株式会社船橋屋 代表取締役社長 神山恭子
今回取材をさせていただいたのは、東京の下町情緒が色濃く残る江東区亀戸、亀戸天神のお膝元に本店を構える、株式会社船橋屋である。くず餅を主軸に、くず餅乳酸菌やあんみつなどを製造、販売している。創業は江戸時代、文化2年(1805年)、11代将軍徳川家斉の頃である。そんな時代から、地元に愛され、江戸の名物の一つになった「船橋屋 くず餅」。時代や社会の変化があろうとも、ただひたすら”真っ直ぐ”にくず餅の磨き込みを重ねた、創業200年を超える老舗企業である。今回の取材では、そんな船橋屋の社風や独自性、展望という切り口から、行っている取り組み、そこにかける想いについて神山社長からお話を伺った。
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
くず餅への愛情と誇り
「社員皆が自分たちの商品が好きだ」と神山社長は同社の社風を語る。その背景を紐解くと、社員一人ひとりが「うちのくず餅は美味しい」という絶対的な自信を持っていることに起因するという。さらに話を伺うと、最もくず餅に精通しているつくり手である職人達がくず餅に対して自信や愛情を持っていることが「社員皆がくず餅が好き」という社風に繋がっていることが伺い知れる。くず餅は蒸し具合やとろみの調整、季節によって配合を変える等、相当な技術や経験を必要とし、一人前になるのに10年以上はかかると言われている。そういった過程を経て高い技術と豊富な経験を持つ職人達が「絶対に美味しい」と自信を持ってつくり出すくず餅。その過程や想い、そして味、それらが全て相まって、全社員がくず餅が好きであるという社風に繋がっているのだ。それを象徴するように、同社では社員がお土産としてくず餅を買って帰る光景がよく見られるという。社員一人ひとりが自分たちの商品に愛情や誇りを持って働いているということが、同社が200年以上も歴史を紡いできた理由の一つである。くず餅に徹底的にこだわった事業発展
同社はくず餅に徹底的なこだわりを持っており、そのこだわりこそが独自性である。これは創業当時から現代に至るまで脈々と受け継がれてきた同社のDNAなのだ。例えば、同社は創業からくず餅に保存料などの添加物を入れずに製造、販売しているというこだわりがある。くず餅は発酵に450日間という非常に長い時間を要するが、お客様のもとに提供してからの消費期限は2日間という非常に短い期間である。保存料を入れることで消費期限を延ばすことは可能だが、同社ではそれをしない。なぜなら、最高品質のくず餅をお客様に提供する上で最善の製法であるからだ。同社では最高品質を楽しんでいただくその一瞬を「刹那の口福」と呼んでいる。さらに、近年では、”飲むくず餅乳酸菌”や”化粧水”、”サプリ”等、様々な事業に挑戦している。神山社長は「これらの事業は全てくず餅から派生したものであり、様々な事業を通じて、『くず餅』を知ってもらいたい」、そんなくず餅へのこだわりがあるからこその挑戦なのだ。最後に「当社は和菓子屋ではなく『くず餅屋』です」と語った神山社長の言葉に、同社の独自性が凝縮されていた。船橋屋の価値や良さを世の中に広めたい
今後は、くず餅という伝統的な商品と、くず餅乳酸菌という革新的な商品の2本柱で世の中にファンを増やしていきたいと神山社長は語る。そもそも、神山社長自身が自他共に認める同社の熱烈なファンであり、「船橋屋の歴史」や「くず餅」について徹底的に調べてきたことがその背景としてある。だからこそ、同社やくず餅の素晴らしさをより多くの人に知ってもらいたいと考えているのだ。なぜ同社は200年以上もの歴史を紡ぐことができたのかや、くず餅の美味しさだけではなく、成分や健康への作用等、発信していきたいことが沢山あるという。ちなみに、くず餅の研究過程において「くず餅乳酸菌」を発見したことも同社である。近年では健康への作用という観点から「免疫調整機能に効果的である」可能性を学術的に研究し、論文にまとめて発表する等の取り組みも行っている。今後も「船橋屋 くず餅」の価値や良さをより研究し、世の中に発信することで、ファンを増やしていきたいと神山社長は笑顔で話してくれた。現代の良さを
かけ合わせた本店風景
くず餅由来の乳酸菌
好きだから後世に残していく
神山社長ご自身の今後やりたいことを教えてください
船橋屋の歴史を学術的にアプローチしたいですね。社員のみならず、今まで関わってくださったお客様に、船橋屋はだたの長寿企業というだけではなく、著名な文豪含め様々なお客様に200年以上も昔から愛されてきたという、日本にとって価値のある企業だということを知って興味を持ってもらいたいです。最近であれば、愛されてきた証拠を探すために、芥川龍之介が船橋屋に来たという記載を見つけたら、その中に載っている人物に関連する方を実際に探して、子孫に直接お話を伺いに行きました。他にも、船橋屋の歴史について個人的に研究し、本にまとめたりしています。これからも今以上に研究して、船橋屋に興味を持ってもらえるきっかけにしていきたいですね。船橋屋においてどんな存在になりたいですか?
