困っている人がいる、 だから商品をつくりたい
ファイン株式会社 代表取締役社長 清水直子
空前の健康ブームを迎える昨今。「健康」「体に良いもの」そういった言葉は街中を賑わし、"安かろう悪かろう"ではなく”本当に良いもの”を求める人が増えている。では普段、何気なく使う歯ブラシにその意識を持っている人がいるのだろうか。実は市場に溢れる歯ブラシは石油由来の製品が大半を占める。一般的な人にとって、それはさほど大きな問題ではないのかもしれない。だが石油製品に敏感な人にとってそれは死活問題。歯磨き一つで苦しむのだ。その数少ない、でも必死の想いに応える会社がある。それがファイン株式会社。同社は“体が喜ぶ”商品をコンセプトに掲げ、本当に体に良い商品づくりにただひたすらにこだわってきた。その同社の姿勢は数多くの根強いファンを生み出し、半世紀を越えた今、海を越え海外からも評判があがるほどにまでなった。今回は3代目の清水社長への取材を通じて、ファインならではのものづくりへの想いに迫る。
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
より良い商品をつくるために、社内一丸
社員一人ひとりが意識を高く持ち、「どうやって世の中のためになるものをつくっていこうか」と自問自答を繰り返しながら商品づくりを行う風景は同社にとって当たり前の日常である。例えば部長であっても紙粘土で原型をつくりアイデアを提案するなど、一人ひとりがものづくりに対して高い意識を持ち、向き合っていることが印象的だ。 また一人ひとりの意識の高さはもちろんのこと、皆で意見を出し合いながら商品づくりを行うことも同社の特徴。例えばマインドマップを用いて、各人の意見を盛り込みながら商品づくりを行うのである。そしてその社員の動きの潤滑剤となっているのが社長。社長が社員の間に入ることで、時にお互いのコミュニケーションを取り持ち、スピード感をつくっていく。 より良い商品づくりのためにと、一人ひとりが高い意識を持ち、会社一丸となって動いていく、それがファインが素晴らしい商品を数多く生み出す原動力になっているに違いない。他企業では応えられない声に応える
単に売上を上げるためだけに商品をつくるのではなく、他企業では応えられない利用者からの声を汲み取り、良いものをつくる同社の姿勢は多くの根強いファンを獲得してきた。例えば、同社のシンボルである竹の歯ブラシ。この歯ブラシの柄は環境に配慮した石油製品不使用の商品、化学物質過敏症の方にとって必要不可欠なのだ。だが歯ブラシ市場は石油製品由来のものが圧倒し、また一時期、製品トラブルにも見舞われ販売中止を検討する事態に至った。その時に一本の電話が社内に響く『ファインの歯ブラシがなくなったら何を使ったらいいの?1度しか使えなくてもいいから在庫を全部ください』。化学物質過敏症で苦しむ方には同社の歯ブラシだけが頼り。その目の前の苦しむ人のために、商品開発を再開した。そして現在では、大手企業が大半を占める市場の中でもこの手の商品シェアはほぼ100%にもなる。 利用者からの切実な声に応えていく、同社の商品はこれからも利用者にとってなくてはならないものであり、その姿勢はきっとこれからも多くのファンを惹きつけていくのであろう。"ファインだからこそできる"を多くの人へ
「困っている人がいる、だから商品をつくりたい、それがものづくりのストーリーだと思うのです」と語る清水社長。市場の大きさ、利益、そういった数値的なもの以上に、誰かの役に立つ商品をつくることを信条としている同社。これからも、そのものづくりに対する姿勢を大切にしていく。その同社の姿勢はメディアからも注目され、「ガイアの夜明け」「にじいろジーン」といった番組に取り上げられ、また出会った人との繋がりから海外への商品展開の道も生まれるなど、多くの応援を受け今、好循環を生み出している。その波に乗り、「ファイン」ブランドを世の中に広めていくのがこれからの展望でもある。 「誰かの"欲しい"を実現したいんです。その想いを実現できる商品を実現していきます」 “体が喜ぶ”商品をコンセプトにこれからも尚、世の中になくてはならない、ファインだからこそできる商品づくりは続いていく。
竹の歯ブラシは同社のシンボル
一人ひとりの想いが何よりの力
"体が喜ぶ"商品づくりはこれからも
「不便を便利に、不安を安心にできる商品」 「単に面白いではなくて、これだったら使いやすい商品」
先代から事業を受け継いでから、意識していることがあれば教えてください
