株式会社ナガセ 代表取締役 長瀬雄一郎
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日本でも希少な「ヘラ絞り」の技術を基盤としながら、板金加工から溶接、レーザー加工、組み立て、検査など、板が製品になるまでを一貫生産できる「金属加工のデパート」として、3代にわたり発展を続けてきた株式会社ナガセ。コップや鍋などの日用品から、半導体製造装置部品、食品機器、鉄道部品、航空宇宙分野ではロケットの先端と、円形や球形にまつわる製品を広く取り扱っている。「手業の最後の砦になる」というビジョンを掲げ、ヘラ絞りという希少技術を継承しながらも先端技術を積極的に導入し、技術の融合を目指す同社。今回は同社が歩んできた軌跡と今後の展望について、3代目である長瀬社長にお話を伺った。
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
社長自ら実践し、全社員が"信頼される人"を目指す
長瀬社長に社風を伺うと「風通しが良く、社員が自由に意見を言いやすい環境がある」と答えてくれた。この社風は一朝一夕で築かれてきたものではない。長瀬社長が入社した12年前に目の当たりにしたのは、社員が不満を言えずにいる環境だった。この状況を脱却するために、まず自らが信頼され、何でも言いやすい存在になろう、そして自ら社員を信頼しようと決意した。そこから、社員との誠実なコミュニケーションや誰よりも朝早く出社するといった行動を実践した。また、自ら社員を信頼し、任せることを心掛けるなど、社長自ら行動してきた結果、社員との信頼関係が築かれ、今では自由に意見を述べ、やりたいことに挑戦できる環境が整っている。今後は、信頼される人があふれる会社を目指していきたいという。「まだ先は長いですね」と冗談交じりに話す長瀬社長からは、現状に満足せず進化を繰り返していこうという決意の表れが見えた。職人技(ローテク)と先端技術(ハイテク)の融合
「手業の最後の砦になる」というビジョンのもと、希少なヘラ絞りをはじめとした金属加工による一貫生産体制を確立し、日用品から航空宇宙分野まで幅広い製品を取り扱いながら手業と先端技術の融合に取り組んでいる同社。しかし、長瀬社長は同社の強みや独自性について、「未だ模索中ですね」と話す。そこには「唯一無二でこそ本当の強みである」という長瀬社長の考えがあった。職人による手業の技術も先端技術の導入も、同社と同じように取り組んでいる企業が存在するからこそ、その中で唯一無二の存在を目指していきたいのだという。しかし、職人技(ローテク)と先端技術(ハイテク)を融合し、技術を常に追求する姿勢は、新たな価値を創出し続ける同社の独自性と言えるだろう。また制度面では、社員のプライベートの充実、そして仕事における創造力や技術力の向上を促すという目的で社員が会社の備品を自らの趣味等に活用できるというユニークな体制も整備しており、同社の独自性が光っている。人材育成の仕組み化で、さらなる成長を目指す
ナガセの今後の展望について問うと「人ですね。人の育成が一番大切です」と答えてくれた。現在、業界全体で自動化や先端技術が進んでいる影響で手業を用いた技術が失われつつある。そのような中で、「希少性のある手業の技術」と「先端技術の知識」の両面において、優れた人材を育成し続けていきたいという。そのためにまず同社が取り組んでいるのは、今まで現場中心で教えていた社員教育を仕組み化すること。次に、中堅社員のサポート。技術力だけでなく、役職者に必要なメンタリティなどの学習の機会を設けるといった等級別の研修を仕組み化することも見据えている。これは、将来的に管理職や役員を目指す社員をサポートするための仕組みなのだという。来年で創業80周年を迎える同社。今後も「手業の最後の砦」であるために、そして会社を永続、発展させていくために、常に進化を続けていく。_①.png)
希少な技術である
へら絞り
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へら絞りの技術を基盤に
幅広い製品を手掛ける
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新本社工場
"人"を大切に、希少な技術を残していく
今後の事業の展望について教えてください。
半導体事業、航空宇宙防衛事業、医療事業の3本の柱を強化していきたいと思っています。半導体事業については現状お客様のニーズも増えていますし、今後も確実に伸びていく事業だと思っています。航空宇宙防衛の分野は、やっぱり夢がありますよね(笑)。だから、その伸びている業界を支えつつ、先端技術の需要にも応えていける会社にしていきたいです。医療分野においては、そもそも医療分野に対応できる技術を持つ会社が少なくなってきていますが、ナガセの技術であれば高い価値を提供することができると思っています。その3つの柱を中心に、職人技(ローテク)と先端技術(ハイテク)を融合させながらものづくりを支えられるような会社を目指しています。今後注力していきたいことを教えてください。
”人”一択ですね。製造部門だけではなく営業や管理部門も含めて適正のある人を採用していかなければならないですし、社内でも育成していかなければならないと思っています。創業時から”人”を常に大切にし続けていて、やる気がある人であれば未経験でも採用して育成してきました。初代がヘラ絞りという希少な技術を取り扱うと決めた先見の明と、その技術を2代目が積極的に広めてきた実績があったからこそ、今のナガセはここまで発展できたのだと思います。だからこそ自分は3代目として、先代が残してきた職人技を継承していくために、社員が安心して長く働けるような体制をつくってきました。これからも社員一人ひとりの成長を支え、会社のさらなる発展に向け邁進してまいります。理想の経営者像はありますか?
