株式会社山崎製作所 代表取締役 山崎 かおり
板金加工を取り扱う町工場でありながら、自社の技術を活かしたアクセサリーを扱うブランドを立ち上げる等、独自の戦略で常に挑戦を続けている山崎製作所。同社が展開する革新的なビジネスの根底には、代表を務める山崎社長の女性ならではの視点とチャレンジ精神がある。さらに静岡県内で悩みを抱える女性経営者や事業承継者を支援する団体の立ち上げや運営を通じて、新たな領域への挑戦を続けている。女性経営者としての目線を生かし、今後自身の子どもたちへの事業承継を控える中で、山崎社長がどのような展望を持ち、どのように自社の未来を見据えているのかについてお話を伺った。
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
社員の意見を尊重する環境づくり
若手社員が多く、自由に意見を出し合い積極的に行動することを奨励する社風が特徴である同社。社長は社員一人ひとりに目線を合わせ、彼らの知識や経験を尊重しながら意見や提案を積極的に取り入れることで自発的な発言を促し、意見を出しやすい環境をつくり上げている。親族経営の背景がある同社では「自分たちの会社」という意識を全社員に浸透させるため、山崎社長自身が率先して意識改革に取り組んでいる。山崎社長は、上から目線で指示するのではなく、現場の職人の知識を尊重しながら意見を取り入れることで、社員が自分の意見を大切にされると感じられる環境を整えている。この積み重ねによって社内の風通しが良くなり、さらなる社員の成長と活躍を実現している。このような取り組みは、社員一人ひとりが主体的に働ける場を提供し、全員が自分の役割を果たしながら会社の成長を支えているのだ。一貫体制を活かした新ブランドの展開
製品を「つくる」だけでなく、自社内で製品の企画からデザイン、製造、営業、販売を一貫して行う体制を持っている同社。現在では海外への販売も行っており、これまで培ってきた板金加工の技術と山崎社長の女性ならではの視点を融合させた「かんざし」などのアクセサリー類などを扱う自社ブランド「三代目板金屋」を展開している。このブランドにおいても、山崎製作所の強みである一貫体制を活かしながら、自社内でチラシやWebによる広報活動を実施している。ブランド立ち上げ当初、一部の社員はこの新たな挑戦に対して消極的だったという。しかし多くのお客様からの感謝の声や家族からの反響を受けて、現在では「新商品が出ると嬉しい」と感じる社員が増えている。山崎社長自身は「金属加工を行っていた会社が、お客様の人生の一部に彩りを添えられるようになったことはものづくりをする者として非常に嬉しい」と語り、今後も自社の強みを活かした同社の新たな挑戦に期待が高まる。未来を見据えた事業承継と地域貢献に挑む
山崎社長は「次の世代にバトンを渡す」という強い思いを抱き、社員一人ひとりが力を最大限に発揮できる文化や環境を整えている。「みんなで会社をつくる」という意識を育み、自立した社員の成長を促すため、地域や他社との交流の場を積極的に設けている。この活動は「地域に愛される会社になる」という目標にも繋がっている。また、今後の事業承継に関しても、家族や社員が笑顔で迎えられる「幸せな事業承継」を目指し、犠牲を伴わない形での承継を強く意識している。山崎社長と社員が描く未来に向けた取り組みは、今後も注目され続けるであろう。自社ブランド品の販売も行っている
オリジナルブランド
「三代目板金屋」のかんざし
女性経営者・事業承継者の
支援団体「A・NE・GO」
「自分たちの会社」を築くために
女性が活躍する社会の実現についてどのように考えていますか?
昔と比べて、社会的にも経営者や管理職を目指す女性が増えましたよね。ただ、依然としてそのような高い志を持った女性が活躍しづらい環境があることも少なくないと思います。私自身も同じような思いを持っていましたので、2019年に行政と協力して、女性経営者や事業承継を控えている女性を支援する団体「A・NE・GO」を立ち上げました。具体的には個別で事業承継や起業に関する相談を受けたり、女性による女性経営者や事業承継者に向けたセミナーを開催したりしています。今後はこのような活動や団体の輪を全国各地に広げ、さらに多くの女性が活躍できる社会を目指していきたいと考えています。社員と描く今後の山崎製作所とは?
