アントレプレナーシップとは何か

File No. 001

アントレプレナーシップとは何かープロセスをめぐるアントレプレナーシップ研究のシステマティック・レビューー

同志社大学中小企業マネジメント研究センターセンター長
同志社大学商学部教授

関 智宏

アントレプレナーシップ(entrepreneurship)をめぐってはこれまで多様な議論が展開されてきたが、近年、あらためて注目され、かつその中心的なトピックになりつつあるのが、プロセスとしてのアントレプレナーシップ(entrepreneurship as process)である。アントレプレナーシップの研究展開のなかで、7ロセスは主要な視点となってきただけでなく、今後の研究の焦点の1つ、あるいは最も重要な方向性の1つと言われてきた。

アントレプレナーシップは、端的に言えば、個人や組織(チーム)が事業を新規に起こしていくことである。しかしその研究の進展とともに、諸概念の対象領域は拡がりを見せてきている。かつてアントレプレナーシップは日本語で起業家精神と訳出されてきたし、いまでもそのように認識されている側面があるかもしれない。しかしアントレプレナーシップをそのような意味でしか把握しないことは、アントレプレナーシップ研究のこれまでの展開を軽視してしまいかねない。

アントレプレナーシップの研究領域において、プロセスをめぐるアントレプレナーシップは、これまでいくつかの概念で表現されてきた。具体的には、プロセスとしてのアントレプレナーシップのように、アントレプレナーシップを名詞として使われる場合や、アントレプレネリアル・プロセス (entrepreneurial proces)のように形容詞として使われる場合がある。さらに最近では、さらに動詞としての使用を強調し、アントレプレナーシップを動詞としてアントレプレネリング(entrepreneuring)ととらえる研究も増えつつある。プロセスをめぐるアントレプレナーシップのとらえ方は多様であるが、それではプロセスをめぐるアントレプレナーシップをどのように体系的に理解すればよいのかについては課題が残っている。

そこで、プロセスをめぐるアントレプレナーシップを体系的に理解するために、システマティック・レビューをおこなった。具体的には、ます Clarivate社の分析ツールであるWeb of ScienceTMのプラットフォーム(Version 5.35)を活用し、プロセスをめぐるアントレプレナーシップを体現するものとして、entrepreneurial process, entrepreneur ship asprocess, entrepreneringの3つをトピックのキーワードとし、いずれかを含む文献を検索した。検索の対象は、2020年12月24日までのものとし、経営学領域(マネジメントないしビジネス)のもの、さらに論文と書籍に所収される章(以下これらを文献とする)も含めたところ、重複を除いて406本の文献を抽出した。次に、Web of ScieneeTMの検索では合まれなかったが、検索対象の文献が多く引用する、いわゆる影響度の強い文献を22本追加し、合計428本の文献を対象に、HistCiteTMの諸機能をもちいて引用分析をおこなった。そして引用度合いの高い文献(相互引用の数が6以上)46本の文献を対象に、文献引用の系統図をもとに、かつ内容の類似性を考慮し、9つのテーマ・クラスターにまとめた。

それらのクラスターは、①誰が企(起)業家で誰が企(起)業家でないのか、②組織としてのアントレプレナーシップ、③起業機会の発見・評価・活用のプロセス、④起業機会を発見する一認知、知識、学習、意図からのアプローチ、⑤起業機会を創造する、⑥アントレプレナーシップ・プロセスの全体把握、⑦認知的視点による研究展開のその後、⑧エフェクチュエーションと起業行為、⑨実践(practice)からのアプローチ、である。

このようなテーマ・クラスターの導出ならびにその内実をレビューしたところ、次の諸点が明らかとなった。その1つは、プロセスをめぐるアントレプレナーシップの一連の研究が、2000年にAcademy of Management ReviewにNOTEとして発表されたShane andVenkataraman(2000)が起点になっていることである。それゆえに、検討対象となったジャーナルを刊行年別にみて、2000年が1つの区切りとなっている。

このことは、上の9つのテーマ・クラスターのうち、おもに「①誰が企(起)業家で誰が企(起)業家でないのか」と「②組織としてのアントレプレナーシップ」の違いであり、起業の担い手は誰なのか、その属性と分析単位をめぐって議論が展開された。

また Shane and Venkataraman(2000)とShane(2000)が発表されて以降、アントレプレナーシップ・プロセスを起業機会の発見の論理を中心として把握していこうという展開へと移ることになる。これが「③起業機会の発見・評価・活用のプロセス」であるが、それ以降の流れはいくつか違った様相を見せることになった。1つの流れは、認知的視点からのアプローチである。この研究はBaron(2004;2008)などを中心として研究が展開されていった。Baron(2004; 2008)などの研究展開は、「④起業機会を発見する一認知、知識、学習、意図からのアプローチ」および「⑦認知的視点による研究展開のその後」にまとめられる。なお2000年以前にもAcademy ofManagement Review に掲載されたBird(1988)、またJournal of Business Venturingに掲載された意図の視点を強調するKruegeretal.(2000)、さらにAjzen(1991)による行動理論は、Baron(2004; 2008)などの研究に大きな影響を及ぼしている。

