港製器工業株式会社 代表取締役社長 岡室 昇志
1957年の創業以来、多岐にわたる金属製品の開発・設計・製造を手がけてきた港製器工業株式会社。現在会長を務める岡室昇之眞氏が創業した当時は、船舶関係の金物を中心に製造していたが、業界の不況などを契機として積極的に商品開発を行い、現在の会社の基盤が築かれた。その後の発展には2代目であり、現社長の岡室昇志氏のリーダーシップが大きく寄与している。「ものづくり」にとどまらず、「ソリューションの提供」を重視する岡室社長の方針により、同社は顧客の課題解決に貢献できているのだろう。会社の改革を推進した岡室社長の独自のスタイルとは。その想いと、さらに同社が見据える未来の展望についてお話を伺った。
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
イメージを実現するプロフェッショナル
港製器工業株式会社の社風は、挑戦を重視する姿勢が強いことであると岡室社長は語ってくれた。同社の経営理念である「Realize Your Image」、「イメージをスピード実現する達人として、共に未来を創ります。」には、「顧客のニーズに対して、期待を超える製品やサービスを達人レベルでつくり、提供したい」という岡室社長の想いが凝縮されている。顧客が思い描く「あったらいいな」を形にして提案することにより、作り手の理論や計画を優先させるプロダクトアウトではなく、顧客の声や視点を重視して商品の企画・開発を行うマーケットインを目指しているのだ。この理念の実現を社員全体が目指して行動している同社。その結果として積極的に挑戦していく文化が育まれているのだろう。ものづくり×技術対応による付加価値提案
付加価値と技術のある製品の提供をしていること。これが港製器工業株式会社の独自性である。その一つに同社の「ATOMU」がある。ATOMUという鉄骨建方治具は構造計算ができる一級建築士が数人いないと商売ができないほど高い技術力が必要であり、またリースできるほどの台数をつくるのに多額のコストがかかるため、稼働率を上げないと元が取れない。そのため、新規参入が難しく、特許が切れた今でも3社しか製造をしていない。そして、「落下防止ネット」も同社の技術力が詰まった製品である。通常は鉄でつくるところをアルミを素材に用いることで軽量化と美観を両立させ、さらにあらゆるマンションの納まりに対応することで、その価値を保つ役割を果たしているのだ。このように同社ではただでさえ技術が必要な商品を数多くつくり出しているが、それだけでなく、計算だけでは分からない安全性の証明のために、実際に試験を行い、証明書をつくっているのも同社の独自性と言える。これにより、顧客からの深い信頼を築き上げることができているのだろう。自律的な組織体制と持続的成長へ
岡室社長は今後の展望として、社長のリーダーシップに依存することなく、持続的な成長を実現できる組織を目指している。つまり、事業部ごとに独立した機能を持ち、各部門が自律的に事業を展開できる体制を構築することを目標にしているのだ。最近では、部署ごとに戦略会議を開き、具体的な課題解決策を議論しており、会社全体としての一体感が強まっている。また、社長自身も、従業員それぞれが自ら考え、リーダーシップを発揮していく「弱いリーダーシップ」を提唱している。カリスマ社長依存の企業文化から脱却し、後継者が自然に育つ環境を整えることを目指しているのだ。そのためには、次世代リーダーの育成が重要であり、現在の社員が将来的に会社を引っ張っていけるよう、それぞれが目標と責任を持って成長していける風土づくりを進めている。その結果、今後国内外での市場シェアを拡大していくことが期待できる同社にこれからも注目していきたい。柔軟な発想で変化を促進する経営者の価値観
ビジョンを実現するために、どのようなことがポイントになりますか?
ビジョンを実現するための最も重要なポイントは人材の育成です。特に、事業部長やリーダーとして活躍できるようなリーダーシップを持った人材をどう見つけ、どう育てるかが成功の鍵となります。まずは現状の分析をしっかりと行い、その上で戦略を立て、具体的な行動計画を策定し、それを実行に移せる人材が必要です。情報収集も重要な要素であり、戦略を立てるためには市場や顧客の動向を正確に把握することが不可欠です。具体的な計画を持ち、それに基づいて行動できる人材を育成することで、組織全体の目標達成に繋げたいと考えています。これらのポイントを押さえつつ、社内の有力なリーダー候補を見極めていくことが、ビジョン実現への道筋になると思います。岡室社長が大切にしている価値観を教えてください。
私が大切にしている価値観は、「ワクワクしながら仕事に取り組むこと」です。仕事について「挑戦を楽しみながら取り組む」と捉えることで、柔軟に対応することを重視しています。仕事が日々の業務に埋没してしまうと、視野が狭くなり、余裕を失いがちですが、そうした状況を避けるために、常に新しい視点を持ち、変化を恐れないよう努めています。そのため、過去には撤退した仕事もあります。やめる決断をする時は正直怖いですが、それによって自分たちが行きたい方向に進み、進化できると信じて方向転換を行い、組織の強みを最大限に活かす姿勢を保つようにしています。このように、枠に縛られない柔軟な発想が、会社の変化と成長を促進するのだと思っています。社員に期待していることはどんなことですか?