私が事業を受け継いだ時には正直なところ不安もありました。今まで先代が「こういうものをつくりたい」と想いとアイデアを持ってつくってきたファインのブランド。その考える先代がいなくなる中で、これからどうしようか、と。そこで社員一人ひとりが声をあげて、自分たちの声を大切にして仕事をしていこうと社内の雰囲気を変えていきましたね。 それまで営業担当に負担が大きかった営業活動を皆で分担して社内の生産性を上げたり、歯科衛生士を呼んで勉強会をするなど、小さいながらも社員の声から少しずついろんな動きが生まれました。 私自身、社長になる前には「こうしなければ」という想いも強く、社員がついてきてくれるかと不安もあったのですが、反省して自分の姿勢も行動も変えて、皆の力を借りながら着実に進んでいるなと実感しております。商品作りで大切にしている考えを教えてください
「不便を便利に、不安を安心にできる商品」「単に面白いではなくて、これだったら使いやすい商品」そういったコンセプトで商品づくりをしています。例えばある歯ブラシでは、若い女性の方からの「小さなヘッドの歯ブラシが欲しい」という声をきっかけにして、それまでベビー用でしかなかったサイズのものを応用してつくったものもあります。また新しい商品である富士山歯ブラシでは、単に富士山のカタチをしているのではなく、その富士山のカタチ(参考:社員記事、下部写真)が持つ時にストッパーになるようになっています。このように利用者の声をもとに便利な商品をつくっていくことはもちろんですが、使い勝手・機能性も意識してつくっていくこともまた大事にしていきたいですね。社員に対しての想いを教えてください
本当に社員が弊社の宝です。仕事では自分で考えたものが世の中に出ることを楽しんでもらい、プライベートではのびのびと生活ができるようにと、仕事・プライベート両立での幸せを大切にしてもらいたいです。例えば仕事で弊社は誰がトップだ、みたいな表彰はしません。社員一人ひとりが得意なところで役割り分担ができていると思いますし、それぞれの良さを生かして仕事をしてもらいたいですからね。プライベートでは「早く家に帰って夜ご飯を食べてね」って社員に話をします。家族とうまくいかないと気持ちも落ち着きませんし、気持ちが健やかになれば仕事も好循環になるのではないでしょうか。仕事もプライベートものびのびと両立してもらって、自分が手がけたものが世の中に出る楽しみを味わってもらいたいですね。デザイナーとして ファインらしさを 具現化していく
ファイン株式会社 デザイナー 曲尾健一
ファインと関わるようになり、1年が経つ曲尾さん。デザイナーとして入社した曲尾さんは今、商品やパッケージの企画などで活躍している。今後、同社が自社のブランド力を高めていくためにも、曲尾さんの優れたデザイン力が求められたのだ。その曲尾さんが入社して以来感じているのは同社の”良いものをつくろう”という想いの強さ。一人ひとりの社員が当たり前のように、こだわりを持って商品づくりに携わる日常がある同社。そんな同社の社員の想いは曲尾さんの心に火をつけた。「ファインの独自の商品開発の様子やこだわりを見てポテンシャルを感じましたね」ファインという舞台を生かし、力を発揮する曲尾さんに同社で働く醍醐味を伺った。伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
デザイナーとしての力を生かす場
「新商品のグラフィックデザインを任せていただいたことがきっかけでしたね」 当時、高齢者向けの新商品となるコップのデザイナーを探していた同社。そこにフリーランスのデザイナーであった曲尾さんは縁あってデザインを担当することとなる。前職である、デザイン事務所にて車業界などでのデザインの経験を生かしての入社であった。「ファインの独自の商品開発の様子やこだわりを見てポテンシャルを感じましたね」と語るように同社に惹かれた曲尾さんはデザイナーとして可能性を広げるために入社し、この1年間で様々な商品作りに携わってきた。同社の優れた商品に曲尾さんのデザイン力を加えることで、より洗練された商品になる。また商品だけでなくパンフレットなどの広報資料づくりにも携わることでファインのブランド力を上げていく。曲尾さんの経験とノウハウは既にファインになくてはならないものだ。こだわりの込められた商品を実現していく
「レスポンス良く商品作りをすることができることがやりがいですよね」と語る曲尾さん。一つの商品を新しく企画をするにしても、それがカタチになるスピードの速さにデザイナーとして仕事の実感を感じるという。また商品を企画をする中での”こだわり”にも注目。社員同士はもちろんのこと、現場の方とも話し合いをし、様々なアイデアを取り入れていくのだ。例えば、新商品となる老人ホームでの利用を目的としたコップでは、目の悪い人でも使いやすいようにポッチを入れる、使用後乾きやすいようにと斜めの飲み口にする、など老人ホーム利用者、スタッフ双方を意識した様々な工夫が多数もり込まれている。「現場の意見を聞きながらテストを繰り返してつくるので、できあがる時には相当な想いが込められていますよ」と曲尾さんが話すように実際に使う方の声を大切にしながらつくるからこそ、「ファインの商品を使いたい」という声が後を絶たないのであろう。曲尾さんは、これからもこだわりの込められた商品を続々とスピード感を持ってつくっていくに違いない。"ファインらしさ"を大切に
