株式会社丸上製作所 代表取締役社長 小松 義博
1906年、世の中が明治時代の末期を迎えたころ、「丸上小松製糸所」という名前で製糸業を営む企業として、愛知県の豊橋に誕生した株式会社丸上製作所。第二次世界大戦中の1944年に、ばねの製造に転向して以来、鉄道車両の台車の車両台車に使用されているコイルばねや、鉄道のレールを固定するレールクリップの製造を手掛けている。鉄道分野で、人々の生活において欠かせないインフラの構築に従事するという、社会的に見ても大役である業務に長年取り組んでこれた背景には、丸上製作所が創業から現在に至るまで受け継いできた確かな技術があるからだ。今回は歴史ある同社を、長年牽引してきた小松社長にお話を伺った。
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
努力ができる真面目な社員。メリハリがある社風
小松社長に丸上製作所の社風について伺うとこう答えた。「おっとりしているけど、真面目な社員がすごく多いです。私は、ただ勤勉であることだけが真面目ではないと考えていて、頑張って努力することができるというのも重要な要素だと思います」小松社長が真面目と評する自社の社員に求めることは、他人の事を考えながら、自分の考えを伝えるといった基本を大切にすることだ。さらに、代表的な社風が他にもある。それはメリハリをしっかりと意識することだという。普段おっとりしている社員たちだが、有事の際には精一杯全力で頑張る。自分だけではなく、共に働く仲間や、取引先のお客様のことをしっかりと考えて行動することができるという部分も、自慢の社風の一つであると話す。「年に一回、OBも含めた食事会を開催するのですが、丸上製作所で働いて良かったといわれることが多いです。これからもそんな会社でありたいですね」と小松社長は語った。過去に所属した会社に負けない社内環境と、確かな技術
丸上製作所の独自性は「中途採用で入社した社員が退職しない」ことだそうだ。詳しく伺うと、「中途で入社した社員が定着するんです。社員に聞くと、どうやら居心地が良いんだそうです」と答えた。中途入社だと、過去に在籍してきた会社と、否が応でも比較してしまうものだが、他社に比べても居心地が良い環境が整っているのだろう。「自分はこれまで、ずっとこの会社にいたので、正直他社と比較するのは難しい部分もあるのですが、中途採用者の定着率に関する部分は、独自性として挙げられると思います」と話した小松社長。さらに技術に関して伺うと、「ばねは使用する材料が持つ性能以上のものはできないため、それをどうやって具現化するかを考えて製造しております。日本の製鋼技術は世界トップクラスなので、日本の材料を使って性能を表現できれば、世界に負けない製品を作れるという自負があります」という、世界を見据えて製造しているばねのクオリティを独自性に挙げた。お客様のニーズに寄り添いながら、より良い未来へ
明治から令和に渡り、地場の雄として活躍してきた丸上製作所の展望はどのようなものか。小松社長に伺うと、「弊社のお客様は、時代に合わせて変わっていくのですが、その流れに乗り遅れないようにしていくことですね」という答えが返ってきた。戦時中、国の施策で軍需工場としてばねを作り始めた時が、大きな転換期だったという。やがて戦争が終わり、ばねの需要は鉄道や船舶に移行していった。これまで時代のニーズに対応しながら発展してきた小松社長は、時代に合わせて変わるお客様に、しっかりと対応していくことを展望として挙げた。「あとは、ばねを組み込んで販売するといった、新しい事業も考えております。自社の製品にどうやって付加価値をつけていくかは、今後の大きなテーマですね。新しい時代へしっかりと継承していくこと、そのためには何が必要かを日々模索しながら、より良い未来に向かって進んでいきたいと思っています」という地場の雄らしい展望だ。
経営理念
整品
働く人
製造業として大切なことを忘れない。永続する丸上製作所の発展要因
ものづくりへのこだわりを教えて下さい
弊社で製造しているばねですが、ごまかしが効かないものなんです。ばねを加工するときのことを、「命を吹き込む」と形容するくらい、一つひとつのものに対して、きっちり作らなければいけません。慣れてきて油断したり、甘い考えで仕事に取り組むと、予期せぬ大けがに繋がったりしますから。私は、やるべきことをきちんとやれば、良いものができると思っています。そのためには、日々の体調管理も大切になりますし、ご家族の協力も必要不可欠になると思います。弊社の経営方針でもあるのですが、「従業員とその家族の幸せを追求する」という言葉があります。その先に、ものづくりを通じて社会に貢献するということが繋がっていると思います。どのようにノウハウを継承しているのですか
