株式会社松徳 代表取締役 横尾臣則
株式会社松徳は、創業52年を迎えた金属熱処理加工を手掛ける企業である。真空焼入れをはじめ多様な熱処理技術により部品の強度を向上させるという直接的な変化はわかりづらくとも金属製品づくりには欠かせない重要な役割を担う業種として製造業を支えてきた。そんな同社を率いるのが、二代目社長の横尾臣則氏である。大学卒業後、修行として炉の製造メーカーに就職するも、新部署の立ち上げのため現会長の準次氏に召喚され入社。いきなり真空熱処理部門の立ち上げという重責を担う。その後、工場長として現場で7年、専務として15年のキャリアを積み、2019年、社長に就任した。就任後は現場での経験を活かし自主的に動く組織づくりなど、経営と現場の両面で改革を推進してきた。今回は横尾社長に、これまでの歩みと、社員が誇りを持てる会社を目指す未来像について話を伺った。
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
がむしゃらに真剣に自発的に
横尾社長が入社した当時は、社員たちが「がむしゃらに、真剣に」仕事をしていたという。その背景には、“トップダウン型”命令系統と、炉を空焚きさせるという無駄をなくすため厳しい納期の仕事も請負わなければいけないという熱処理業界独特の事情も影響していた。だが、現社長就任後はトップダウン型から「自分で考え、自発的に動く」ことを推進し、結果、社風も大きく変化した。現在では、社員自らがミーティングや勉強会を企画・運営し、Slackなどを活用し全社に情報共有するなど、部署の枠を超えて活発なやり取りが行われている。これは上からの命令ではなく、自主的に動く文化が浸透してきた証である。さらに、役職者だけでなく一般社員からも発信が増え、多様なタイプの人材が自身の長所を活かし合いながら適材適所に職務を担い組織を支えている。このように「がむしゃらに、真剣に」働く良い部分はそのままに、自発性と柔軟性が加わった同社の社風は、より力強く進化していると言える。最新設備と誠実な管理体制
松徳の独自性は「最新設備の積極導入」と「緻密な品質管理」そして「人間性」を重視した三要素にある。熱処理という目に見えない工程において、高い品質の維持には機械や仕組みだけでなく、携わる人の誠実さが何よりも重要だからである。まず設備面では、最新機械を積極的に導入し、速やかに更新している。これは受注の幅を広げるだけでなく、より高精度な処理を短納期で完結させるためである。次に管理面では、熱処理の条件を細かく規定し、すべての製品がばらつきなく処理されているかを厳密に管理している。そして最後に人間性である。いかに設備や仕組みが整っていても、作業者がミスを隠したり報告を怠ったりすれば、重大なクレームに直結するため「問題は正直に報告する」文化を徹底している。熱処理という目に見えない工程だからこそ、ミスを隠蔽しないという姿勢を組織全体で徹底し、社員一人ひとりも真剣に向き合っている。このように「設備」「管理」そして一番重要な「人間性」への徹底した取り組みが、独自性である。熱処理を軸にものづくり企業へ
同社が描く今後の展望は、「熱処理専業」から「モノづくりを手がける企業」への進化である。これまで同社は、他社が製造した製品を預かり、熱処理のみを担う受託加工が中心だった。しかし今後は、製品の製造から熱処理、さらにめっき処理までを自社内で一貫して行う体制を整え、独自の価値を提供する企業への転換を進めている。その第一歩として、2年前からめっき加工に参入し、専用設備を導入。すでに熱処理とめっきの自社加工が可能となり、品質の一体管理や納期対応力において強みを発揮している。今後はさらに、自社で製品の企画・設計・製造を行い、そこから熱処理、めっき仕上げができる体制の構築に向けて準備を進めている。熱処理という目に見えにくいが「その奥深さを理解している」同社だからこそできる新たなモノづくりへの挑戦は、他社との差別化を図り、企業価値をさらに高めてくことであろう。
“教え合い・支え合う”松徳らしい人間関係
印象に残っている失敗談とその対応について教えてください。
今まで沢山失敗しました。その中でも特に覚えているのは、規格外の製品をつくってしまい、それがお客様のところに出てしまった時です。まずはお客様のところへ足を運び、頭を下げて回りました。それからお客様と一緒に各所をまわり、不具合製品を探して、そこからどうすれば再発しないかの対策を考えました。結果的にそのお客様とは取引が続いており、今では「あの時は大変やったね」と笑って話せる関係になっています。やはり、クレームが起きた時に大事なのは「スピード」と「誠実さ」だと思います。言い訳をせず、できることをすぐにやる。ごまかそうとせず、素直に誠意を見せる。そういう姿勢が相手に伝われば、マイナスをプラスに変えることもできるのだと、失敗から得た教訓です。まさに“誠実さ”と“熱意”の大切さを実感しました。現在特に力を入れていることはどんなことですか?
