株式会社石川工具研磨製作所 代表取締役社長 石川直明

今回取材させていただいた株式会社石川工具研磨製作所は、切削工具の再研磨を担う、ものづくりの現場を支える企業である。1983年に創業した同社は、もともと再研磨事業からスタート。使い込まれて切れ味が落ちたドリルやエンドミルといった刃物の精度を回復させて再生する技術を磨いてきた。25年ほど前には、より高精度な加工を可能にするNC工具研削盤を導入。再研磨だけでなく、新たに刃物の製造にも挑戦し、事業の柱を2本に広げた。現在では、業界ではトップクラスの規模を誇る会社へと成長した。幼い頃から父の仕事を見て「自分もいつかこの会社を継ぐんだろうな」と考えていた石川社長。取引先である、NC工具研削盤メーカーでの修行を経て、家業を継ぐ形で入社し、27年間現場を支え続けてきた二代目石川社長に、同社の歩みとこれからについてお伺いした。
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
社員が自ら発信し、技術を教え合う文化
同社の社風は、若い社員が多く、風通しが良いことである。トップダウン型ではなく、社員からの意見を積極的に取り入れるボトムアップ型の文化が根付いている。社長がいなくても組織が自律的に動けるよう、社員一人ひとりが主体的に考え、発言する環境を大切にしている。一つの例として、同社はユニフォームが8種類あり、社員は好きなものを選べる。これも社員からの発信で始まった取り組みとのこと。これは、単に働きやすさを追求した結果ではなく、持続的に成長する組織を目指す中で自然と培われたものなのだろう。また、仕事の属人化を防ぐ取り組みにも注力している。特定の人に依存せず、誰でも業務を担える体制を構築するため、教育に力を入れ、技術の継承を仕組み化している。良い職人は技術を抱え込まず、次世代に伝える存在だという考えのもと、若手育成にも積極的である。これもまた、若手からベテランまで組織全体で技術を高め合い、より大きな挑戦へ備える姿勢の表れなのだろう。石川工具研磨製作所だから解決できること
研磨業界における同社の独自性は、高い品質と提案力にある。同社は、大手メーカーと遜色ない精度を誇る。この精度は、単なる研磨作業にとどまらず、顧客の困りごとに応じた付加価値を提供する点で他社と一線を画している。具体的には、刃物の形状やコーティングを含め、使用環境や素材特性に合わせた最適な再研磨を提案している。このように、ただ作業を行うだけではなく、顧客ごとのニーズに寄り添い、最適な提案をすることが同社の強みである。また、営業エリアは東北から九州まで広がり、地域ごとの課題解決に尽力している。これにより、地元の研磨業者では解決が難しい課題に対しても対応している。同社の高い品質の根幹には、先代社長から続く品質への執念と、多様な設備投資がある。国産から海外製まで幅広い機械を導入し、用途に応じた最適な加工体制を整備している。困っている顧客の課題に真正面から向き合い、適切に提案する姿勢こそが同社の独自性である。チーム力を強化し、付加価値の創造を
石川社長は、同社の今後の展望について、これまでの拡大路線から成長路線への転換を考えていると述べている。創業から42年を迎える同社は、業界全体の拡大に乗って順調に成長してきたが、今後は急激な拡大よりも、現状のリソースを活用した成長を目指すという。コロナ禍を経て、社会全体が変化し、単純な規模の拡大ではなく、成長を重視する必要があると感じている石川社長。具体的には、従業員数や設備の増加ではなく、現在の業務内容をさらに充実させ、付加価値をつけていくことが重要だと考えている。例えば、販売方法の多様化やネットを活用したマーケティングなど、新たなアプローチを取り入れることを視野に入れている。また、社員教育にも力を入れ、若い人材に積極的に外部のイベントや展示会に参加させ、新しい技術やアイデアを取り入れさせることが重要だと強調している。これにより、同社全体の技術力や発信力を高め、成長を促進させる狙いがある。


「できる」ことを「ちゃんとやる」想いを言葉で伝える大切さ
兄弟で経営している良さはどんなところにありますか?