本当に良いものをつくることをコンセプトに掲げ多くのファンを獲得してきたファイン。そのファインらしさを生かしつつ、かつ更なる展開に向けて胸に想いを秘めている曲尾さん。 現代は、日本だけでなく、多くの諸外国でも高齢化が進み介護の問題が浮上している。その中で、同社の持つ健康に良いものづくりのノウハウ・実積を生かしていくのだ。「日本の介護用品を見るためにツアーを組む動きもある中で弊社の商品は海外の方にも必要とされる商品だと思いますから」と曲尾さんが語るように、今期、イタリアに新商品を展開するなどファインらしさを生かした商品を海外にも展開していくことに胸を躍らせている。 またファインらしさの中に、自身の持つデザイナーとしての力量を発揮していく。「個人的にはファインの初期の「ファイン歯ブラシ」シリーズを復刻したいですね。あれはデザイナー視点で見ても格好良いですから」デザイナーとしてもまたファインらしさを発信していく曲尾さんはとても心強い存在なのだろう。
大学の講義でも取り上げられた同社の商品
同社の商品は利用者の生活の必需品だ
新商品「富士山歯ブラシ」
”健康の良いものを”そのものづくりを支えるのは一人ひとりの社員の想い
ファインで働く中で大切にしている考え方を教えてください
質の良さですね。健康に良いものを軸に主に高齢者と乳児を対象とした商品づくりをしてますから、品質の良さはもちろんですし、機能性も高さ、安全性の高さをも追求した商品を提供していく必要があります。歯ブラシ一つにしても、正直な話100円で売っているものとはものが違うと自負しています。弊社の新商品の富士山歯ブラシも、アイデアや機能性はもちろんですが先端部が口内を傷つけないようにと何回もテストを繰り返していますしね。そのこだわりを評価していただいて、多くの方にファンになっていただいております。例えば大学の教授の方が「これは何の為に使われるコップだと思いますか」と弊社の商品を講義で用いて、機能性やこだわりを話してくださるんですよ。とてもありがたいことですし、そういった方に応えていくためにも、これからも質の良さを大切にしていきたいですね。最近のオススメ商品を教えてください
最近のものですと富士山歯ブラシですね。これは弊社の新しい顧客層であるアクティブシニアと海外の観光客に向けて開発した商品で、元気な高齢者の方のより一層の健康のために開発したものとなります。例えば、富士山のお土産屋さんにも置かせていただいて、お土産用に買っていただくのですが、すごく評判が良いんです。業者からは、お土産コーナーで早速置かせていただいていますし、海外の展示会にも出展をさせていただきましたね。また歯磨きが疎かになりがちな高齢者を持つご家族の方がお土産として買ってくださりますね。急に歯ブラシをお婆ちゃんに渡すと変な感じもありますけど、「富士山に登ったから」「面白いものがあったから」とお土産として渡されれば改めて歯ブラシを意識しようという想いにもなると思います。新しい人気商品にしていきたいですね。共に働く仲間はどのような存在ですか
商品を開発していて感じるのは、本当に皆さん良いものをつくるために、と頑張ってくださっているのだと感じますね。例えば商品を一つつくるにしても、僕が企画して工場の方に依頼すると直ぐに対応していただけることはもちろんですが、「こうした方がもっと良くなるんじゃないか」「こんなパターンもつくってみたよ」と工場の皆さんの方から提案や創意工夫のアイデアをいただけるんです。私もデザイナーとして本当に嬉しいですし、良いものをつくるためにただ一心に仕事をしているのがファインの人なんだなって思います。これからも皆さんの気持ちに応えていけるような商品を今後も企画していきたいですし、皆さんと一緒により一層良いものを世の中に発信していきたいですね。ファイン株式会社
1948年 若松油脂化学工業所として創業、ローソクの製造販売を開始
1958年 歯ブラシ製造販売を開始
法人組織化し、社名を若松産業株式会社に改称
1973年 歯ブラシ部門で分離独立し新会社設立(東京都品川区南大井)
代表取締役に清水益男が就任
工場を開設(大阪府東大阪市)
1975年 ファイン株式会社に改称
1978年 臨床器材および医療環境衛生用品の開発・製造・販売開始
1982年 住居環境衛生資材の開発・製造・販売開始
1987年 三重工場開設(三重県名張市)
1990年 「PEANUTS」と「 FELIX THE CAT」の歯ブラシ・ハミガキの版権を取得