弊社ではまず「嘘をつかないこと」を最も重要な価値観として掲げています。なぜなら、熱処理という目に見えない工程だからこそ、正直な報告が品質と信頼の根幹を支えると考えているからです。問題が起きた際も、正直に報告すれば咎めず、逆に隠した場合は厳格に処分するという姿勢を貫いています。そして、50周年を機にトップダウン型の経営から、自主性を尊重する組織体制へと転換しました。その結果、部門ごとに自発的なミーティングや勉強会が活発に行われ、社内SNSでの情報共有も自然と広がっています。今では責任者が理念を現場へ伝え、現場からも主体的な声が上がるなど、社員の意識も徐々に変化してきております。正直さと自主性が根づいたこの風土は、弊社の強みとなっています。どのようなビジョンを描いていますか?
熱処理という重要な工程を、もっと世間に理解してもらいたい、そして自分たちの仕事に自信を持った集団でありたいと考えています。その一環として2023年より、奈良工場でめっき処理を開始しました。一般的には熱処理と、めっき処理は、それぞれの別の会社が製造しているのが主流です。しかし弊社は「熱処理の奥深さを理解した」企業として、独自の高い基準で品質を担保し、めっき処理までの一貫生産を実現しています。その結果、品質も向上し、お客様に、より高い価値を提供できるのです。ただあくまでも弊社の基本は熱処理です。私は古風かもしれませんが、様々な分野に手を広げるようなやり方は好みません。あくまでも熱処理を軸としたものづくりにこだわり、最終的には自社製品を製造し、これまでにない価値を創出していきたいと考えています。
現場と経営をつなぐ 「架け橋」として
株式会社松徳 経営企画室室長 村井仁
村井室長の業務の中心は、経営企画室室長として社内の成長と地域の活性化を両輪で推進することである。それは単なる事務的な企画ではなく、社員一人ひとりの意識を高め、会社全体をより良い方向へ導くために現場と経営の中間に立ち、対話の機会を設け、社員が主体的に考え行動できる環境を整えている。また、地域との触れ合いの場に社員を巻き込み、自社の価値を伝えるとともに、地域の声を直接聞くことで社員の仕事へのやりがいを醸成している。これらの活動は、前職の公務員時代に培った企画力と調整力を基盤に、同社の未来を形づくる重要な取り組みである。そんな村井室長のやりがいやビジョンについてお話を伺った。伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
社会的価値を広める仕事に魅力を感じて
村井室長が同社に入社したのは、50歳の時。そのきっかけは、行政で培った企画力を、より現場に近いかたちで活かしたいと感じたからである。前職では27年間、公務員として地域の政策企画や活性化事業に携わってきたが、日々仕事をする中で、より直接的に地域や企業の成長に関わりたいという想いが芽生えた。そんな折、横尾社長と地域支援の場で出会い運営体制の変革に伴う課題などの相談を受けた。そこで、家族経営の体制から、より大きな規模へと発展する過程での組織づくりの難しさを知り、そして何より横尾社長の熱処理に対する思いや、社員が誇りを持てる会社にしたいという強い意思に心を動かされたのである。熱処理という業界は未知の領域であるものの、社会を支える重要な工程であることを知り、まだ知られていない価値を世間に広めたいという思いから50歳での挑戦だったが、「ここでなら地域と企業をつなぐ新しい仕組みを生み出せる」と確信し、転職を決意したのである。社員の成長を通じ会社の質が上がる
