ長が現在ぶつかっている壁を教えてください
現在感じている課題は後輩社員に教えることですね。グループ長になって後輩へ指導することも増えました。そのなかで「技術」を教えることはできるんですけど、マインドと言いますか、自分と同じ会社に入社してくれて一緒に働く仲間には「心」も成長してほしいんですよね。今入社する社員は当時自分が入社した時とは異なり、ある程度会社の基盤が安定したなかで入社をするんですよね。自分は基盤が安定していないなか、試行錯誤を繰り返すことで成長できた部分もあるので、そういったことを後輩にしっかりと教えて、共に藤井精工を盛り上げていければ良いと思いますね。藤井精工株式会社
1976.2.26 現社長・藤井福吉が個人経営にて、直方市中泉工業団地に設計事務所を設立。金型および治具・自動機の設計業をはじめる
1980.8 鞍手郡鞍手町大字長谷555に工場建設、移転。機械設備を導入。精密金型および治工具の設計・制作を開始
1983.8 業務拡張のため、工場および事務所増設
1984.4 資本金500万をもって「藤井精工株式会社」に改組
1991.7 ラスチック金型製造会社「株式会社ミネルバ」を継承系列会社とする
1992.9 資本金1,000万円に増資
1998.8 制作販売の海外拠点としてマレーシアにFUJIISEIKO (ASIA PACIFIC)SDN.BHD.(466854-T) 設立
2006.3 資本金3,000万円に増資
2008 FSAPを閉鎖(マレーシア工場)
2011 超高速スタンピングプレス導入、プレス工場増設
2012 高精度加工対応のため、恒温室工場を新設、
超高精度CNC三次元測定機導入
2013.5 1MW太陽光発電所設置
2015.3 医療機器製造業登録
2018.4 経済産業省「はばたく中小企業・小規模事業者300社」受賞
2019.5 春の叙勲「旭日単光章」受勲
2020.6 「グローバルニッチトップ企業100選」に認定
1980.8 鞍手郡鞍手町大字長谷555に工場建設、移転。機械設備を導入。精密金型および治工具の設計・制作を開始
1983.8 業務拡張のため、工場および事務所増設
1984.4 資本金500万をもって「藤井精工株式会社」に改組
1991.7 ラスチック金型製造会社「株式会社ミネルバ」を継承系列会社とする
1992.9 資本金1,000万円に増資
1998.8 制作販売の海外拠点としてマレーシアにFUJIISEIKO (ASIA PACIFIC)SDN.BHD.(466854-T) 設立
2006.3 資本金3,000万円に増資
2008 FSAPを閉鎖(マレーシア工場)
2011 超高速スタンピングプレス導入、プレス工場増設
2012 高精度加工対応のため、恒温室工場を新設、
超高精度CNC三次元測定機導入
2013.5 1MW太陽光発電所設置
2015.3 医療機器製造業登録
2018.4 経済産業省「はばたく中小企業・小規模事業者300社」受賞
2019.5 春の叙勲「旭日単光章」受勲
2020.6 「グローバルニッチトップ企業100選」に認定
創業年(設立年) | 1976年2月 |
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事業内容 | ・IC製造用精密金型設計製作 ・IC製造用トリミング&フォーミング装置設計製作 ・電気器具用プレス金型設計製作 ・金型用精密部品製作 ・治具・工具設計製作 |
所在地 | 福岡県鞍手郡鞍手町大字室木1057-1 電話:0949-42-5651 FAX:0949-42-3177 |
資本金 | 3,000万円 |
従業員数 | 75名 |
会社URL |
監修企業からのコメント
本日は取材の協力をいただき誠にありがとうございました。藤井社長と橋本様が終始笑顔で取材に臨まれている姿を見て、明るい会社である様子や活き活きと働く皆様が目に浮かぶようでした。また創業社長である藤井社長に創業当初のできごと、独自性、展望などを聞き、本質を見抜く大切さを学びました。地域に根付き、愛される藤井精工。今後さらなる発展を遂げていく同社に注目です!
掲載企業からのコメント
取材を通じて、創業時の想いや展望を改めて言葉にすることで気持ち新たに頑張る決心ができました。弊社がこれまで大切にしてきた価値観や「藤井精工らしさ」について改めて考える良いきっかけをいただき感謝いたします。
このような想いが、現社員やまだ見ぬこれから苦楽を共にする仲間にも伝わるきっかけとなったら嬉しく思います。