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株式会社竹中製作所

株式会社竹中製作所 代表取締役社長 竹中佐江子

グローバルニッチとは、世界市場においてニッチとみなされる市場分野のことである。日本にも世界に誇れるグローバルニッチ企業は複数ある。その中の1つが今回取材した竹中製作所だ。同社ではボルト事業と電子機器事業をメインに行っているが、今回の取材では会社発展のきっかけとなった、ボルト事業の表面処理について主にお話を伺う。
海上施設などで使われるボルトやナットの防錆防食を目的に開発された商品である"タケコート"。世界初のカーボンナノチューブと樹脂塗料の複合被膜である"ナノテクト"。どちらも世界中から評価されている防錆防食被膜だ。これらの独自製品がどのように生まれたのか。取材を通しその理由をひもといていく。

伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質

自発的で積極的な組織を目指して

自発的で積極的に動く社員の集合体。これが竹中社長の考える竹中製作所の理想の社風だ。
「時代の流れが早くなり、いろんなことがどんどん変わっていく。過去と同じことを踏襲していては、会社としては成長できない」そう竹中社長は語る。その時代に対応するには、社員一人ひとりが自発的で積極的に動く必要がある。
会社を良くする活動や会社の目指す方向性を実現する行動などを、上から指示するだけではなく、自発的に組織のあらゆる場所で行えていることが理想だ。
それを実現するために、自発性や主体性を発揮できる場や機会をつくっている。例えば、管理職懇話会では、部門間を越えたグループをつくり、課題を解決するための議論を行ったり、また若手社員に経験をさせるため、若手主導でホームページ刷新や85周年記念誌作成のプロジェクトなどを毎年実施している。
近い将来、"自発的で積極的に動く社員"が大多数となるのは、間違いないであろう。

課題を解決する独自製品開発への挑戦

同社は独自製品でグローバルニッチの座を獲得した。その独自製品というのはタケコートやナノテクトといった防錆被膜製品だ。海に面した施設などのボルトやナットは、塩害で錆びやすい。その課題を解決するために開発されたのがタケコートである。開発当時、他に確立されたボルト、ナットの防錆技術はなかった。防錆防食に優れたタケコートは、東京湾アクアラインや大阪市営地下鉄、海外の公共事業、大規模プロジェクトなど多く企業や団体に採用されている。それは、その品質と独自性を認められたからという他ならない。
ナノテクトも挑戦から生まれた製品だ。防錆性に加え耐摩耗性や衝撃耐久性などを高めた製品を開発するために、一般的に取り扱いが難しいと言われていたカーボンナノチューブにも挑戦。京都大学名誉教授や専門商社との共同開発により、世界初の"塗料へのカーボンナノチューブの高濃度均一分散"に成功。
難題にも挑戦する姿勢。この姿勢があるからこそグローバルニッチになりえたのであろう。

独自製品を開発し続ける

「他社が簡単にまねできない独自製品開発にさらに力を入れていきたい」そう竹中社長は語る。それは、"小粒でも確実な存在感のある、ニッチな世界できらりと光る企業でありたい"という思いが根底にあるからだ。
同社は、売上を10倍にするというような単純な事業規模の拡大を目指しているわけではない。あくまでお客さまのお困りごとや課題を解決していく、世の中にまだない独自製品をつくり出すことに主眼を置いている。
タケコートも正にこの考え方から生み出された商品で、結果、多くの国や企業に支持され、それが売上に反映されている。
今後も、さらに独自製品開発を進めていくために、人材育成に力を入れている。主体性を養える場や機会を提供し、社員一人ひとりの積極性を高め、トップダウンだけでなく、組織全体でアイディアを出し、独自製品の種を生み出そうとしている。
同社が挑戦し続ける限り、独自の新商品を生み出すことに疑いの余地はない。
看板製品のタケコート
80周年記念式典でのひとコマ
昭和10年 創業時の写真

グローバルニッチになりえた独自製品はどのように生まれたのか

創業当初からこのような経営スタイルだったのでしょうか?

