株式会社関製菓本舗 代表取締役 関常行
創業から100年以上にわたり、京せんべいの製造と卸売を手がけてきた企業がある。それが株式会社関製菓本舗だ。包丁一本で渡り歩く職人時代、せんべいの渡り職人を初代創業者である関藤一氏が雇い、創業した。現在、4代目社長である関常行氏は、創業当初からの独自の技術と品質を大切にし、京都にある直売店「藤兵衛庵」でも多くの顧客に支持されている。コロナ禍の状況でも取引先や菓子屋同士で助け合い、乗り切った同社。日本国内だけではなく世界中に「せんべい」を知ってもらうために、「良い商品をつくって、お客様に喜んでもらうこと」を第一に、革新的な取り組みを続けている。そんな関社長が考える関製菓本舗のこれまでの歴史とこれからの未来について伺った。
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
最高の味わいを追求する信念
初代から続く伝統であり、当時からの職人たちも共通して持つ価値観である、何よりも「良いものをつくる」という信念。完璧な品だけをお客様に提供する。これは「お客様を裏切らない」という姿勢の表れであり、お客様に喜んでもらうための最も重要な要素である。また、京都という土地柄、信頼が非常に重視される。「良い商品をつくり、お客様に喜んでもらう」という基本理念を貫き続けることで、地域社会や業界からの信頼を築いてきた。
さらに祖父の代から続くチャレンジ精神も関製菓本舗の特徴である。せんべいにクリームを加えるなど、革新的な商品開発にも取り組み、共存共栄の精神で原料業者や販売店とも良好な関係を築いてきた。これからも、伝統を守りつつ、新しい挑戦を続けていくことが使命である。
この姿勢を持ち続けることで、関製菓本舗は今後もお客様に信頼され、愛される企業であり続けることを目指している。
お客様のための革新的な進化
お客様の要望に応じた柔軟な対応力と創意工夫が関製菓本舗の独自性だ。同社では、お客様の「こういうものが欲しい」というアイデアに対し、まず「できない」とは言わずに「やってみよう」という心持ちで取り組んでいる。例えば、お茶屋さんから「もっとお茶を入れてください」という依頼を受けたことがある。苦味を感じるほど十分に入っていても、お客様の期待に応えるため、せんべいそのものが卵風味で甘い卵せんべいを使用し、苦味との調和を図った。このように更なる改良を重ねた結果、素材の特徴を最大限に引き出した独自の商品が新たに生まれることもある。これにより、従来の製法にとらわれない新しい挑戦が可能となり、結果として技術の向上にも繋がる。最近では、特定の小麦粉を使ってほしいといった素材に関する要望も増えてきた。量販店に並ぶ一般的な商品ではなく、「ここでしか手に入らない特別な商品」を求めるお客様が多いのである。
このように、同社の独自性はお客様の多様なニーズに応じた柔軟な対応力と、伝統を守りながらも新しい挑戦を続ける姿勢にある。
世界に広がる”せんべい”の可能性
100年を通過点として、さらに150年、200年と続けていくために、商品開発と顧客開発を一体化させ、日本国内外での展開を視野に入れているという関社長。全国菓子大博覧会のような、いわば「お菓子のオリンピック」とも言えるイベントでのアピールも重要である。京都の工芸菓子が目玉となるこのイベントに参加し、同社のせんべいの可能性を広く伝えることが目標なのだ。
せんべいは焼き上げ直後に柔らかく、様々な形にすることができる。この特性を活かして、花束型や狐のお面型など、独創的なデザインの商品を開発している。これにより、日本国内だけでなく、海外市場でも新たな顧客層を開拓することが可能となる。
長い歴史を持つ関製菓本舗だからこそ、守りに入るだけではなく、新たな挑戦を続けることが大切である。時代の流れに応じて、甘さ離れや抹茶ブームといった消費者の嗜好変化に対応することで、常に進化を続けている。「せんべい」が「サムライ」や「抹茶」と同じように、海外でも広く認知される日が来ることを目指し、これからも努力を続けていく。
祇園祭の鉾と舞妓さんの焼き印を
押印した夏季限定商品
職人の手作業でつくられている
厚生労働大臣賞を受賞した
抹茶クリームせんべい
安全・品質にこだわり、世代を越えた感動を
経営を行う上で大切にしている考え方は何ですか?
