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File No. 002
「関係的存在」である中小企業-現代中小企業への羅針盤-
長崎県立大学経営学部 准教授
田代 智治氏
中小企業は「弱い存在」なのか、それとも「成長発展の担い手」なのか
日本の中小企業は、これまでどのように捉えられてきたのでしょうか。その見方は時代とともに大きく変化してきました。日本の中小企業研究は、もともと中小企業の「問題性を明らかにする学問」として発展してきました。簡潔に言えば、「なぜ中小企業は厳しい立場に置かれやすいのか」を大企業との関係や経済の仕組みの中で考えてきたのです。第二次世界大戦後しばらくの間、一般的な見方はこうでした。「産業の中心には大企業があり、中小企業はその下に位置する存在」であると。取引条件の不利さや収益の低さなど、いわゆる「格差」の中で、中小企業は不利な立場に置かれていると見られていたのです。こうした見方は、「中小企業=問題性を抱えた存在」として捉えるもので「中小企業問題性本質論」と呼ばれています。
成長発展する中小企業という新しい視点
しかし、時代は変わります。日本の高度経済成長を経て、一部の中小企業は独自の技術や市場を開拓し、自ら成長していく力を持つようになりました。1960年代後半以降、自ら市場を切り開き、技術や経営を革新しつつ挑戦する中小企業が次々と現れました。中小企業は、単に大企業に依存する存在ではなく、むしろ革新や挑戦の担い手として注目されるようになったのです。このような企業群の登場を背景に、「中小企業は社会経済に貢献する主体である」とする考え方、いわゆる「中小企業貢献(積極)性本質論」が登場しました。これは従来の「中小企業=問題性を抱えた存在」として捉えた「中小企業問題性本質論」とは逆に、中小企業の「強さ」や「可能性」、その「成長発展」に注目する考え方です。
「強さ」と「弱さ」をあわせ持つ存在へ
さらに近年では、もう一歩踏み込んだ見方が主流になりつつあります。中小企業は、成長する力を持つ一方で、現実的に資源の制約や取引上の不利といった課題も抱えています。それは、つまり中小企業は「問題性」と成長可能性を含めた「貢献(積極)性」の両方をあわせ持つ存在であるということです。たしかに中小企業は、例えば「資金や人材に制約がある」「取引関係に影響を受けやすい」などといった弱さを抱えています。一方で、「柔軟な意思決定」「独自技術やニッチ市場での強み」「環境変化への対応力」といった強さも同時にあわせ持っています。このように、中小企業を一面的に捉えるのではなく、両面から理解しようとする考え方が「発展性と問題性の統一物」という見方です。従来の「弱い存在」か「成長発展する存在」かという二択ではなく、その両方を併せ持つ存在として捉えることが重要だといえるのです。
見方を変えると、経営のヒントが見えてくる
ここまでの議論を整理すると、日本の中小企業研究におけるその「本質」を考える際には3つの主流な考え方ならびに中小企業像がありました。それは「問題性を抱えた存在としての中小企業」「成長・貢献する主体としての中小企業」「その両方を併せ持つ存在としての中小企業」です。ただし、これらの議論には共通点があります。それは、中小企業を「企業の集まり(群や層)」として捉えてきた点です。たとえば、「規模が小さいから資源が不足している」「大企業を支える役割を持つ」「成長段階にある企業群である」といったように、「特徴」や「立場」といった「属性」や「機能」から捉え、時折の日本資本主義における「構造」から説明されることが中心でした。また近年は、中小企業の経営に焦点をあて、中小企業を中心に捉えるといった中小企業経営研究も積極的に進められています。しかし、これだけでは十分ではありません。重要なのは、「中小企業はどのような関係性の中で存立しているのか」という視点です。
そもそも企業とは単独、独立して存在しているものではありません。同様に市場といったものも、私たちが日々生活をおくる地域社会や経済とかけ離れ、ある種特別なものとして存在しているわけではないのです。しかしながら私たちはこの近視眼に陥ってしまいます。中小企業とは、「持続的な相互依存関係の網の目の中でのみ存立可能な関係的経済主体」として経済的のみならず社会的・制度的・文化的・空間的に地域社会に埋め込まれています。中小企業とは「本質的に関係的存在」であるのです。中小企業には「資源依存構造(関係は中小企業の存立条件そのもの)」「市場アクセスの媒介性(市場関係すら関係構造を媒介)」「存立の関係依存性(中小企業は外部との関係を断てば存続困難といった関係は外部条件ではなく存立条件であるとったこと)」が存在します。この関係性の時間的醸成プロセスの帰結として中小企業は持続可能性を高め地域社会や経済との「共生」をはたすことになるのです。
中小企業経営はどこへ向かうのか
中小企業の本質をどう捉えるかは、学問や研究だけの問題ではなく、実際に経営者の経営に対する考え方そのものを左右し、そのまま経営の意思決定に直結します。現場の経営者にとって、これまでのように中小企業を中規模・小規模企業や資源制約的企業といった「属性的」や大企業の補完機能や下請といった「機能的」に日本資本主義の「構造」から捉え、自社を「弱い存在」として見るのか、「成長発展の担い手」として見るのか、はたまたその両方を前提として戦略を組み立てていくのか、これらはまさに重要であるといえます。そしてさらに重要な点は、これまで述べてきたように中小企業が「本質的に関係的存在」であるということです。つまり、中小企業にとって「関係」とは、単なる「環境」ではなく「存立条件」を構成することを意味します。この関係性とは、中小企業の単なるネットワークへの参加といったことだけではなく、外部との「共生」を成し遂げうる一方的でない相互依存が持続的で中小企業の成長発展を含んだ再生産を意味します。中小企業自身の経営努力のみならず、中小企業を取り巻くこの「関係性」こそが中小企業の競争優位性やその持続可能性に大きな影響をおよぼすことになるのです。ややもすると中小企業は市場構造のなかに埋め込まれることで硬直化し、その成長発展の可能性を自ら制限してしまいます。自社のポジションや役割を常に模索し、柔軟な対応によって経営資源の見直しをはかりつつ、自社を成長発展させうる「関係性」をいかに拡張していくのか、そのような姿勢が現代中小企業には求められるのです。

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