以前は違いました。今のような独自製品に力を入れようとなったのには理由があります。
1980年代にプラザ合意で、急激な円高になりました。それまで一般品の輸出が、当社の売上の大半を占めていたのですが、急激な円高の影響で激減しました。それに加え、オイルショックで、大きなお客さまであった製油所のメンテナンスも激減しました。なんとかしなければならないと今後の方向性を考えました。一般品の大量生産をする工場では、結局は価格勝負になってしまう。それでは事業は継続していけない。ならば、高付加価値品や独自製品を生産するように大きくかじ取りを変更していこうと。1980年代の事件を経て、1985年以降独自製品に力をいれた受注生産型の経営スタイルになっております。

貴社発展のきっかけとなったタケコートの製作秘話を教えてください

製油所など海に面している施設は、塩害にさらされています。しかし、その当時は、ねじへの確かな防錆技術はありませんでした。その課題を解決したいという思いから、京都大学の防錆防食の専門家や表面塗装の権威のある先生を頼り、産学連携でタケコートを5年掛かりで開発しました。
無事開発することが出来ましたが、販売当初は、実績がなく、国内の既存顧客にPRをしたにも関わらずまったく売れない期間が5年近くありました。
しかしアメリカの展示会で知り合った米国大企業の技術者が非常に関心を持ってくれました。実際にその会社で実験や検査を行い、性能を評価していただき、結果、マレーシア沖の大きなプロジェクトに採用していただきました。その話が逆輸入的な感じで国内にも広がっていき、今に至ります。

社員同士の交流を促進する取り組みを教えてください

部署間の交流を活発にしようと誕生会という催しを毎月行っています。ボルト事業部と電子機器事業部があり、両方とも東大阪が拠点なのですが、やっている仕事がまったく違うため、関わることがあまりありません。ただ、せっかく同じ会社の社員なのだから、もっと交流した方が良いと思っています。毎月、その誕生日に各部署の社員が集まって一緒にいろいろお話をします。堅苦しい場ではなくて、ざっくばらんな雰囲気の会です。
それと、年に1度ある創立記念式典の後で、全員で集まって懇親会をしています。当社は、東大阪以外にも東京や神戸、海外にも拠点があり、社員が一同に会する場はなかなかありません。このような場を設けて交流を図っています。

これからを担う 防錆被膜の研究者

株式会社竹中製作所 ボルト事業部 表面処理グループ 神山 研太

お話を伺ったのは、入社4年目若手のホープである神山さん。表面処理製品の性能試験や品質改良、他社製品との比較試験など行っているボルト事業部に所属している。本業以外にも若手主導のプロジェクトへ立候補するなど積極的に仕事に取り組んでいる方だ。
兵庫県に、ずっと住んでいる地元人で、大学院も関西の学校に通っていた。
大学院では、材料科学の分野、カーボンナノチューブなどの研究を行っていたその道の専門家だ。大学院の就職セミナーでナノテクトという、カーボンナノチューブを利用した防錆被膜を開発した同社に惹かれ入社し、同社の研究職を邁進している。今回の神山さんの取材を通し、竹中製作所の魅力をお伝えしていく。

伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い

大学院で研究したことを生かすために

神山さんが同社に入社したきっかけは、カーボンナノチューブ関連の仕事に就きたいと考えたことだ。神山さんは、大学院時代にカーボンナノチューブ材料の研究をしており、それを生かせる会社に就職したいと考えていた。そんなある日、大学院で開催された就職セミナーに参加。その中に竹中製作所がブースを出していたのだ。 「よくよく話を聞いたら、カーボンナノチューブを使った塗料を扱っていて、それの仕事に携われたら面白そうだなと思いました」そう神山さんは語る。 カーボンナノチューブは、業界としての幅はかなり狭い分野で、実際にカーボンナノチューブを使用した製品を実用化している企業は少ない。同社は、京都大学名誉教授や専門商社との共同開発により、世界初の"塗料とカーボンナノチューブの高濃度均一分散"に成功している。 その同社の存在を知った神山さんが入社を決意したのは自然な流れだった。

大きな仕事と主体的な仕事

やりがいは大きく2つ感じているという。1つは大規模な仕事に関われること。もう1つは、若手でも様々な仕事にもチャレンジできることだ。 現職の表面処理の仕事の中で、シンガポールなどの海外他社製品との比較試験がある。会社によって様々な表面処理があり、それらと同社製品を比較しどれだけ優位性があるのかというのを調べる試験だ。それは大規模試験で、期間は半年や1年掛かるようなスパンで行っている。神山さんは、その規模の大きな業務にやりがいを感じているとのことだ。 もう1つは、若い人が主体性をもって自由に行えるプロジェクトがあることだ。例えば、会社紹介動画を新しく更新するプロジェクトがある。会社が決めているのは、新しく動画をつくるということだけ。 どういう内容・コンセプトでつくるかといったことや、どのような外部会社に依頼をするかなどは、全部若手主導で1から決めて実践している。このような取り組みが、次世代をつくる社員の育成につながっている。