1994年 代表取締役に清水和恵が就任
1996年 通商産業省グッドデザイン賞認定授与(ぷぅぴぃ)
1997年 伊賀工場開設(三重県伊賀市)
1998年 中小企業創造活動促進法認定授与
国際トゥースフレンドリー協会「歯に信頼」マーク認定授与(虫歯0組)
生分解性樹脂歯ブラシ(エコット)発売
2000年 大阪デザインセンターグッドデザイン認定授与
(Uコップ、エパック:21)
2001年 エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
福祉用具実用化開発費助成金交付認定授与
財団法人日本産業デザイン振興会
グッドデザイン賞受賞(エバック:21 エコシリーズ)
2003年 吸引器専用歯ブラシハッピー・照明開口器ホタル発売
2004年 大阪工場を伊賀工場に統合
2006年 照明開口器ホタルが特許を取得
2010年 清水和恵が取締役会長に、清水直子が代表取締役社長に就任
2011年 経営革新計画承認企業認定授与
2013年 「乳菌を守るセミナー」定期開催開始
2014年 「UコップW」を発売
公益財団法人日本デザイン振興会グッドデザイン賞受賞
2015年 「ふぁいん・らぼ」開設
「富士山歯ブラシ」発売
1958年 歯ブラシ製造販売を開始
法人組織化し、社名を若松産業株式会社に改称
1973年 歯ブラシ部門で分離独立し新会社設立(東京都品川区南大井)
代表取締役に清水益男が就任
工場を開設(大阪府東大阪市)
1975年 ファイン株式会社に改称
1978年 臨床器材および医療環境衛生用品の開発・製造・販売開始
1982年 住居環境衛生資材の開発・製造・販売開始
1987年 三重工場開設(三重県名張市)
1990年 「PEANUTS」と「 FELIX THE CAT」の歯ブラシ・ハミガキの版権を取得
1994年 代表取締役に清水和恵が就任
1996年 通商産業省グッドデザイン賞認定授与(ぷぅぴぃ)
1997年 伊賀工場開設(三重県伊賀市)
1998年 中小企業創造活動促進法認定授与
国際トゥースフレンドリー協会「歯に信頼」マーク認定授与(虫歯0組)
生分解性樹脂歯ブラシ(エコット)発売
2000年 大阪デザインセンターグッドデザイン認定授与
(Uコップ、エパック:21)
2001年 エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
福祉用具実用化開発費助成金交付認定授与
財団法人日本産業デザイン振興会
グッドデザイン賞受賞(エバック:21 エコシリーズ)
2003年 吸引器専用歯ブラシハッピー・照明開口器ホタル発売
2004年 大阪工場を伊賀工場に統合
2006年 照明開口器ホタルが特許を取得
2010年 清水和恵が取締役会長に、清水直子が代表取締役社長に就任
2011年 経営革新計画承認企業認定授与
2013年 「乳菌を守るセミナー」定期開催開始
2014年 「UコップW」を発売
公益財団法人日本デザイン振興会グッドデザイン賞受賞
2015年 「ふぁいん・らぼ」開設
「富士山歯ブラシ」発売
創業年(設立年) | 1948年(1973年) |
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事業内容 | 歯ブラシ製造・販売 医科・理化学器具類用洗剤事業(業務用高性能洗浄剤) 介護用品製造・販売(機能回復自助具) 健康食品事業(グミキャンディ) OEM・ODM事業 |
所在地 | 東京都品川区南大井3-8-17 |
資本金 | 2,000万円 |
従業員数 | 21名(正社員7名) 新卒・中途比率=0:100 男女比率=1:2 平均年齢:40歳 |
会社URL |
監修企業からのコメント
今回取材させていただきましたのはファイン株式会社。取材の中では、同社のシンボルともなっている竹の歯ブラシはもちろんのこと、その商品の1つひとつに込められたこだわり、想いを伺わせていただきました。そのどれにも共通するのが、健康への想い。本当に体に良いものをという想いが話の随所随所から伝わってきました。ファインだからこそできるものづくりをこれからも楽しみにしています。
掲載企業からのコメント
弊社のような小さな会社を見付けて、取材をしていただき大変光栄です。手前味噌ではありますが、今回の取材を通じて、社風を改めて思い返しながら良い会社を引き継がせて頂いたと思いました。 弊社はロウソクのような存在であると思います。ロウソクのようなホワッとした温かさ。お客様に対しても、社員同士でもそんな温かさを持って接して、それを皆で守るような会社でありたいです。 ロウソクのような温かさを持ち、また困った時にものづくりを通じてお手伝いのできる駆け込み寺のような存在となれるよう、今後とも頑張って参ります。