多くのことを学んで船橋屋を成長させていく存在になりたいですね。そのために、船橋屋で働く人が何でも相談できることを意識しています。色んな相談、雑談など話を聞くことで、様々な世代の考え方、世の中の動きがよくわかります。逆に、何でも話せる存在にならないと小さな気づきになるような話は出てこないですから。世の中の未来を見据える上では若い人達と話すことも大切にしています。私は昭和世代で、Z世代など若い人達と話すと驚かされることも多いですが、それ以上に、学ぶことが多いですし、何より楽しいです。何でも相談できる社長、社長に相談したら良い方向に向かうと思ってもらえる社長でありたいですね。神山社長の原動力はなんですか?
愛社精神に尽きます。なぜ愛社精神が湧いてきたかというと、船橋屋に入社して、様々なことに挑戦させてもらい、今の自分があるからです。だからこそ「この会社のために」という気持ちになりました。成功して仕事を少しでも楽しいと思えると、今度は自分で調べて行動し、さらに好きになります。これは社員についても同様で、愛社精神が強い人ほど、自ら行動し、好きになるからこそ、課題も受け止めて改善しようという循環が生まれます。私はたまたま歴史が好きで、楽しく調べていますが、これだけお客様に愛されている企業は少ないと思います。私は船橋屋を愛してくれるお客様、船橋屋を愛してくれる従業員全て含めて大切です。伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
株式会社船橋屋 戦略企画部 広報室 室長 月岡紋萌
船橋屋は、メディアへの出演やSNS運用なども積極的に行っている。それを指揮するのは、船橋屋の顔、広報室の室長を務める月岡さんである。そこには、地域に愛され続けた「船橋屋 くず餅」を多くの人に知ってもらいたい。時代が変わる中で「船橋屋 くず餅」を愛し続けてくれる人とコミュニケーションが取りたい。お話を伺う中で、月岡さんはそんな想いを笑顔で語ってくれた。伝統あるものと変わりゆくもの、それを上手く組み合わせてお客様を大切にしていることだろう。インタビューを通じて、彼女の船橋屋やくず餅、それを愛してくれるファンの人達への想いを紐解いていく。伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
いきいきと働く姿に憧れて
船橋屋で働く人に魅力を感じ入社を決めたという月岡さん。船橋屋でいきいきと働く社員の方や神山社長を見てこんな大人になりたいと強く思ったという。社員の方の船橋屋への愛をこめて働いている姿が、就活生だった月岡さんの心を掴んだ。月岡さんは就職活動をしている時、船橋屋全店舗を回り、レポートを書いて面接時に渡すなど、並々ならぬ熱量を持つ方である。そんな性格が船橋屋の想いと合ったのだろう。さらに「くず餅」という歴史ある商品を色んな角度から発信していくという事業の面白さが月岡さんの心をくすぐった。どんな会社よりも一番自分事として捉えられたという。そんな話を笑顔で話してくれる月岡さんからは、船橋屋への愛や自分の仕事への誇り、人生を楽しんでいる様子が感じられた。「船橋屋で働く人がいきいきとしていた」という月岡さんの言葉は、まさに今の月岡さんを表してるようだった。社外も社内もみんなをもっとファンに
「今の仕事は楽しいと自信を持って言える」と話してくれた月岡さん。その根底にあるのは「社外も社内もみんなもっと同社やくず餅のファンになってもらいたい」という想いであった。社外という側面からは、お客様からお礼の手紙やメッセージをいただくこともあり、同社を知らなかった方がSNSなどの広報によって、同社を知り、その方の思い出になっていくことが何よりも嬉しいという。社内という側面からは、後輩や部下、同社で働く人が、くず餅の価値を認識し、お客様に一緒に価値を届けられることが何よりやりがいに繋がるという。「入社している時点で船橋屋のことを好きだと思います。買って美味しいだけではなく、その価値を一緒に届けたいと思っていることが、かけがえのないことですよね」と嬉々として教えてくれた。そんないきいきと働く月岡さんに憧れて入社する社員も少なくないだろう。楽しさを広めて船橋屋をレベルアップ