かけがえのない人材になる

今後の目標は大きく2つ。「技術者として、社内からもお客さまからも頼られる存在になること」「新たな看板商品を開発すること」神山さんは目標についてそう語る。 頼られる存在になるためには、豊富な知識や高度な技術が不可欠だ。ひと言で表面処理と言っても非常に奥深い世界で、入社後4年になる神山さんでも、まだまだ把握しきれてないという。まず知識を付けるため、勉学に励んでいる。例えば、表面処理技術のベテランの定期的な講義の受講や、防錆管理士という、腐食や錆に関する資格を勉強し防錆管理士の資格を取得している。技術については、社内で様々な技術試験があり、そのような場で実務的な技術力を磨いている。 頼られる存在となった後は、新製品の開発をしたいと意気込む。現在、「タケコート‐1000」、「タケコート-セラミック1」、「ナノテクト」と3つの看板商品がある。神山さんは新たな4つ目の看板商品を開発してみたいとのことだ。勉強熱心な神山さんなら、その夢も実現できるに違いない。
独自の製品を生み出す工場の一角
自動化も進めている
万能引張試験機

現場研究者から見た竹中製作所

神山さんがやられているお仕事を詳しくお教えください

研究開発寄りなのですが、他にもいろいろ仕事を行っています。
まず研究開発は、製品のさらなる改良を行っています。弊社の製品で、ボルト・ナットにコーティングする表面処理製品「タケコート‐1000」、「タケコート-セラミック1」、「ナノテクト」と3つの主力商品があるのですが、その製品の改良ですね。他には、自社製品のPRを目的とした、他社の表面処理と比較性能試験などもやっています。
研究開発や試験以外にも、お客さま向け技術資料の作成や、お客さまに技術的な説明が必要な際に営業マンに同行することもあります。現場の塗装ラインに入って作業することもあります。
製造部門も研究部隊もひっくるめて表面処理グループですので、業務も多岐にわたっております。

神山さんから見た社長の印象を教えてください

新しいことに積極的に取り組んでいく姿勢の方だと思います。
近年の日本全体的な人手不足への対策として、人が少なくても製品がつくれるような新しい機械を購入したり、工場の自動化にも力を入れていたりと設備投資を積極的にやられています。丁度、私の所属している表面処理グループの工場も、工場ごとリフォームという形で、新しい自動ラインを導入し、作業効率を向上する動線に配慮した工場が秋には完成します。
最近始まった、若手主導でのプロジェクトを実施するというのもそうです。社長は、若手世代の活性化に取り組んでいて、私も、会社紹介動画を新しくするプロジェクトの参加に立候補させていただきました。

神山さんから見た会社の強みを教えてください

研究設備が充実していることです。
入社して改めて気づいたのですが、技術者の視点から見ても、試験や研究設備が充実していることで、高品質を保証することができます。大学院で研究を行っていた私の目から見ても、ちょっとした研究所レベルでの研究設備があります。例えば、ボルトをつくる際の材料の試験で引張試験機を使います。その引張試験機とは、金属の強度を測る試験機で、竹中製作所には200トンクラスの引張試験機があります。これは主に鉄鋼材料を扱っている会社さんで導入されているものですが、200トンクラスまで扱っているのは業界でも相当珍しいです。その他、透過型電子顕微鏡(TEM)と走査型電子顕微鏡(SEM)を所有しており、カーボンナノチューブの観察といった、微小な領域の分析を行うことができます。このように設備がとても充実しているので、より高いレベルで品質向上や開発につなげていきたいです。

監修企業からのコメント

竹中社長、神山様、この度はお忙しい中にも関わらず、取材を快くお受けいただきましてありがとうございました。
世の中にまだない商品を開発し、課題を解決する姿勢に感銘を受けました。グローバルニッチ企業として、これからも日本が誇る企業であり続けてください。

掲載企業からのコメント

この度は、取材していただきありがとうございました。
当社の考え方や現場研究員が感じていることを改めて文字にでき、様々なことが整理できたと思います。今後も、"小粒でも確実な存在感のある、ニッチな世界できらりと光る企業でありたい"と思います。当社のことを引き続き宜しくお願い致します。