自ら仕事の面白さを見つけ、積極的に成長を目指して行動することを社員に期待しています。仕事を単なる義務として捉えるのではなく、自分自身の成長の場と考え、チャレンジを続けることで、新しい視点やスキルを身につけてほしいと思っています。失敗を恐れずに行動し、そこで得た経験から学び成長することで、仕事に対する姿勢も変わり、充実感も増すはずです。特に、「成功の反対は、行動しないこと」という考え方を大切にしているので、行動を起こさないことが最大の失敗だと捉えています。また、今後は次世代を担う新たなリーダーの育成や発掘にも力を入れていこうと考えているため、社員が自らの成長を目指し、意欲的に取り組むことで、会社全体が活気づき、より強い組織へと進化することを期待しています。日本と台湾で展開する 多面的な事業戦略
港製器工業株式会社 建材営業部 部長代理 鳥井 智敦
現在、港製器工業株式会社の事業は大きく3つに分かれており、船舶金具を扱うLS事業部、仮設・本設の資材などを展開する建材営業部、そして、その他金属製品の開発・設計・製造を行うメタル事業部がある。その中のひとつ、建材営業部で部長代理を務めている鳥井さん。そこでは建設現場で使われる仮設資材を取り扱っている仮設建材課、ビルや建物の本設に使用される金物の販売や施工を取り扱う建築金物課がある。鳥井さんはこれらの営業活動に加え、部門全体の管理、販路の拡大、人材育成など幅広い業務を担っている。さらに最近では台湾法人の設立に伴い、台湾市場への進出を担当しており、日本と台湾双方のニーズに応じた製品の開発や供給を任されている。岡室社長からも大きな期待を寄せられている鳥井さんに今回は同社の仕事のやりがいや、今後の夢について伺った。伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
自己成長できる事業と環境
入社理由として自己成長と事業内容を挙げてくれた鳥井さん。前職ではIT関連の業界で働いていたため、港製器工業株式会社の事業はまったく畑違いだった。しかし、社長が掲げる「港製器の器(うつわ)を使って、皆が成長し、さらに大きな器をつくろう」という考え方に共感したことが、入社を決意する大きな要因となったという。また、日本で3社しか取り扱いのないATOMUの話を聞き、自己成長したいと考えたこともきっかけになったという。現在まで鳥井さんは東日本エリアの営業を担当し、そしてATOMUを中心とした仮設資材全般の課長に就任、2年前からは本設にも関与、建設営業部全体を見るようになった。これらの経験を通じて、建築業界での視野を広げ、専門知識を深めることができたのだという。個々の成長を重視する企業文化と鳥井さんの成長意欲が、未経験ながらも業界の知識を身につけ、役職を任されるまでになったのだろう。街づくりに貢献する製品の開発と展開
鳥井さんは街づくりへの直接的な貢献にやりがいを感じているという。都内の数々の商業施設やビルが建設される際にはATOMUが使用されており、これにより、都市の風景が形成されていく過程に関わることができているためである。さらに、ATOMUを利用した施工は、従来の方法と比べて省力化が図れるため、職人から感謝の言葉をもらうことも多く、その声が鳥井さんの大きな励みとなっている。また、台湾でも建築技術の進化に貢献できることを実感したと教えてくれた。台湾の建築業界には今後発展が期待される部分があり、同社の技術を導入することで、職人の作業効率を高めることができたのだ。さらに、同社ではATOMUに続く新商品の開発にも取り組んでいる。使用者目線での製品構築を心がけており、新しい製品が完成し、実際に使用してもらった際に「使いやすい」と評価されることも大きなやりがいにつながっているという。これらの経験を通じて、同社の製品が建築現場で広く役立っていることを実感できるのが魅力だと語ってくれた。安全と効率向上を目指す製品開発の挑戦
「安心・安全に使える商品を開発し続け、世の中の建設に携わる方々が、もっと早く、もっと楽に、もっと安全に施工ができる商品を供給していくのが、私のやりたいことや夢に繋がってくる」と語る鳥井さん。同社が65年間でつくり上げてきた基盤を元にして品質管理のさらなる強化を図り、安心・安全に使えるものを世に送り出したいと考えているのだ。また、現在進行中の台湾市場への展開も重要な要素である。日本の優れた建設技術とATOMUを台湾に導入し、これから更なる発展が見込まれる現地の建設業界の安全性向上に寄与したいと考えていると教えてくれた。さらには台湾での成功を足がかりに、国際的な視野で事業を拡大することも考えているそうだ。こうした安全・安心な製品を次々と市場に投入して、世界中の建設現場に広めていくことに挑戦する鳥井さんの今後が楽しみである。「たすき掛け」の精神で挑む組織改革と情報の透明性向上
今後、会社としてどんな事業をしていきたいですか?