今後の展望として、我々が最も重視しているのは「人を上手に育てること」です。次世代へ技術と理念を繋げていくためには、優れた職人を育成することが不可欠だと考えているためです。また、せんべいをつくるのと同じように、人材育成にも工夫が必要です。しかし、世代間の価値観の違いから、感動の共有や共感をすることが難しい場合もあります。それでも、人対人の関係において通じ合える部分は多いと信じています。
我々が目指すのは、普段の生活に感謝し、困難な状況にも柔軟に対応できる人材の育成です。
そのためには、現場での経験を通じて若手を鍛え、彼らが自信を持って仕事に取り組める環境を提供することが必要です。これからも、社員一人ひとりの成長を支援し、企業全体の発展を目指していきます。
100年続いてきた中で変わらないことと
変わっていくことを教えてください。
変わらないこととして最も大切にしているのは「お客様を第一に考える」姿勢です。毎日何千枚ものせんべいを焼く中で、常に「もっと良い商品がつくれるのではないか」という自問自答を続けています。ものづくりにゴールはないという気持ちを忘れずに、日々改良を重ねる姿勢は、これからも変わらず守り続けていきたい部分です。一方で、変わっていくべき部分もあります。これからの時代に対応するためには、時には積極的に攻める姿勢も必要です。市場の動向や技術の進化に目を向け、必要に応じて新しい挑戦を行っていくことが重要です。
このように、変わらない信念と変化への適応を両立させることで、次の100年もお客様に愛され続ける企業でありたいと考えています。
どんな人に、御社のお菓子のことを知ってもらいたいですか?
せんべいを贈ったら喜ばれるだろうなと思うような方々にぜひ知っていただきたいです。我々のせんべいは、小さなお子様から大人の方まで、幅広い年齢層の方々に安心して食べていただけるよう、安全な原料を使用しています。また、地域の小学生が工場見学に訪れる機会もあり、せんべいを通じて楽しい思い出をつくってもらえたらと思います。子どもたちがせんべいを食べることで、いつか懐かしく思い出して再び手に取ってもらえるようにと願っています。
また、工場併設の店舗「藤兵衛庵」では、春は桜、夏は都うちわ、秋は紅葉、冬は雪など、季節感をせんべいで表した商品を取り揃えています。お客様との直接のやり取りを通じて、さらに良い商品をつくり続けることが我々の目標です。
若い世代に 受け継いでほしい “未来へ繋ぐバトン”
株式会社関製菓本舗 取締役営業本部長 関雄介
15年程前に入社し、取締役営業本部長を務めている関雄介さん。現在、営業を一手に担っている。新規顧客の獲得にも力を入れており、年に2〜3回、東京ビッグサイトなどの展示会に出展し、新しい取引先を開拓している。また、新しいブランドとして展開している直売店「藤兵衛庵」は、コロナ禍により売上が大きく減少したが、その中でも新商品を考案し、営業活動を続けた。和菓子技能検定1級の資格を取得し、小学生向けの菓子体験授業や京都府菓子工業組合青年部の活動にも参加しており、パッケージや展示の方法を取り入れるなど、家業をより良くするために努力している。コロナ禍で迎えた100周年には、記念冊子を作成し、新しいブランド「OKAMAI」を立ち上げた。
伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
多彩な経験と新たな挑戦
関取締役にとって、関製菓本舗は、昔から家の一部のような存在で、幼稚園から帰ると工場で遊び、袋詰めの真似をしたり配達について行ったりしていたため、常に身近な存在だった。しかし、「将来家業を継ぐ」と具体的に考えていたわけではなく、むしろ、スノーボードやダンスなど、様々なことに挑戦してみたいという気持ちが強かった。 就職活動の時に自分が何をやりたいのか考えた結果、やはり昔から馴染みのあるお菓子業界に興味を持ったが、家業を継ぐ前に他のお菓子屋さんでの経験も積みたいと考えた。 そこで、勢いがあった滋賀県の和菓子屋さんで多岐にわたる仕事を経験した。この経験が家業を継ぐ上で非常に役立ったという。このような経緯で、関製菓本舗に入社し、多くのことを学んだ。今後も家業を発展させるために努力し続けたいと思っていると語ってくれた。お客様の笑顔が最大のやりがい
関取締役のやりがいは、何といってもお客様からの声にある。お客様から「おいしかったよ」という言葉をいただくと、やっていて本当によかったなと感じるという。関製菓本舗のお菓子には、人を和ませる力があり、そうしたお客様の声を直に聞けるというのは関取締役の目指していた場所でもある。 同社のせんべいは、先代から受け継がれた製法や原料の配合があり、今でも愛されている。例えば、日本で初めてクリームを詰めた丸いせんべいをつくったり、その製法の特許を取得していたこともある。現在では、他社にも製法を教えているが、クリームコロンの原型が同社のせんべいであったことは誇りであると同時にお客様が同社の製品のルーツを知り、感謝の言葉をいただくと、大変嬉しく思っているそうだ。 関製菓本舗ではお客様の声を大切にし、常に品質を追求している。お客様に喜ばれる商品を提供し続けることが、最大のやりがいであり、これからもその信念を持ち続けていきたいと考えている。世界へ広がるお菓子の旅
まずは「関製菓本舗の150周年を目指すことが夢」と語る関取締役。これまで日本国内で多くの場所に足を運んできたが、まだまだ広められる場所がたくさんある。また、海外市場への進出・拡大を視野に入れ、インバウンド客だけでなく、日本のお菓子文化を世界中に広めることを目標にしている。世界中の人々に同社のお菓子を楽しんでもらえるようにしたい。このためには、着実に一歩一歩地道に進んでいくことが大切だが、その過程で会社の規模を拡大し、多くの人々に関製菓本舗の製品を知ってもらいたいと考えている。 また、職人やスタッフが共に働く環境を整え、彼らの労働条件を改善することも、大切だと考えている。 家業の5代目として、家業を継ぐ時期はまだ決めていないが、常に前向きな姿勢で取り組んでいくつもりである。不安は多いが、考え過ぎずにやれることを精一杯やるという信念を持っていると語ってくれた。ついてYoutubeチャンネルでも
紹介された
焼きあげている
江戸時代から伝わる京絹巻
商品の魅力を伝えた
伝統と革新の融合、世界へ
夢の実現に向けて、どんなことが重要になると考えていますか?
