一流を知り、お客様に心地よさを提供する
丹波屋株式会社 代表取締役社長 金井直樹
日本橋横山町の老舗問屋である丹波屋。1690年にキセル問屋として創業して以来、320年以上の歴史を紡ぎ、現在は生活雑貨の問屋を営む。 創業時は江戸のキセル問屋として創業したが、その歴史は決して平坦ではなかった。明治27年、政府により葉タバコ専売令が施行された際には、タバコ販売における利益が減少。当時日本に普及しつつあった、歯ブラシを扱うようになる。そして大きな転換となったのが現会長の時代。1972年の社長交代と新社屋完成を期に思い切った業態の変換を行い、生活雑貨・輸入雑貨の問屋に生まれ変わった。当時「荒物」と呼ばれていた、台所用品の世界に海外からの輸入品を持ち込み、新たなくらしを提案したと同時に、「雑貨」という言葉を作ったのが丹波屋とも言われている。 今後も新たなライフスタイルを創造する企業として、新たな業態への進出をはじめ、固定概念にとらわれずに新たなくらしを提案する企業であり続けることを目指している。 今回は、15代目社長、金井直樹社長に、丹波屋の歩み、そして、これからの丹波屋が目指すところについて伺った。
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
一流を知り、「心地よさ」を提供できる社員を育てる
丹波屋には、エンドユーザー様に心地よい時間を提案できる会社であるために、社員一人ひとりが「一流を見て、一流から学ぶこと」を重視する社風がある。 丹波屋は「美しい生活(くらし)を広める」を基本テーマに掲げ、創業以来、商品そのものだけではなく、商品を通じた心地よさ・豊かさを提供し続けてきた企業である。 「豊かさ」の提供を支える根幹は、商品を実際に選び、お客様に販売する社員だ。一人ひとりの社員が一流を知っているからこそ心地よい時間・空間が提案できる、という考えから、社員が一流に触れ、その経験を通じて、感性を伸ばすことを重視しているのである。 かつて戦後の間もないころ、現会長がパリで最先端の文化やライフスタイルに触れた経験を生かし、輸入雑貨、生活雑貨の業界への転換に舵を切ったことに始まり、若手社員を海外に連れて行っては、実際に一流のおもてなしや心遣いを経験させて教育していた。時代は変わり、扱う商品が変わっても、問屋における社員の役割は変わらない。これからも丹波屋は一流を知る問屋であり続ける。お客様の喜びのために手間暇をかける
通りの両側に、衣料品問屋、生活用品問屋がずらりと立ち並ぶ日本橋横山町。同業他社がひしめく環境において、丹波屋がお客様から選ばれ続けるために選択してきた戦略は、「手間暇をかける」こと、「あえて非効率なこと」をすること。問屋の常識の逆を行っている。 事実、売場を見ても手間暇がかかっている。例えば、商品棚に一つひとつ丁寧に商品がディスプレイされているうえ、中には手書きのPOPがついている商品もある。問屋でありながら、さながら雑貨店の売り場のようだ。一般的な問屋が人件費をはじめとしたコストをかけないのに対し、丹波屋では手間暇をかけ、お客様が楽しくなる、足を運びたくなる売場作りを行っている。全ては、お客様に愉しんでいただく為に。 加えて、売場で直接お客様とやり取りをし、お客様のことを知り尽くしている売場担当者が商品の仕入れを行っている。一般的な問屋がバイヤーと販売担当を分業しているのと対照的だ。人の手を加えることで商品の価値を高め、お客様に選ばれる。他社に勝る。それが丹波屋の独自性だ。サービスとエンターテイメントの間の「快」を提供する企業へ