去年から広報室の室長を務めている月岡さん。室長という責任ある立場ではあるものの、以前よりも仕事の面白みを強く感じているという。今は、やりたいことを実現できる立場であることから、仕事の面白みを同社で働く人々に伝えていきたいという。月岡さんの感じる仕事の面白みとは、会社がより良くなることを実現できることであり、立場が上がるにつれて、できることも増えていく。「やりたい」を形にしていく面白さこそ、月岡さんが最も伝えたいことだと語った。その一例として、組織活性化プロジェクトというものが同社に存在し、有志と共に、会社のために様々な取り組みを行っているという。そんな面白さを社員に伝えていき、自分自身も同社を引っ張り、さらに月岡さんの姿を見て後を追う人達がいる、そういった好循環により、同社はよりレベルアップしていくに違いない。月1発行されている社内報
社内も社外ももっとファンにできる仕組み
組織活性化プロジェクトについて詳しく教えてください
組織活性化プロジェクトでは、月1回冊子で社内報を発行したり、新年会などのイベントの企画、運営も行っています。社内報やイベントで全社を巻き込んでいくと、話のネタになったり、関わりが薄かった人や部署を知るきっかけになったりと皆さん楽しみにしてくださっています。社内報では、取り上げた社員の想いや社長からのメッセージなどを載せています。163号続いていて、今ではなくてはならないものになってきています。お客様に目を向けることももちろん大事ですが、社内の人により会社のファンになってもらって、様々な部署のプロジェクトメンバーと共に楽しみながら会社を良くしていきたいですね。一番伝えたい船橋屋の魅力を教えてください
商品に想いがこもっていることですね。ただ、「船橋屋のくず餅が美味しいよ」ではなくて、船橋屋のくず餅を大切にしてきた人、お客様、働く人等、関わってくださった方一人ひとりの想いがあって、それが具現化した商品だと思います。それが何よりも魅力ですね。そんな魅力的な商品だからこそ、美味しいと思ってもらいたいですし、想いがこもっているからこそ、昔から愛されてきたものをそのまま届けたいと思っています。私達は「刹那の口福」と呼んでいるのですが、くず餅は450日間発酵させて、消費期限が2日です。その一瞬のために手間暇かけているので、ぜひその一瞬を体験していただきたいですね。月岡室長から見た神山社長はどんな方ですか?
とても愛のある人です。「良い会社をつくりたい、ならやろう」という熱量は伝播していくもので、そんな姿を見て、これからも背中を追い続けたいと思える人です。また、船橋屋や船橋屋で働く人、今まで船橋屋に関わってくださったお客様の想いをとても大切にしています。仕事をする上で、言葉に対しての責任感、行動力など、一貫性があり、だからこそ社員に慕われています。基本的に自分で何でもできてしまう人ですが、周りの後輩や仲間に対して、個性を生かして任せてくれる、愛の中に厳しさもある人です。船橋屋について誰よりも詳しく、誰よりも愛情深い、船橋屋の希望のような人です。株式会社 船橋屋
文化2年 初代勘助、亀戸天神道に創業
出身地の地名をとり、屋号を「船橋屋」
とする。以降五代目以降まで
個人経営
昭和27年 有限会社 船橋屋設立
昭和28年 亀戸天神前本店完成(戦後復興)
平成15年 ISO9001:2000認証取得
出身地の地名をとり、屋号を「船橋屋」
とする。以降五代目以降まで
個人経営
昭和27年 有限会社 船橋屋設立
昭和28年 亀戸天神前本店完成(戦後復興)
平成15年 ISO9001:2000認証取得
創業年(設立年) | 1805年 |
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事業内容 | ・くず餅(くずもち) ・あんみつ等の製造販売 ・和スイーツなど創作カフェの経営 |
所在地 | 〒136⁻0071 東京都江東区亀戸3‐2‐14 |
資本金 | 5000万円 |
従業員数 | 300名 |
会社URL |
監修企業からのコメント
200年以上くず餅をつくり続けて、ずっと地元に愛され続けてきた船橋屋様。神山社長と月岡さんのお話を伺い、お二人の「船橋屋 くず餅」に対する想いが伝わってきました。また、新しいものにもチャレンジしつつ、軸をぶらさない姿勢や、お客様を大切にする姿勢など皆さんにもっと船橋屋のことを知ってほしいと私もファンになりました。船橋屋の今後の研究や発展が楽しみでなりません。
掲載企業からのコメント
この度は取材していただき、ありがとうございました。改めて、私の想いや、社員の想いが社内外に発信する良い機会になったと思います。これからもぶらさないところはぶらさず、新しく発展するところは発展させて後世に「船橋屋 くず餅」を残していきたいと思います。くず餅を軸に新しことにチャレンジしていく船橋屋にご注目ください。