兄弟で経営する良さは、何より「長く向き合える関係性」にあると考えています。社員さんの場合、教育や育成にかける期間は短くて3年、長くても5年ほどかもしれません。しかし兄弟や家族であれば、期限を設けず、長い時間をかけてじっくり関わり続けることができます。仕事においても、家族だからこその信頼感を持ちながら、同時にプロとして割り切った意識で、同じ目標に向かって歩んでいけるのが強みです。普段のコミュニケーションは会議や打ち合わせが中心ですが、家族で集まった時にも自然と仕事の話になり、プライベートな空気の中で本音を交わせるのもメリットだと感じています。一方で、兄弟だからこそ「これくらいやってくれるだろう」と甘えが出やすい難しさもあります。それでもお互いを信頼し、支え合いながら、これからも力を合わせて挑戦を続けていきたいと考えています。石川社長が大切にしている考え方はありますか?
弊社では、経営理念を大事にしています。私が社長に就任した際、自分の想いを込めてつくり上げました。目指しているのは、社員だけでなくその家族も含め、関わる全ての人々が少しずつでも豊かになっていく会社であることです。それは物質的な豊かさだけでなく、心や考え方の成長も含まれています。人はやはり、同じ場所に留まることや後退することに寂しさを感じるものですから、常に前向きに成長できる環境を提供したいと思っています。社長になってから強く感じたのは、景色がまったく変わったことです。以前は見えていなかったことも、責任を持つ立場になるとまったく異なり、発言や行動が自分に返ってくるため、慎重になります。さらに、社長になったことで周囲が少し距離を置くこともありましたが、だからこそ自分から積極的に歩み寄り、関係性を大切にしていくことが重要だと感じています。経営理念を実現するためにどんなことが必要だと思いますか?
弊社の理念は「お客様に最高の仕事を提供して、挨拶・笑顔・ありがとうを忘れず、社員やその家族が豊かになるため共に成長し、明るい企業をつくろう」というシンプルだけど大事な想いなんですよね。これ、読めば「なるほど」って思うんですけど、実際に行動に移すのは別の話。特に挨拶なんて「できます」ってみんな言うけど、じゃあ自分からちゃんとやってるかというと意外とできてないんですよね。だから、うちでは朝礼で理念を唱和する時間を設けてます。前は全員でやってたんですが、工場を新しくした関係で場所がなくなって中断してたんです。でもやはり「言葉にして届ける」ことが大切だと再確認して、また各部署で唱和を再スタートしました。理念は貼っておくだけだとダメで、みんなで声に出して、意味を噛みしめながら行動に繋げることが大事だと思ってます。
やってみせ、言って聞かせ、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ
株式会社石川工具研磨製作所 課長 後藤晃賢
製造現場の最前線でチームをまとめる後藤課長。株式会社石川工具研磨製作所の製造部で課長を務める後藤さんは、材料の調達から現場作業、管理業務に至るまで幅広く活躍している。日々現場を支え、問題が発生すればすぐに駆けつけて対応し、現場第一の姿勢を貫いている。前職でも製造業に従事していた後藤課長は、同社のものづくりに対する姿勢に感化され、入社を決意した。入社後は、製造に関わる多くの工程を経験し、現場で得た知識と技術を後輩たちに伝えてきた。後輩たちの成長を見守り、彼らが成長していく姿にやりがいを感じているという。後藤課長は、部下が自分の成長を超えることを大切にしており、常に現場に目を向け、問題解決に取り組むことで部下の自信にも繋げている。現場のリーダーとして確かな指導力を発揮し、製造部全体を牽引している。今回は、後藤課長に仕事のやりがいや夢についてお伺いした。伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
製品に真摯に向き合う姿勢に惹かれて