丹波屋が目指すのは、サービスとエンターテイメントの間にある、新たな心地よさを提供する企業。かつてはキセルを通じて物質的な豊かさを提供。そして、今は、輸入雑貨で新たなライフスタイルという「夢やあこがれ」を提供してきた。常に半歩先の新たな価値観を生み出すことで、お客様に選ばれ続けてきたのだ。 問屋業が変革を迫られている今、丹波屋も変革のタイミングを迎えている。その中で、丹波屋が次に提供する価値、それがサービスとエンターテイメントの間にある、新たな価値観である。つまり、お客様に対して、気遣いと喜びを提供する会社であるということだ。例えば、サービスの一流である京都の俵屋、エンターテイメントの一流であるディズニーランド。そうした一流からヒントを得て「ここまでやるか」という感動をお客様に提供できる企業に生まれ変わろうと舵を切った。300年にわたり培ってきた、顧客とのつながり、情報というリソースと社員一人ひとりの力を結集し、信頼や絆のような、人と人との結びつきの中にある、新しい心地よさを追求する準備は整っている。
雑貨店のようなディスプレイ
日本では当社だけ!!の輸入雑貨
大正13年に使用していた看板
創業300年を超える丹波屋の「人」に対する想い
-人材育成に力を入れている理由を教えてください
商品に、人による付加価値を加えることが、私たちがお客様に選ばれている理由です。 丹波屋における社員の役割は、商品が持つストーリー・背景、作り手の想いを伝え、価値を高めることです。だから、スタッフ一人ひとりには、「心地よさ」を深く理解し、それをお客様に与えられる人物であってほしいのです。心地よさとは、例えば、親切、丁寧、機敏な対応といった部分です。ですから、商品の取り扱い一つをとっても、商品を投げたり、乱雑に積み上げたりするのではなく、親切に丁寧に、スピーディーにできるように、社員一人ひとりのレベルを上げていくことが必要不可欠です。そのために、上質ってなんだろう、親切丁寧ってなんだろうと常に考えてもらうようにしています。将来的には、入り口での受付からお見送りまで徹底して、お客様に「あの心地よさ溢れる丹波屋に行くんだ」という気持ちになってもらえるよう、人材の育成を行っています。―社員に期待することを教えてください
社員には、もっと身の回りのもの一つひとつに関心を持ってもらいたいです。その入り口として、その気になって、なんでも初めて見るつもりで見るように心掛けてもらっています。興味のあることは知りたくなって、自ら積極的に調べ、知識の幅が広がります。そして、幅が広がると、良し悪しの判断ができるようになります。つまり、身の回りのものに関心を持つことが、商品の選択眼を育てることに繋がるのです。仕事の中でも、良いものがわかるからこそ、商品のレイアウトも変わって、臨場感の溢れる、お客様を魅了する演出を考えられるようになります。それが他社との差別化のポイントになるのです。何ごとにも関心を持ってもらうことで、他社の社員では見つけられない、商品の面白さ、魅力を見出すことのできる社員になってほしいですね。―これからの若い世代に伝えたいことはありますか
わからないことを素直に「わからない」と言える素直さを持っていてほしいです。 若い人の中にも、知識ばかりあって批判的な人と、人の話を素直に聞いてどんどん吸収する人がいると思います。一緒に仕事をしていて気持ち良いのは、わからないことがあると目の色を変えて熱心に聞くタイプの人。若い人たちには、「その人は自分よりも知っているから、話したら成長できる」という姿勢、「教わってないからできません」ではなくて「わからないから教えて下さい」というスタンスを大切にしてもらいたいですね。 批判的では学べる量も少ないですし、成長のスピードも遅くなってしまいます。最初の3年間をどういう心で過ごすかで、雲泥の差があらわれます。素直さを大切に「わからないことは宝だ」という気持ちを持って、入社してからの3年間を過ごしてほしいですね。メーカーの想いをお客様へとつなぐ
丹波屋株式会社 営業4課リーダー 中村幸代