村井室長は、社員一人ひとりが自身の成長や仕事の意義に気づき、会社全体の質が高まっていく瞬間にやりがいを感じている。なぜなら、そうした意識変化は「作業者」から「意思を持った仲間」への転換を意味し、持続的な成長にもつながるからだ。同社では、社員が社会とのつながりや仕事の重要性を実感できるよう、オープンファクトリーなど社外イベントを活用している。自ら熱処理を行った製品が実際に自動車などに使われていることを知ることで、社員は日々の業務が社会に直結していることを理解し、誇りと責任感を持って取り組むようになる。また、イベントでの発表機会や外部との交流によって、自分の立ち位置を俯瞰し、何を改善すべきかを自発的に考えるようにもなった。こうした取り組みは一見遠回りに見えるが、社員の意識改革と成長に大きく寄与しているのである。自分たちの仕事の一つひとつが誰かの生活に繋がっているという実感が仕事に対する意識を変える。その場をつくることこそが室長としての使命であり、やりがいなのだ。社員が誇りを持って働ける会社
村井室長が描く夢は、社員が自信と誇りを持ち「ここで働けてよかった」と感じられる環境をつくることである。これは、会社の事業である熱処理の社会的価値を広く認知させ、社員が自分の仕事の意義を理解し、やりがいを持って成長できる場を提供することである。具体的な取り組みとして、社員が自ら会社をPRし、外部でプレゼンテーションや工場見学を通じて社会にアピールする機会を増やすことを進めている。また、一般部品など従来の熱処理から、より高付加価値で高度な加工分野への事業拡大を進めるなかで、技術力の向上や最新設備の導入を通じて社員の専門性を高める取り組みも行っている。そこから課題の部分として営業や経理、法務などの専門人材を採用し、社内体制の強化と高度化を図ることで、社員一人ひとりが適材適所で能力を発揮し、主体的に提案・改善できる風土を醸成することも行っている。こうした取り組みにより、社会的認知度が上がり、社員が誇りを持って働ける環境が実現するのである。
社員の成長・意識向上のための仕組みづくり
御社で大切にしているものは何ですか?
弊社で大事にしているのは、やっぱり「正直さ」です。熱処理は見た目にはあまり変化がないので、預かった部品を処理し忘れて次の日に出荷してもわからない。だからミスをしても、隠さずに言ってほしい。怒られたくないからという理由で隠されると、本当に危ないものが出回ってしまうかもしれない。ですので、社員には間違っても大丈夫、後からちゃんと対処できることもあるということを伝えています。早い対応だと、大きな問題にならないことも、先延ばしにすると致命的な問題に発展するということを認識してもらうためにも徹底しています。昔は怒られて当たり前の風潮もあったのですが、今は正直に報告して改善する。その姿勢を大切にすることこそが、お客様に安心して使ってもらえる製品を届ける一番の方法だと思っています。横尾社長はどんな人ですか?
横尾社長は、会社を次のステージへ導く視点と柔軟な発想を持つ経営者だと思います。その理由は、創業フェーズのように事業を形にする段階から、今は社員の成長や意識改革に重きを置いた経営へと舵を切っているからです。たとえば、社員の社会的な立ち位置や仕事の意義を外から見つめ直す機会づくりを積極的に取り入れており、社員の内面的な変化や行動の進化を重要視しています。また、トップダウン型から会社を変えるために、現場の声にも積極的に耳を傾け、必要な戦略を受け止める度量も兼ね備えています。まさに今、弊社は過渡期にあると思っており、その中で横尾社長の存在が変革の推進力になっています。社員の働き方を見直したことで変わったことはありますか?