後藤課長が同社に入社を決意した理由は、前職の製造業での経験を活かし、さらなる成長を目指したいという想いからである。その決め手となったのは、実際に工場見学をした際に目の前で見た社員一人ひとりの真摯な仕事ぶりであった。特に印象的だったのは、現場で働くスタッフたちの姿勢だ。どんな小さな工程にも手を抜かず、品質に対する強いこだわりを持ち続ける姿を見て、この職場で自分も働きたいと強く感じた。同社が大切にしているのは、ただ製品をつくるだけではなく、その製品に対する責任感を全社員が持っていることである。品質の追求や改善に対する真摯な取り組みを見て、自身もその一員となり、共に成長していきたいと考えた。また、社員間の協力や支え合いの姿勢にも非常に魅力を感じた。先輩社員が後輩に対して親身に指導し、支え合う雰囲気が社内に根付いている。そんな真摯に向き合う姿勢に惹かれて同社に入社したのだ。メンバーの成長が一番の喜び
後藤課長が感じるやりがいは、部下やメンバーの成長を見守ることにある。課長として、指示を出す立場になった今、部下が自分で考えて解決策を見つけ出す姿を見ることに強い喜びを感じている。自分が直接答えを渡すのではなく、自分で考える力を育むことが大切だと考え、部下にその姿勢を促している。また、課長は部下とのコミュニケーションにおいて、「傾聴」を最も大事にしている。質問を受けたときにはすぐに答えを与えず、まずは自分で考えさせることを心がけている。これにより、部下が自信を持って成長し、その結果として自身の成長を感じることができる。さらに、過去に外部の勉強会で学んだ「やってみせ、言って聞かせ、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ」という教えを実践し、部下の成果を褒めることを日常的に行っている。部下の成長を見守りながら、後藤課長自身も教育者としての責任を感じ、引き続き成長していくことを目指している。誠実な対応で先輩社員と若手社員の架け橋に
後藤課長は自身の夢として、人格を高める努力を続け、初心を忘れずひたむきに行動することを挙げている。また、信頼してついてきてくれるメンバーに対して、頼られる存在であり続けたいとも述べている。具体的な目標としては、社内での若いスタッフと先輩社員との架け橋となり、両者の知識とフレッシュな視点を繋げる役割を担いたいという思いがある。特に、現在は20代の若手が増えており、彼らの感覚や意見を活かすことが重要だと考えている。現在、後藤課長は社内での教育や技術の伝承を進めつつ、組織の強化に注力している。特に、属人化の解消や生産体制の強化が課題として挙げられ、これらに取り組んでいる。業界内での差別化も重要なテーマであり、品質を守りながら、組織全体の対応力を高めていくことを目指している。また、社長のビジョンに基づき、今後の発展に向けて着実に準備を進めている。


チャレンジ精神を武器に社内を活性化
石川工具研磨製作所にはどんな人が合っていると思いますか?
チャレンジ精神がある人が向いていると思います。提案してきたことに対して、上から「ダメだ」と言われることは基本的にありません。まずはやってみて、もしうまくいかなかった場合には、先輩社員がサポートしてくれて、うまくいくように手助けしてくれるのです。だからこそ、失敗を恐れずにどんどん挑戦できる人に向いていると思います。また、会社は一人で成り立っているわけではなく、みんなで協力し合ってこそ成り立っています。この精神は、常に伝え続けなければならないと感じています。さらに、個人的には「こだわりが強い人」も弊社に向いていると思います。何かを突き詰めていくことが好きな人ですね。弊社では、同じ作業でも一つひとつが大事にされるため、そうした探求心を持つ人が向いていると考えます。日々の業務で、深く掘り下げていく姿勢を持っている人がより活躍できる環境だと思います。石川社長の魅力を教えてください。
社長の一番の魅力は、社員一人ひとりを大切にしているところです。毎年、社員の誕生日には必ず「おめでとう」と声をかけてくれるなど、細やかな気配りを欠かしません。このような気配りが社員にとって大きな支えとなっており、社内の雰囲気を温かくしています。また、社長は贔屓しない公平な姿勢を貫き、スタッフに対して常に平等に接しています。このため、社員は安心して働くことができ、職場の信頼感が高まっています。もちろん、経営者としては現実重視でドライな一面もありますが、オフの時には非常に気さくで親しみやすく、スタッフとの距離も近いです。体調を崩した社員には、ご飯を買ってきてくれることもあり、その優しさから信頼関係が自然と築かれています。社員間ではどのような交流がありますか?