Shane and Venkataraman(2000)以降のもう1つの流れは、さまざまな分野の拡がりであり、「⑤起業機会を創造する」、「⑥アントレプレナーシップ・プロセスの全体把握」、「⑧エフェクチュエーションと起業行為」、「⑨実践(practice)からのアプローチ」といったテーマ・クラスターとしてまとめられる。

第1に、Alvarez and Barney (2007)は、起業機会の創造の論理を、発見の論理の代替可能な理論として提案し、起業機会の創造の論理の有用性を提案した。これが「⑤起業機会を創造する」である。

第2に、Brockneret al.(2004), Cardon et al.(2005), また、DeTienne(2010)は、アントレプレナーシップ・プロセスの初期段階でなく、プロセス全体の把握を提案した。これが「⑥アントレプレナーシップ・プロセスの全体把握」に該当する。

こうした展開とも連動するかのように、Sarasvathy(2001)などによるエフェクチュエーションをめぐる研究もその後の研究に大きな影響を与え、創造的アントレプレナーシップ・プロセス全体への把握へ転換させる研究へと展開していった。

第3に、McMullen and Shepherd(2006)は、 Sarasvathy(2001)などを踏まえて、不確実性の下で価値のある機会について判断に応じた行動としての起業行為が創造的アントレプレナーシップ・プロセスに影響を与えるとし、知識(何をすべきかの信念)と動機(なぜそれをすべきかの欲求)の理解の必要性を主張した。これらが「⑧エフェクチュエーションと起業行為」に該当する。 McMullen andShepherd(2006)は、Baronら認知心理学の研究アプローチにみられた感情や情熱といった企(起)業家の精神的な側面がアントレプレナーシップ・プロセス全体に及ぼす影響についてとりあげた研究展開にも大きな影響を与えた。

最後に第4に、Steyeart(2007)を代表的研究とするアントレネプレリングの研究展開であり、動詞としての実践への展開である。企(起)業家の身体的な行為やそれ以外の行動がどう社会と結びついて展開されるかという実践からのアプローチである。 Rindova et al.(2009)でアントレプレネリングが解放の観点へとさらに広がったことで、エージェントとしての企(起)業家の行為が社会の変革をどのようにつながるかといった制約と社会の組織化のプロセスへと展開していった。これが、「⑨実践(practice)からのアプローチ」に該当する。

このように、プロセスをめぐるアントレプレナーシップを体系的にレビューしたところ、その内実を9つのテーマ・クラスターとして、さらにそれらの諸研究の流れを時系列にも理解することができるようになった。アントレプレナーシップを日本語でいまだに企業家精神とする日本の現場での理解の狭さを痛感することができよう。アントレプレナーシップ研究はいまだに発展途上の研究領域であり、その後の展開をも押さえることで、学術としてのアントレプレナーシップ概念を広<深く理解していくことが必要である。

※本稿は、拙著『中小企業とアントレプレナーシップ一危機や逆境を乗り越える企業家活動プロセスー』(白桃書房、2025年)の第2章ならびに補論1を加筆・修正したものである。内容の詳細ならびに引用文献については、上記の該当箇所を参照のこと。

同志社大学中小企業マネジメント研究センターセンター長
同志社大学商学部教授

関 智宏

1978年8月
山口県宇部市生まれ
2006年3月
神戸商科大学大学院経営学研究科博士後期課程
単位取得退学
2006年4月
阪南大学経営情報学部専任講師
2009年4月
阪南大学経営情報学部准教授
2014年4月
阪南大学経営情報学部教授
2015年4月
同志社大学商学部准教授
2018年4月
同志社大学商学部教授
同志社大学中小企業マネジメント研究センター長
(現職)
2020年10月~2021年9月
オックスフォード大学
日産現代日本研究所客員研究員
2021年9月~2022年3月
ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)
日本研究センター客員研究員
主要業績
『中小企業とアントレプレナーシップ一危機や逆境を乗り越える企業家活動プロセスー』(単著、白桃書房、2025年10月)
『中小企業研究の新地平一中小企業の理論・経営・政策の有機的展開一』(編著、同友館、2022年2月)
『よくわかる中小企業』(編著、ミネルヴァ書房、2020年4月)
『現代中小企業の発展プロセスー下請制・サプライヤ一関係・企業連携一』(単著、ミネルヴァ書房、2011年3月)

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