技術や人間関係、知識など、様々な面でまずは信頼される人になることが重要だと思います。そこで私は、会社のトップとしてまずは自分が信頼される人間になろうと、社長に就任して最初の3年間は誰よりも早く出社しようと決意し、継続してきました。特に会社で起こるほとんどの問題は人間関係に起因します。そんな時、自分をはじめとした上の立場の人間と社員の間に信頼関係があれば、相談しやすくなり、意見も言いやすくなります。私は会社にとって、現場で働いてくれている社員が最も大切だと考えています。そのため、より働きやすい会社をつくっていくために自らの時間を使うように心がけています。_トプ画.png)
体全体でものづくりを楽しむ
株式会社ナガセ 第一製造部主任 阿部智之
ヘラ絞り、板金、溶接、検査の4部門からなる同社において、一番最初の工程がヘラ絞りだ。ヘラ絞りとは、高速回転する金属へ、加工したい金属をぶつけて、伸ばす加工をする工程のことだ。このヘラ絞りの精度が甘いと、後工程の作業がすべて台無しになってしまうため極めて重要な工程である。そのヘラ絞りの重責を、職人の世界ではまだまだひよっこ扱いされてもおかしくない10年という経験で、主担当として担っているのが阿部さんだ。創業当時から同社を支えてきた熟練の職人達が引退をしていく中で、そのバトンを引き継いだ阿部さんは、日々ヘラ絞り加工に向き合いながら、入社してくる若き職人の卵達を先輩として指導している。そんな阿部さんのやりがいや夢、そして後輩達への想いを伺った。伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
ヘラ絞りという職人の世界で、ものづくりを深く味わう
工業高校に通い、ものづくりを学んだ阿部さん。せっかく学んだものづくりに少しでも携わる仕事に就きたいと就職先を探していると、「ヘラ絞り」という、工業高校においても聞いたことがない仕事があることを知った。体全体を使いながらものづくりに打ち込む職人達の姿を見て、やってみたいと考えた阿部さんは、自動機械よりも職人技が要求される"手絞り"を中心に扱う同社へ入社することを決意した。まさにものづくりの職人世界へ飛び込んだ阿部さんだったが、当初は体全体を使って微妙な角度や力加減をコントロールする同社の手絞りの仕事の難しさに戸惑う場面も多かった。しかし、創業の時代から同社で腕を磨いてきた熟練の職人達の技術を必死で盗み取って学んだ阿部さん。「何もできない自分から、色んなことができるようになって、楽しかったですね」今では体に染みついた感覚で、体が自然と動くのだという。同社に入社すれば、阿部さんのように、ものづくりに携わる職人として活躍することができるだろう。体全体でものづくりを楽しむ ヘラ絞りにおける手絞り加工の魅力
「体全体でものづくりを楽しんでいるんです」阿部さんは同社の仕事の魅力をこのように表現した。機械に頼り切るわけでもなく、目が疲れそうな細かな手先の作業でもなく、ヘラ絞りの"手絞り"はまさに体全体を使って金属の重心や角度をコントロールし、1分間に1600回転する金属に、絞りをかけたい金属を当てることで加工する技術である。神経を研ぎ澄ませ、全身全霊をぶつけるからこそ、疲れもあるが、それよりもやり遂げた時の達成感は大きいものとなる。加えて、非常に繊細な重心や角度のコントロールが要求されるため、職人のレベルによって完成物の品質は大きく異なってしまう。その良し悪しは一目瞭然のため、できていない時はとても悔しい思いをするが、上手くいくと大きな自信になり、「次はもっと上手くやってやろう」という充実感につながる。ものづくりの楽しさを、体全体で感じ取ることができるヘラ絞りの手絞り加工の仕事。ものづくりへ少しでも興味がある方は、一度門を叩いてみるのはいかがだろうか。一番の職人として、そして、一人の先輩として
「一番になりたいな、という気持ちはあります」優し気な阿部さんの眼光が、一瞬鋭くなる。せっかく職人の世界へ飛び込んで、努力を積み重ねて一人前の職人へと成長することができたのだから、周囲の誰からも「あの技術だったら阿部さんが一番だよね」と認められるくらいには、上を目指さないともったいない。「常に終わりがないとも思っていますので、70歳ほどで完璧なベテランになることができていたら良いですね」と語るほど奥深い世界で、阿部さんは研鑽を積んでいる。また、「一人ひとりがもっと高い水準のプロとなり、お互いをカバーし合うことができたら、より良い仕事ができると思います」と会社の未来像も描いている。最近では、若い後輩もたくさん入社してきており、昔の自分を思い出すという阿部さん。「まずは彼らに、ヘラ絞りの楽しさを教えていきたいですね」自らの、そして会社の輝かしい未来を築くために、阿部さんは今日もヘラ絞りと、そして未来の職人と向き合う。_①.png)