丹波屋の店舗は、地下1階から4階までフロアごとにそれぞれ違うジャンルの商品が置かれている。地下1階は輸入菓子・食品、1階はファッション雑貨、2階は生活雑貨と和小物。3階はファッションとインテリア雑貨、直輸入雑貨のフロアだ。そして今回お話を伺った中村さんは、4階、ステーショナリー、ベビー&キッズ用品のフロアの責任者である。若くしてフロアの責任者を任される実力は折り紙付き。仕入れを担当する輸入文具に関しては、年間で15000アイテムを販売するほど。休日は雑貨店をまわり、商品の研究を行うなど、お客様の心をつかむ準備に余念がない。丹波屋マインドの体現者である中村さんに、売れる商品の選び方、そして、丹波屋の仕入れの特徴についてお話を伺った。伝統の承継と挑戦の未来を担う社員の思い
あらゆるメーカーの商品をお客様に紹介できる仕事
前職は雑貨店に勤めていた中村さん。問屋の魅力を「一つのメーカーだけでなく、あらゆるメーカーの商品を紹介できること」だと語る。 現在、丹波屋の4階フロアを任されている中村さんは、専門学校でグラフィックデザインを学んだのち、もともと好きだった雑貨の道に進んだ。問屋との出会いは、雑貨店でスタッフとして働いていた時だという。雑貨店での勤務を経て、商品を直接エンドユーザー様に販売するよりも、店舗に商品を紹介する方が向いていると考えた中村さん。メーカーに転職するか問屋に転職するか、悩んだ末、あらゆるメーカーの商品の中から、それぞれの雑貨店にあった商品を紹介できることに魅力を感じ、問屋への転職を選択した。いくつかの問屋の中から、当時の職場にも商品を卸していた丹波屋の求人を見つけ、応募したのが、入社の経緯だ。お客様とメーカー、双方から感謝される仕事
問屋の仕事の一つは、お客様の店舗でヒットする商品を仕入れ、販売すること。 そしてもう一つは、作り手であるメーカーの想いを汲み取り、お客様に伝え、想いそのままに店舗で販売してもらうこと。その双方を両立させること、それこそが丹波屋の仕事のやりがいだと中村さんは言う。そのためには、商品の選定、そして、店舗での販売方法の提案が生命線となる。 仕入れの際には、お客様の店舗のテイストにあった売れる商品を選択することはもちろん、特徴のある商品を提案して、積極的に店舗の可能性を広げていく。また、作り手が商品に込めた世界観やブランドイメージを守るため、商品一品をつまみ食いするのではなく、シリーズを揃えて仕入れ、お客様店舗の売場をイメージしたレイアウトを丹波屋の店内に展開する。こうした取り組みが、お客様からも「売り場のイメージがつく」と評判で、メーカーとお客様の双方に喜んでいただけているのだ。今日も、商品を通じて、メーカーと雑貨店の心をつなぐ。これまで以上に多くの雑貨店に「丹波屋」を知ってもらいたい
生活雑貨の問屋として、業界では高い知名度を持つ丹波屋。しかし、特に地方の雑貨店の中にはまだ、丹波屋を知らないオーナーの方がいるそうだ。中村さんの願いは、丹波屋の良い評判が広まり、少しでも多くの雑貨店に「こんな問屋があるのか」と丹波屋のことを知ってもらうことである。 ライバルとなる他店に自分の仕入先を教えたくないという気持ちから、既存のお客様からの紹介は少ないというが、より多くのお客様を獲得するために必要不可欠なことがある。それは、他の問屋との「差別化」によって、お客様が紹介したくなるようなお店を作ることだ。 他の問屋とは違う、唯一無二の店舗づくりに向けて、中村さんが取り組んでいることの一つが商品の入れ替えと売場変更だ。お客様が来店されるたびに、見たことのない商品と出会えることをコンセプトとし、現状の売れ筋商品に甘んじることなく、次のヒット商品を生み出す。その行動が必ずや、丹波屋のファンを増やしていくに違いない。
和雑貨のディスプレイ
4階では作家さんの商品も扱う
長靴のペン立てはロングセラーに!