社員間の交流に関しては、いくつかの取り組みがあります。例えば、SDGsの委員会を立ち上げ、年に2回海岸清掃を行っています。これは自由参加で、会社負担でお弁当も提供しており、社員同士のつながりを深める良い機会となっています。普段の仕事から離れた場でコミュニケーションを取ることで、新たな発見があり、その後の仕事にも良い影響を与えることがよくあります。また、部署間のコミュニケーションも大切にしており、日々連携して業務を進めることができています。コロナ前まではバーベキューや海外旅行などを行い、社員同士の絆を深めていました。最近では忘年会も再開し、新人歓迎会と合わせて全社で盛り上がるイベントも行われました。このように、社員間の交流は大きな意味を持っており、今後もさらに交流の機会を増やしていく予定です。株式会社石川工具研磨製作所
1983年 石川正次が静岡県駿東郡清水町にて石川研磨を設立
1988年 有限会社石川工具研磨製作所に社名変更し、沼津市中瀬町に移転
1990年 牧野フライス精機 CNC工具研削盤1号機導入
1995年 業務拡張に伴い、静岡県沼津市大岡に工場を移転
2001年 業務拡張に伴い、静岡県沼津市大諏訪に工場を移転
2002年 業務拡張に伴い、静岡県沼津市大諏訪にて第二工場稼動
2004年 業務拡張に伴い、静岡県沼津市大諏訪にて第三工場稼動
2004年 資本金1,000万円に増資、株式会社石川工具研磨製作所に社名変更
2005年 超硬ソリッドエンドミルの輸出を開始
2006年 経営革新計画を取得
2006年 工具メーカー再研磨認定工場取得
2007年 WALTER CNC工具研削盤 1号機導入
2008年 特殊工具部門立ち上げに伴い、静岡県沼津市大諏訪にて第四工場稼動
2010年 業務拡張に伴い、静岡県沼津鉄工団地に社屋を移転
2013年 ROLLOMATIC CNC工具研削盤 1号機導入
2013年 第一期ベトナム人技能実習生受け入れ開始
2015年 石川直明が二代目社長に就任
2016年 宇都宮製作所 CNC工具研削盤1号機導入
2022年 同敷地内に新社屋完成
2022年 ANCA CNC工具研削盤 1号機導入
1988年 有限会社石川工具研磨製作所に社名変更し、沼津市中瀬町に移転
1990年 牧野フライス精機 CNC工具研削盤1号機導入
1995年 業務拡張に伴い、静岡県沼津市大岡に工場を移転
2001年 業務拡張に伴い、静岡県沼津市大諏訪に工場を移転
2002年 業務拡張に伴い、静岡県沼津市大諏訪にて第二工場稼動
2004年 業務拡張に伴い、静岡県沼津市大諏訪にて第三工場稼動
2004年 資本金1,000万円に増資、株式会社石川工具研磨製作所に社名変更
2005年 超硬ソリッドエンドミルの輸出を開始
2006年 経営革新計画を取得
2006年 工具メーカー再研磨認定工場取得
2007年 WALTER CNC工具研削盤 1号機導入
2008年 特殊工具部門立ち上げに伴い、静岡県沼津市大諏訪にて第四工場稼動
2010年 業務拡張に伴い、静岡県沼津鉄工団地に社屋を移転
2013年 ROLLOMATIC CNC工具研削盤 1号機導入
2013年 第一期ベトナム人技能実習生受け入れ開始
2015年 石川直明が二代目社長に就任
2016年 宇都宮製作所 CNC工具研削盤1号機導入
2022年 同敷地内に新社屋完成
2022年 ANCA CNC工具研削盤 1号機導入
創業年(設立年) | 1983年 |
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事業内容 | 超硬工具設計・製作、各種切削工具再研磨 |
所在地 | 静岡県沼津市足高396-82 |
資本金 | 10,000,000円 |
従業員数 | 57名 |
会社URL |
監修企業からのコメント
この度はご取材をお受けいただきありがとうございました。再研磨というニッチな業界の中で、お客様の困りごとに最大限応えるための取り組みや設備に感銘を受けました。チャレンジ精神溢れる貴社がどのような進化をし続けるのか、期待しています。
掲載企業からのコメント
今回のインタビューでは、改めて企業理念の実現に向けた取り組みを伝える機会を得られたことを嬉しく思います。弊社は、お客様の困りごとを解決するために、今後も技術力の向上と社員満足度の向上を行い、さらなる成長を目指します。