株式会社竹中製作所
昭和10年11月 竹中昇個人経営のもとに大阪市港区市岡浜通に於て創業
昭和17年 1月 海軍監督官指定工場となり株式会社藤永田造船所の艦艇用ボルト・ナット、リベット並に海軍燃料工廠石油精製装置用ボルト・ナットを専属製作
昭和27年 8月 大阪市浪速区幸町通1丁目4に幸町工場を新設し合金鋼・特殊鋼製品の量産に入る
昭和31年 5月 現在大阪市大正区南恩加島6丁目2番41号に恩加島工場を新設、旧工場を移転
昭和35年 4月 布施工場(現在:東大阪工場)落成、幸町工場を移転、全面稼働
昭和45年 6月 輸出貢献企業として通商産業大臣より表彰を受ける
昭和59年 5月 樹脂コーティングボルト・ナットの特許許可される(特許 第1206194号)
昭和60年10月 セラミックコーティングボルト・ナットを開発し、製造・販売に入る
昭和60年12月 現在地に本社ビルを新築移転
昭和61年 4月 アメリカ・エクソンモービル本社のマスターベンダーリストにタケコート®-1000が採用認定される
平成元年10月 電子機器事業部発足
平成 7年 1月 東京湾横断道路セグメント締結にタケコート®-1000付ボルト・ナットが採用され、納入を開始
平成 8年12月 アラブ首長連邦、国営石油会社(ADNOC)よりタケコート®-1000ボルト・ナットの特命採用承認を受ける
平成10年 1月 (社)中小企業研究センターより、中小企業研究センター賞を受賞
平成11年 4月 焼付防止に優れた特殊樹脂処理「タケコート®-やきつきノン」の特許共同出願
平成11年 4月 電気絶縁特性に優れた絶縁ボルト「エレカット」の製品化
平成15年 3月 第5回東大阪モノづくり大賞において金賞を受賞
平成17年 8月 経済産業省「第1回ものづくり日本大賞」経済産業大臣優秀賞受賞
平成18年 4月 カーボンナノチューブ含有高硬度防錆皮膜処理「ナノテクト®」の特許出願(特願2006-122801)
平成18年 4月 経済産業省中小企業庁編「元気なモノ作り中小企業300社」に選出される
平成18年10月 「ナノテクト®」が平成18年度経済産業省戦略的基盤技術高度化支援委託事業に採択される
平成21年 4月 「ナノテクト®」の製品化により、第21回中小企業優秀新技術・新製品賞の優良賞と技術経営特別賞を受賞
平成21年 4月 第21回中小企業優秀技術・新製品賞の技術経営特別賞を受賞(ナノテクト®の研究開発による)
平成22年 6月 「ナノテクト®」特許認定
平成24年 2月 経済産業省「第4回ものづくり日本大賞」経済産業大臣優秀賞受賞
平成24年11月 大阪国税局より優良申告法人として表敬を受ける(昭和44年の第1回より連続して認定)
平成26年 3月 経済産業省認定の「グローバルニッチトップ(GNT)企業100選」に選出される
平成26年 4月 同期電動機の制御装置および制御方法(永久磁石同期電動機のセンサレス制御)に関する特許取得(特許第5534991号)
平成26年 4月 春の叙勲において、竹中弘忠会長が旭日中綬章を綬章
平成28年10月 電子機器事業部にて、ロボットの輸入販売・レンタル事業の開始
平成28年11月 アラブ首長国連邦にTAKENAKA MIDDLE EAST LLC社を設立
平成28年12月 経済産業省の『新市場創造型標準化制度』を活用した標準化案件として「ナノテクト®」が採択され、JIS規格化 【カーボンナノチューブ複合樹脂塗膜:JIS Z 8921-2016】される
創業年(設立年) 1935年(昭和10年)
事業内容 各種合金特殊鋼製ボルト・ナット、スタッドボルト・ナット、及機械部品全般の製造、販売、輸出 表面処理技術(タケコート®-1000)(タケコート®-セラミック1)(ナノテクト®)の塗装、販売 モーター制御技術や画像処理技術を活かしたソフト・機器 開発製造
所在地 〒578-0984 東大阪市菱江6丁目4番35号
資本金 4,680万円
従業員数 155名(新卒・中途比56:44、男女比79:21、平均年齢36.5歳)
会社URL

株式会社竹中製作所