丹波屋の強み、仕入れの極意に迫る
-丹波屋の強みは何ですか
お客様に一番言っていただけるのは、「お店で売れるイメージが湧く!」ということです。例えば、パスケースを仕入れるとして、丹波屋では、メーカーさんが10色展開しているうちの「売れる」5色を仕入れています。他の問屋様が10色すべてを仕入れるのに対して、「売れる」ものだけを選別できる力が丹波屋の担当者にはあります。売場面積が決まっている中で仕入れる種類を半分にできれば、空いたスペースで、パスケースだけでなく、例えば名刺入れなど同一シリーズの他の商品を網羅して販売することもできます。 さらに、商品の陳列も「他にはない!」とお客様から評価していただけている点です。丹波屋では、お客様がご自身のお店での陳列イメージを持てるように、商品をコーナー化して陳列しています。スタッフ一人ひとりが仕入れの力を持ち、お客様のお店での売れ筋、売れるイメージを持っていることが丹波屋の強みですね。―仕入れのコツについて教えてください
第一にお客様のお店のテイストを分かっているということです。実際にお客様のお店を訪問してイメージを掴むということもありますし、普段購入されている商品から、あの方にはこの商品が絶対にはまるなというのが経験と慣れで分かってくるんです。さらに、社員が雑貨好きであることも一つのポイントだと思います。社員は入社前から雑貨が好きという人が多いですし、有名雑貨店にあるような商品よりも万人受けはしないようなコアな雑貨が好きな人が多いので、「この商品は売れる、そして、この商品はコアだけど、きっといいアクセントになる」という感覚を持っています。 私自身は、輸入文具の担当なのですが、休みの日には、趣味と実益を兼ねて雑貨店を見に行っては「あ、この商品はあの方のお店にはまるかもしれない」と常にアンテナを張り巡らして商品を見るようにしています。―最近、上手くいった仕入れについて教えてください
長靴のミニチュアのペン立てです。休みの日に、雑貨店さんを見ているときに見つけて「これは売れる」と思いました。それで、メーカーさんの名前を調べたところ、そのペン立てとキーホルダー2アイテムしか作っていないメーカーさんだということを知ったんです。問屋には仕入れの最低金額というのがあって、2アイテムだと一つひとつを大量に仕入れなければ、最低金額に届きません。ペン立て自体、1000円しない商品なので大量仕入れには勇気が必要でしたが、自分の勘を信じて、仕入れました。その後、実はその商品が、イギリス王室のエリザベス女王が会長を務める英国ガーデニング協会が出しているものだということが分かり、そういう付加価値情報が面白いと売れるので「きっと売れる」と思っていました。 今では、年間で1000個以上売れるロングセラー商品になりました。来店されるお客様からも「問屋さんでこの商品扱ってるの初めて見た!」と言っていただけ、ヒット仕入れだと思っています。丹波屋株式会社
1690年 江戸横山町(現在地)に煙管(きせる)問屋、
丹波屋を初代金井五郎兵衛が創業
1948年 株式会社丹波屋に改組 資本金300万円
1969年 資本金を1,000万円に増資
1973年 取扱商品を喫煙具よりファッション雑貨に全面変更。
現在の基盤となる
1990年 創立300周年。金井五郎兵衛14代襲名披露
2005年 創立315年を迎える
2014年 10月 代表取締役社長 金井直樹就任
丹波屋を初代金井五郎兵衛が創業
1948年 株式会社丹波屋に改組 資本金300万円
1969年 資本金を1,000万円に増資
1973年 取扱商品を喫煙具よりファッション雑貨に全面変更。
現在の基盤となる
1990年 創立300周年。金井五郎兵衛14代襲名披露
2005年 創立315年を迎える
2014年 10月 代表取締役社長 金井直樹就任
創業年(設立年) | 1690年(1948年) |
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事業内容 | ファッション・生活雑貨 卸売商社 |
所在地 | 東京都中央区日本橋横山町7番地17号 |
資本金 | 1,000万円 |
従業員数 | 59名 |
会社URL |
監修企業からのコメント
1973年、現会長が時代を先読みし業態転換を行い、新たな価値を提供できる企業へ変貌させました。40年後の今、新たな時代の到来とともに、丹波屋は再び大きな転換期を迎えています。現在丹波屋は、前会長の後を継ぎ、新たに社長に就任された金井社長のもと、新たな会社作りの準備を進めています。金井社長のお話しの中からも、若い社員とともに、全社一丸となって、新たな丹波屋を作っていこうとする熱意を感じました。
掲載企業からのコメント
まさに、思ったことが口から出たという感じでした。取材を通じて、普段考えていることが整理されました。また、社員と時間と場の共有することが足りてなかったなということに気付かせてもらいました。これから社員と一緒になってやっていこうと改めて思いました。