社員が以前より安心して休める環境に近づいてきたことが大きな変化です。もともと弊社には、会長が土日でも工場を見回りながら管理やメンテナンスを行うほど現場を大切にする文化があり、社員もその姿勢を学び、自然と「休むより会社を支えたい」という風土ありました。そのため制度を整えても、休みの日に不安で来てしまう社員がいたほどです。しかし、事業の規模拡大に伴い、すべてを経営者が把握し続けるのは難しくなったことから、報告・連絡・相談の仕組みや運営体制を整え、社員が安心して休める環境づくりを進めてきました。まだ浸透の途中ではありますが、最近では長期連休を取れる社員も増えてきました。会長が今も現場で指導を続けながら技術と文化を守りつつ、新しい働き方にシフトしているところです。株式会社 松徳(しょうとく)
1973年 大阪府柏原市高井田にて創業開始
1975年 同市 東条町にて 「株式会社 松徳工業所」 設立、連続炉・バッチ炉・ピット炉・台車炉 各1基で操業
1997年 大阪府羽曳野市にて真空熱処理開始、真空炉・焼戻炉・洗浄機 各1基で操業、真空炉・焼戻炉がつながる形体3ラインへ順次拡大
2001年 IS09001認証取得
2005年 大阪府柏原市円明町に工場移管集約、連続炉5基・バッチ炉2基・真空炉3基へ拡大、連続無酸化焼鈍炉新設
2012年 IS014001認証取得
2015年 奈良県五條市にて奈良工場竣工、脱リン洗浄装置の新設
2017年 真空浸炭炉の新設
2019年 ノンフレーム式バッチ炉の新設、3室型真空浸炭炉の増設
2021年 太陽光発電 奈良工場に導入
2022年 奈良工場 第3棟竣工、連続炉増設
2023年 連続ベーキング亜鉛バレルめっき装置導入
2024年 奈良工場 連続炉1基更新、柏原工場 連続真空炉新設
2025年 設立50周年を機に、社名を「株式会社 松徳」に変更
1975年 同市 東条町にて 「株式会社 松徳工業所」 設立、連続炉・バッチ炉・ピット炉・台車炉 各1基で操業
1997年 大阪府羽曳野市にて真空熱処理開始、真空炉・焼戻炉・洗浄機 各1基で操業、真空炉・焼戻炉がつながる形体3ラインへ順次拡大
2001年 IS09001認証取得
2005年 大阪府柏原市円明町に工場移管集約、連続炉5基・バッチ炉2基・真空炉3基へ拡大、連続無酸化焼鈍炉新設
2012年 IS014001認証取得
2015年 奈良県五條市にて奈良工場竣工、脱リン洗浄装置の新設
2017年 真空浸炭炉の新設
2019年 ノンフレーム式バッチ炉の新設、3室型真空浸炭炉の増設
2021年 太陽光発電 奈良工場に導入
2022年 奈良工場 第3棟竣工、連続炉増設
2023年 連続ベーキング亜鉛バレルめっき装置導入
2024年 奈良工場 連続炉1基更新、柏原工場 連続真空炉新設
2025年 設立50周年を機に、社名を「株式会社 松徳」に変更
| 創業年(設立年) | 1973年 |
|---|---|
| 事業内容 | 金属熱処理加工、めっき処理加工 |
| 所在地 | 大阪府柏原市円明町1000-30 |
| 資本金 | 1,000万円 |
| 従業員数 | 105名 |
| 会社URL |
監修企業からのコメント
この度は、取材にご協力いただきありがとうございます。熱処理という成果が見えにくいけど製造業にとって、なくてはなくてはならない独特な業種のなか、設備ではカバーできない「人間性」を育む御社の取り組みと、横尾社長の仕事に対する思いを聞き、人にも、ものづくりにも大切なことは「熱」である、ということを学びました。これからも益々のご発展を楽しみにしております。
掲載企業からのコメント
今回の取材を通じて、自分たちの歴史や価値観を改めて振り返る良い機会になりました。これからも、熱処理という、ものづくりには欠かせない重要な工程の大切さ、価値を発信して行きたいと思います。この度は、誠にありがとうございます。