私は弊社を「たすき掛け」の精神で発展させる会社にしていきたいと考えています。これは、LS事業部、建材営業部、メタル事業部の各部門が相互に協力し合い、お互いの強みを活かして全社的な成長を目指すという意味です。例えば、建材営業部の扱っている仮設資材をLS事業部でも使用したり、メタル事業部でやっている仕事を建材営業部でも展開したりすることで、弊社全体が発展していくと思います。以前は縦割りの組織だったため、部門ごとの情報共有が不足していましたが、最近では月に2回の経営会議を通じて各部門の活動を共有し、自由闊達な議論が行われています。このような環境づくりを進めることで、情報の透明性を高め、部門間の連携を強化していき、最終的には、全ての部門が顧客から選ばれ、弊社全体の成長に寄与する組織を目指します。岡室社長はどんな方ですか?
岡室社長は、内に秘めた熱い情熱と強い意志を持った方です。「これだ」と思ったことは必ずやり遂げるような強い信念の持ち主である一方、市場の動向を的確に捉え、戦略を立てて仕事を進める姿は冷静でクレバーだと思います。その視野の広さと判断力が会社全体を支えているのではないでしょうか。また、単なる製品の提供にとどまらず、困難があっても乗り越えていこうと努力できるその姿は尊敬するものであり、その想いが浸透されている弊社は熱量高く仕事ができる環境が醸成されていると感じます。商品開発はどのように行っていますか?
弊社の商品開発は、会社の方針に基づき、市場が求めているものをより良い形で提供することを重視しています。このため、現場からの提案やマーケティングの結果を社として検討し、製品化を進めるという流れが一般的です。時にはニーズを理解している現場の方が図面作成を行い、必要な手続きを経て製品化を目指すこともあります。また、製造に関しては弊社で行うことが多いですが、外部の協力会社とも連携し、最適な生産方法を取っています。製造コストや稼働状況に応じて、社内外のリソースを使い分ける柔軟な対応を取ることで、効率的かつ高品質な商品開発を実現できると考えています。港製器工業株式会社
1957(昭和32)年3月 初代社長 岡室昇之眞が大阪市港区南市岡に港鍛工所を創業。
1961(昭和36)年3月 株式会社港鍛工所を設立。大阪市西区九条南にシャックル専用鍛造工場を新設して本社移転。
1968(昭和43)年4月 高槻(大阪)に工場を新設。本社および工場を移転。
1972(昭和47)年2月 港製器工業株式会社に商号変更。
1972(昭和47)年6月 建築用ターンバックル製造工場を新設。
1977(昭和52)年5月 弱電部品製造工場を新設し、倉庫を増設。
1978(昭和53)年1月 エクステリア製造工場を新設。
1990(平成2)年12月 コンテナ金物製造工場を新設。
1995(平成7)年8月 南倉庫増設。
1998(平成10)年11月 ISO9001認証を取得。
2002(平成14)年1月 ISO14001認証を取得。
2002(平成14)年7月 マンション向けエクステリア事業に参入。
2004(平成16)年3月 建築用ターンバックルでJIS取得。
2004(平成16)年5月 コンパクトブレース(建築用ターンバックル)で国土交通大臣認定を取得。
2004(平成16)年11月 スーパーブレース(建築用ターンバックル)で国土交通大臣認定を取得。
2007(平成19)年9月 一般建設業 大阪府知事許可(般-19)を取得。
2007(平成19)年11月 フェウッド(木造耐震ブレース工法)1Pたすき掛で国土交通大臣認定を取得。
2008(平成20)年7月 新社長に岡室昇志が就任。
2009(平成21)年2月 資本金を4,500万円に増資。
2010(平成22)年1月 経済産業省の雇用創出企業に選出される。
2010(平成22)年3月 大阪府経営革新計画承認企業に認定される。
2012(平成24)年1月 フェウッド(木造耐震ブレース工法)2Pたすき掛で国土交通大臣認定を取得。
2013(平成25)年4月 木場(東京)に東京事業所を開設。
2013(平成25)年5月 大洋製器工業株式会社からコンテナラッシング部門とRoRフェリーラッシング部門を吸収合併。
2013(平成25)年7月 中国での販売を事業目的とする常州太優港貿易有限公司を常州(中国)に設立。
2013(平成25)年11月 外構工事を事業目的とする株式会社ライフアップを株式取得により子会社化。
2013(平成25)年12月 東日本の物流拠点として辰巳(東京)に倉庫を開設。