今でも日々改良していますが、丸上製作所では学ぶべき内容に関して、なるべく目で見れるものや、耳から入ってくる情報を大切にしながら学んでおります。昔のマニュアルは、文章で書いてあるものが多かったと思うのですが、目で見る写真や動画、耳から入る情報の方が理解が深まると考えております。実際に作業している社員が、自身の作業風景や詳細を動画にすることで、技術面で重要なポイントなどを具体的に示すことができていると感じています。そして、もう一つはどうやって仕事に興味を持たせるか。好きなことには貪欲になりますからね。押し付けではなく、社員それぞれが自発的に動くことで、より多くの学びに繋がると考えております。今後、どのような組織にしていきたいですか
難しいところではあるのですが、まず社員の考え方を、どのようにして同じ方向を向かせるかが大切になってきます。それが会社の発展には必要ですし、それにはまず、100人の社員がいたら中枢となる20人くらいを育てていき、いずれは全体を牽引していくような形を作っていきたいと思っています。あと、当たり前のことですが、社内の風通しは良くしていきたいと思います。そのために重要になってくるのはコミュニケーションだと考えています。朝、顔を合わせたらおはようから始まるような、体調を崩して休んでいた仲間に気遣いの言葉がかけられるような、そんな会社の良いところを、未来に受け継いでいきたいと思っています。野球とプライベート
両立を叶えてくれたのは丸上製作所
株式会社丸上製作所 総務部経理課
課長 芦田要
今回お話を伺った芦田課長は、丸上製作所の総務部経理課の課長として活躍をしている。幼少の頃から続けている野球は現在、大学のコーチを務めるまでに上達し、仕事とプライベートを両立している。ものづくりの聖地である愛知県で、製造業としてのキャリアをスタートさせた芦田課長は、外資系の自動車部品製造の世界から転職し、およそ12年前に丸上製作所に入社を決めた。製造現場から経理課へのキャリアチェンジを経て、現在は変わりゆく時代に順応しながら、会社の為に奮闘する日々を送っているという。今回は、芦田課長の経歴や夢、さらには現在の丸上製作所について感じていることを詳しく伺った。 伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
人生の転機。人と人との縁に導かれる
ご縁を大切にしたいという感情が、入社に至った背景にある。もともと板金加工や塗装、メカニックなどを一貫して行う、外資系の車両関連企業に勤めていた芦田課長はある時、転職を決意。自分に何が出来るのか、次のステージはどこかを考えたものの、現状の業務を中途半端にしたまま転職することに違和感があったため、在職中は業務に集中した。やがて新しい職場について考える時期が訪れた時、一つの出会いが。共通の知人を介して現在の常務に出会い、就職活動の相談をした際、「うちに来ればいい」と言葉をかけてもらった。ご縁を感じ、他の会社を探さずに即答で決断したという。「人と人との繋がりやご縁を大切にしたいんです」と答えた芦田課長。12年後の現在でも、その時抱いた感謝の気持ちを忘れず業務に取り組んでいる。共通の知人や常務に対する感謝、そして、これまでの様々な出会いに対する感謝の気持ちを大切にしながら、現在の業務に取り組んでいるという。会社のインフラを支える、縁の下の力持ち
「嘘や偽りなくお金の流れを表すこと、そして数字が合うこと。それがやりがいですね」やりがいについてそう答えた芦田課長。続けて「僕たちは間接部門で、直接売上を作る業務ではないので、どうやったら評価を受けられるか考えることもあります。でも、もともと数字は好きだし、経理になったときもその部分を考慮してもらったのかなと感じました」と語る。その一方で大変だと思うことも。「もちろん難題もあります。経理上の数字が合わないこととか。少額なら本来、損失として計上すればいいんですけど、1円でもずれていることが嫌で、1週間くらい合わない理由を考えたこともあります」数字が好きで、経理として会社のことを真剣に考えているからこそできる行動だ。数字が合わない時、解決するまで一緒に考えてくれた先輩の優しさや、自身が取り組んできた経験値があるからこそ、会社の基盤となる経理業務に確かなやりがいを感じているのだろう。丸上製作所の伝統を後進へ。試行錯誤の果てにある継承
責任を持たせてもらえるポジションに上がること。そしてもう一つは、現在の部下に対してしっかりと仕事を教えていくことだという芦田課長。「これまでの経験で大変だったこともたくさんありましたが、できる事なら部下には、大変な経験をさせたくないんです。そのためにどう教えたらいいかを日々考えています」という、共に働く仲間の将来を重んじる考えを持っているのだ。現在は、部下が業務内容をより理解できるように、注意点やポイントなどを文章や写真で見える化し、部下の成長をより良い形で促せるように尽力している。良いと思うことを行動に移し、ブラッシュアップを繰り返すことで、上司として部下に伝えたいことを的確に伝えている。丸上製作所が長きに渡り活躍する大きな理由として、一緒に働く仲間のことを考え行動する社員が多く存在することが挙げられるだろう。社風をあらわすような夢を伺った。
働く仲間
社屋(工場外観)
製品
進化を続けていく会社内部の魅力とは
芦田課長から見た小松社長について教えてください