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オフィスコンビニ
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伝統の技術を次の世代へ繋げる
御社のヘラ絞り業界における特徴を教えてください
ヘラ絞り加工において、3本の指に入る高い技術力を持っていると言っていただくこともありますね。やはり70年も技術を積み重ねてきた結果でしょうか。そして、ヘラ加工の中でも手絞りを中心に扱っているということも特徴だと思います。 手絞りと自動機を比べると、お客様の要望に細かく対応できるのが手絞りの良さですね。まずは手絞りの方が小回りが利きますよね。自動機の場合は色々試したくとも、プログラミングなどをしなければそれ通りには加工することはできませんが、手絞りなら職人に「こうしたい」と言えばそれですぐに加工できてしまいます。また、手絞りの方が繊細な加工ができるので、薄い、繊細な素材は手絞りの方が良いですね。後輩へアドバイスをお願いします
高校を卒業して一気に社会人となると、私もそうでしたが、右も左もわからないですよね。職人の世界は 厳しいこともあるかもしれませんが、我慢強さと向上心があればどうにでもなっていくと思います。後輩へのアドバイスとしては、緊張している中でも色々と先輩に話を聞きにいってほしいですね。最近の若い子の中には、例えば休憩中に1人で携帯ばかりいじって過ごしている方もいますが、話しかけづらいと思っても話しかけたりとか、そういう一歩を踏み出してほしいですね。わからなくなったら、先輩の方が知識も経験も上なわけですから、しっかりとそれを吸収してどんどん伸びていってほしいなという思いでいます。後輩と接する上で意識していることは何ですか
私が入社したころは、近しい年齢の人はほとんどいませんでした。なので、入社してから2、3年後に若い後輩が入ってきてくれたことは、とても嬉しかったことを覚えています。ほとんど何も知らない状態で入社してくるので、きちんと教えてあげたいな、と思っています。後輩に接する上でで意識していることは、必要以上に厳しくしすぎないようにすることですね。「何でできないんだよ」と怒るのではなくて、できるようになるためにはどうすれば良いのかと考えるようにしています。あとは、職人の中には口数が少なくて寡黙な方も多いのですが、私は皆で楽しく仕事をすることを非常に大切に思っているので、後輩とも一緒に食事に出かけたりなど、コミュニケーションを積極的にとっていきたいと考えています。株式会社ナガセ
1945年
東京都昭島市にて創業
1968年
有限会社長瀬絞工場に組織変更
1980年
工場を武蔵村山市に移転
1985年
板金加工工場を増設
1998年
株式会社ナガセに商号変更
2011年
本社工場の隣接地を購入し敷地2300坪となる
2013年
関西営業所開設
2015年
創業70周年
2017年
本社工場竣工
東京都昭島市にて創業
1968年
有限会社長瀬絞工場に組織変更
1980年
工場を武蔵村山市に移転
1985年
板金加工工場を増設
1998年
株式会社ナガセに商号変更
2011年
本社工場の隣接地を購入し敷地2300坪となる
2013年
関西営業所開設
2015年
創業70周年
2017年
本社工場竣工
創業年(設立年) | 1945年 |
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事業内容 | ・金属のヘラ絞り加工 ・精密板金加工 ・機械加工 |
所在地 | 東京都武蔵村山市伊奈平3-21-3 |
資本金 | 1,200万円 |
従業員数 | 78名 |
会社URL |
監修企業からのコメント
職人の熟練された加工技術は、最新の機械をもってしても再現することはできないそうです。記事に使われている阿部さんの写真は、実際にヘラ絞り加工を行っている写真ですが、撮影の際に直接拝見したヘラ絞りの職人技は、まさに圧巻でした。100年企業へ向けて高みを目指し続ける同社に、今後も目が離せません。
掲載企業からのコメント
取材を通じて、私の大切にしているイズム、考え方、ポリシーを改めて社外、そして社内へ発信することができ、大変いい機会でした。この記事を通じて、より多くの方に弊社の魅力を感じてもらうことができれば幸いです。