2014(平成26)年3月 JR茨木駅前(大阪)にサテライトオフィスとして茨木事務所を開設。
2014(平成26)年4月 建材販売を事業目的とする株式会社アンフィニ設立。
2016(平成28)年5月 東京の辰巳倉庫を千葉県習志野市に移転し、東日本デポとする。
2019年(令和元年)9月 名古屋市(愛知)に仮設建材課 名古屋事務所を開設。
2019年(令和元年)10月 台湾での仮設建材を事業目的とする港製器股份有限公司を台北(台湾)に設立。
1961(昭和36)年3月 株式会社港鍛工所を設立。大阪市西区九条南にシャックル専用鍛造工場を新設して本社移転。
1968(昭和43)年4月 高槻(大阪)に工場を新設。本社および工場を移転。
1972(昭和47)年2月 港製器工業株式会社に商号変更。
1972(昭和47)年6月 建築用ターンバックル製造工場を新設。
1977(昭和52)年5月 弱電部品製造工場を新設し、倉庫を増設。
1978(昭和53)年1月 エクステリア製造工場を新設。
1990(平成2)年12月 コンテナ金物製造工場を新設。
1995(平成7)年8月 南倉庫増設。
1998(平成10)年11月 ISO9001認証を取得。
2002(平成14)年1月 ISO14001認証を取得。
2002(平成14)年7月 マンション向けエクステリア事業に参入。
2004(平成16)年3月 建築用ターンバックルでJIS取得。
2004(平成16)年5月 コンパクトブレース(建築用ターンバックル)で国土交通大臣認定を取得。
2004(平成16)年11月 スーパーブレース(建築用ターンバックル)で国土交通大臣認定を取得。
2007(平成19)年9月 一般建設業 大阪府知事許可(般-19)を取得。
2007(平成19)年11月 フェウッド(木造耐震ブレース工法)1Pたすき掛で国土交通大臣認定を取得。
2008(平成20)年7月 新社長に岡室昇志が就任。
2009(平成21)年2月 資本金を4,500万円に増資。
2010(平成22)年1月 経済産業省の雇用創出企業に選出される。
2010(平成22)年3月 大阪府経営革新計画承認企業に認定される。
2012(平成24)年1月 フェウッド(木造耐震ブレース工法)2Pたすき掛で国土交通大臣認定を取得。
2013(平成25)年4月 木場(東京)に東京事業所を開設。
2013(平成25)年5月 大洋製器工業株式会社からコンテナラッシング部門とRoRフェリーラッシング部門を吸収合併。
2013(平成25)年7月 中国での販売を事業目的とする常州太優港貿易有限公司を常州(中国)に設立。
2013(平成25)年11月 外構工事を事業目的とする株式会社ライフアップを株式取得により子会社化。
2013(平成25)年12月 東日本の物流拠点として辰巳(東京)に倉庫を開設。
2014(平成26)年3月 JR茨木駅前(大阪)にサテライトオフィスとして茨木事務所を開設。
2014(平成26)年4月 建材販売を事業目的とする株式会社アンフィニ設立。
2016(平成28)年5月 東京の辰巳倉庫を千葉県習志野市に移転し、東日本デポとする。
2019年(令和元年)9月 名古屋市(愛知)に仮設建材課 名古屋事務所を開設。
2019年(令和元年)10月 台湾での仮設建材を事業目的とする港製器股份有限公司を台北(台湾)に設立。
創業年(設立年) | 1957年 |
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事業内容 | ボルト・ナット・ねじ等製造業 船舶用ラッシング資材・物流機器 |
所在地 | 大阪府高槻市唐崎中 3-20-7 |
資本金 | 45,000千円 |
従業員数 | 110名 |
会社URL |
監修企業からのコメント
今回の取材を通じて、港製器工業株式会社の皆さんが持つ製品への信頼性と責任感を強く感じました。ATOMUや落下防止ネットなどの製品は、その高い強度と精度が求められるため、強度計算や品質管理が欠かせません。こうした信頼性の高い製品を世に送り出すために、徹底した管理と技術力が求められることを実感しました。自社製品を製造するという責任の重さと、それに誇りを持って取り組む姿勢に感銘を受けました。
掲載企業からのコメント
この度は取材をしていただきありがとうございました。取材を通して、日々の仕事や取り組みについて改めて見つめ直す良い機会となりました。自社製品の信頼性や安全性に対する考え方を言葉にすることで、私たちが本当に大切にしているものを再確認できました。今後も信頼される製品づくりに努めていきます。