現在、特に力を入れているのは人材確保と育成です。業界全体が人手不足に悩む中、関製菓本舗も新しい才能を確保し、一人前の職人として育成していくことが重要です。また、なかなか手を付けられていない業務の効率化も課題ですが、ただ単に効率を上げるだけでなく、システムを改善し、より使いやすく、生産性の高い環境を整えていきたいと考えています。展示会や外の仕事の中で得た知見や経験を活かし、チームと共に成長していきたいと考えています。海外への販売に向けた想いを教えてください
関製菓本舗は東京ビックサイトでのイベントを通じて繋がった、海外向けのYouTuberとのコラボレーションがきっかけで海外市場に進出しました。この結果、動画を見て実際に関製菓本舗の商品を購入するために海外から来店する人々も現れました。海外市場の広がりを実感するとともに、情報発信の重要性を改めて認識しました。
今後は、インスタグラムやFacebookなどのSNSを活用し、よりこまめに情報を発信していくことを目指しています。こうした地道な取り組みを通じて、我々の商品が世界中で愛されるようになることを願っています。
御社の京せんべいの魅力を教えてください
関製菓本舗では、毎日何万個ものせんべいをつくりますが、その際、我々が心に留めているのは、顧客が手にするのはその一つひとつだということです。その一個を失敗したら、顧客の信頼を失うことに繋がってしまうため、常に最高の品質を目指しています。さらに、関製菓本舗では、原料や製法など伝統を守りつつ、現代のニーズに応じた新しい製品を開発しています。この妥協をしない姿勢が、我々のせんべいを特別なものにしているのです。
このような姿勢で取り組むことで、自信を持って営業活動を行い、真に価値を理解していただける顧客様へ製品を提供しています。伝統と革新を融合させた関製菓本舗のせんべいが、皆様の心を豊かにする一助となることを願っております。
株式会社 関製菓本舗
1922年 現在の千本鞍馬口にて創業 (関 藤一)初代
1936年 旧満州国大連西通りに進出
1942年 大連市菓子協同組合理事長に就任
1947年 終戦により大連市より引き揚げ、現在地(京都市北区大将軍)にて営業
1949年~1967年 京都煎餅組合理事長を歴任
1954年 京都開催の全国菓子大博覧会にて特別出品局長を拝命
高松宮宣仁親王に『カルルス』『パピロス』を献上
昭和天皇にご披露頂きお礼状を拝受
1959年 法人組織に改組
1979年 代表取締役 関 五郎(2代目)が就任
2009年 代表取締役 関 世志仁(3代目)が就任
2010年 専務取締役 関 常行が京都煎餅組合理事長に就任
2012年 代表取締役 関 常行(4代目)が就任
1936年 旧満州国大連西通りに進出
1942年 大連市菓子協同組合理事長に就任
1947年 終戦により大連市より引き揚げ、現在地(京都市北区大将軍)にて営業
1949年~1967年 京都煎餅組合理事長を歴任
1954年 京都開催の全国菓子大博覧会にて特別出品局長を拝命
高松宮宣仁親王に『カルルス』『パピロス』を献上
昭和天皇にご披露頂きお礼状を拝受
1959年 法人組織に改組
1979年 代表取締役 関 五郎(2代目)が就任
2009年 代表取締役 関 世志仁(3代目)が就任
2010年 専務取締役 関 常行が京都煎餅組合理事長に就任
2012年 代表取締役 関 常行(4代目)が就任
創業年(設立年) | 1922年 |
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事業内容 | 煎餅・焼菓子製造、不動産賃貸 |
所在地 | 〒603-8333 京都府京都市北区大将軍東鷹司町135 |
資本金 | 40,000千円 |
従業員数 | 35名 |
会社URL |
監修企業からのコメント
この度は、取材にご協力いただき誠にありがとうございました。「良い商品をつくり、お客様に喜んでもらう」ために、創業から100年以上続く伝統大切にしつつ、時代に合わせて進化を続けている株式会社関製菓本舗様のお話は非常に学びが多く、終始聞き入ってしまいました。日本国内だけではなく海外のお客様からも愛される関製菓本舗様の今後に注目して参ります。
掲載企業からのコメント
この度は取材をしていただきありがとうございました。取材の中で、これまでの商品開発の歴史や取り組みを振り返ることができました。取材の中でお話したことを一つずつ実現し、その先に繋いでいきたいと思っています。この取材をきっかけに少しでも弊社に関心を持っていただければ幸いです。