小松社長はとてもパワフルな人ですね。普段もすごくフレンドリーに接してくれて、社員に対する些細な声掛けなどのコミュニケーションを大切にする方です。普通の組織だと、社長が言いたいことを言うのが一般的だと思いますが、小松社長は社長という立場なのに偉ぶらない方なんです。ものごとに対して率先して取り組むのですが、部下に対して不思議と指示は少ないんです。すべてを指示するよりも、プロセスについて具体的に考えることが大切で、経験して考えるということが成長するうえで必要だと考えているからでしょう。時には厳しく指導をされることもありますが、社長を見ていると、本当に社員の成長を考えてくれているんだなと感じます。社員間のコミュニケーションや雰囲気はどのような感じですか
社内の雰囲気は、全体的におっとりとした穏やかな雰囲気ですね。中には活発な社員もいますが、オンとオフの切り替えができる社員が多いと思います。会社の仲間とのコミュニケーションをとる機会はいくつかあります。一つはボーリング大会でもう一つは周年パーティーです。業務の関係で、普段はなかなか全員で集まることが難しいのですが、定期的に行われるイベントでコミュニケーションを取るようにしています。パーティーには社員の家族も参加するんですよ。普段の業務に真剣に取り組めるのは、家族の支えがあってこそという小松社長の考えがあり、自分達社員も楽しみますが、社員の家族にも感謝をするという意味合いがある、重要な取り組みを行っています。丸上製作所の良いところを教えてください
会社の良いところは、働きやすくて働き甲斐があるところですね。頑張れば頑張った分還元されることもそうですが、社員のプライベートも大切にしてくれる会社だと感じています。私はプライベートで野球に携わっているのですが、仕事との両立をすごく考えてもらっています。普通は仕事が最優先で、空いた時間をプライベートに充てると思いますが、両方を認めてもらえるんです。社員それぞれに大切にしたい趣味や時間があると思いますが、やりたいと思うことを認めてもらえる環境なので、普段の仕事にもより気持ちが入ってきます。働くということに対して、本当に充実した気持ちで向き合えるということが、働き甲斐があると強く感じる部分ですね。株式会社丸上製作所
1906年 丸上小松製糸所として創業
1944年 丸上製作所として改組し、ばね製造に転換
1945年 鉄道車輌用ばねの製作に着手
1955年 運輪大臣よりJISF0503(船舶機関部コイルばね)の表示許可を受け、JIS表示許可工場となる
1956年 株式会社丸上製作所に組織を変更する。資本金480万円
1964年 第1期700平方米の鉄骨向上を建設。西独キーザリング社よりセンターレスピーリングマシンを購入し、棒鋼加工部門を増強
1982年 特品、線ばね工場682平方米およびばね塗装工場250平方米を新設し、工場周辺に環境緑地帯を設ける
1992年 コンピューターによる部門間オンライン化
2005年 ISO9001:2000の認定取得
2010年 豊川市御津町に本社及び新工場建設移転 現在に至る
2018年 地域未来牽引企業に選定
1944年 丸上製作所として改組し、ばね製造に転換
1945年 鉄道車輌用ばねの製作に着手
1955年 運輪大臣よりJISF0503(船舶機関部コイルばね)の表示許可を受け、JIS表示許可工場となる
1956年 株式会社丸上製作所に組織を変更する。資本金480万円
1964年 第1期700平方米の鉄骨向上を建設。西独キーザリング社よりセンターレスピーリングマシンを購入し、棒鋼加工部門を増強
1982年 特品、線ばね工場682平方米およびばね塗装工場250平方米を新設し、工場周辺に環境緑地帯を設ける
1992年 コンピューターによる部門間オンライン化
2005年 ISO9001:2000の認定取得
2010年 豊川市御津町に本社及び新工場建設移転 現在に至る
2018年 地域未来牽引企業に選定
創業年(設立年) | 1906年 |
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事業内容 | ・スプリング、コイルバネ製造 ・締結装置部品製造 ・磨棒鋼製造、加工 |
所在地 | 愛知県豊川市御津町佐脇浜二号地1‐19 |
資本金 | 3,000万円 |
従業員数 | 86名 |
会社URL |
監修企業からのコメント
この度は、取材をさせていただきましてありがとうございました。明治から培ってきた「ばね」に関する技術や思い、そしてそれを継承してきた丸上製作所様を知ることができて、大変貴重な経験となりました。変わりゆく時代の中で、「ばね」というニッチで必要不可欠な製品を製造し続けていく丸上製作所様の今後の活躍が楽しみです。日本のインフラを支える製品を今後も宜しくお願い致します。
掲載企業からのコメント
この度は弊社を取材をしていただきありがとうございました。
直接お客様の手元に届くことが少ないばねですが、さまざまなところで縁の下の力持ちになっていると自負しております。やるべきことを真剣にやることで、これからも世界に負けない製品を作り続けていきます。今後も、「従業員とその家族の幸せを追求」しながら活躍していく丸上製作所を楽しみにしていて下さい。