社員全員が、やりがいと生きがいを持ち、「自分たちの会社」であるという意識で新しいことに挑戦し続ける姿勢が持てる会社であってほしいと考えています。そして、今私が社長としてやっていることを誰かにそのまま引き継ぐのではなく、むしろワクワクする仕事をつくっていけるような会社であってほしいと思います。少し前から数名の社員と一緒に、会社の存在意義や目的、理念を 再確認しているんです。それを定め、全社員に浸透させていくことが、今後のポイントのひとつだと思うんです。私自身、社員を外部と繋ぎ合わせ、学びの機会を作りながら、会社の成長に寄与していきたいと考えています。人や環境、仕事のあり方等、考えることは尽きないですね。社長自身の夢や目標について教えてください。
会社をしっかりと引き継ぐことができたら、まずは5年くらい、そっと見守っていこうと思っています。その後は潔く引退して、若い世代に完全に任せたいという考えなんです。自分が年を取ってからは、もう会社に対してあれこれ口を出すのではなく、若い人たちの頑張りをしっかり応援してあげたいなと思っています。実は昔からずっとボランティア活動にも興味があったので、今まで培ってきた経験を活かして、少しでも多くの方々を助けることができればと思っています。さらに夫と二人で田舎に移り住んで、自給自足に近い形でのんびりとしたスローライフを送るのも個人的な夢ですね。母の背中を追い、未来を築く 二人の挑戦と見据えるビジョン
株式会社山崎製作所 企画営業部リーダー 山崎瑠璃 山崎大地
現社長を母に持ち、山崎製作所の未来を担っていく存在である山崎瑠璃リーダーと大地さん。山崎リーダーは企画営業部のリーダーとして商品の企画やデザインを担当している一方、大地さんは前職の製造業での経験を活かして、現場を学びながら工場全体の管理強化を目指している。異なる入社背景や目標を持ちながらも、二人は共に会社の成長に貢献しているのだ。今回の取材を通して見えてきたのは、「経営者である母への思い」と「会社の知名度やブランド価値の向上」に対する強い意識だった。今回は、現在二人が行っている仕事のやりがいや母親の背中を追う中で見据える同社の未来、ビジョンについて伺った。伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
母の背中を追いかけた自立と成長の決意
それぞれ異なる経緯で山崎製作所に入社しながらも、母親である山崎社長への尊敬と会社に対する強い思いは共通している山崎リーダーと大地さん。山崎リーダーは自らの入社理由について自分の将来について真剣に考えた時に、自立した女性になりたいと思ったんです。そこで、社長をしている「母親がまさにお手本」だって気づいたんですよね、と語る。高校卒業後は派遣社員として働き、母親の背中を追って同社に入社した。産休に入る前は企画営業部のリーダーとして商品の営業戦略を考えながらチームをまとめ、多岐にわたる業務を担当していた。一方、大地さんは「今まで好きにやらせてもらった分、ずっと親孝行をしたいと考えていました」と話す。前職で7年間経験を積んだ後、今年4月に山崎製作所に入社。現在は製造工程を順に学びながら業務に取り組んでいる。両者とも家族経営に対する責任を強く自覚し、入社を決断している。その強い意志が、今後さらに会社を成長させていく原動力になっていくのだろう。経験と努力が描く、会社と自己成長のイノベーション
それぞれの立場で山崎製作所でのやりがいを感じている2人。山崎リーダーは、産休中に部下たちが自立し、会社を支えている様子を見て大きな喜びを感じたという。以前は自分が中心となって業務を進めていたが、今では「みんなの会社」という考え方が根付いており、部下たちの成長を見守ることでやりがいを感じている。また、外部から学ぶ姿勢や意欲の高い部下たちに刺激を受け、自身も学び続けることの重要性を感じている。一方大地さんは、入社当初は社長の息子というプレッシャーを過剰に意識してしまい、他の社員に気を遣うこともあった。しかし周囲の優しさに支えられ、今ではフラットな関係を築くことができるようになっている。仕事においても前職の経験が活かされる部分もある一方で、新たな挑戦に苦労する事もまだまだあるが試行錯誤を繰り返しながら乗り越え、今はやりがいを感じているという。それぞれの経験と取り組みが会社の発展に貢献し、自己成長を遂げる源となっている。山崎製作所の未来を担う二人のビジョン
これから同社の未来を担う二人は、どのようなビジョンを描き、会社の成長をどのように目指しているのだろうか。女性や若い社員が働きやすい環境を整え、自社ブランドの拡大に注力したいと話す山崎リーダー。自社で扱う金属の魅力を広め、板金業界の認知度を高めることも目指している。また、自身のポジションにこだわらず、会社全体の幸せを追求しながら子育てとの両立を通じて次世代に希望を与えることが目標であるという。また、山崎リーダーとは対照的に、まず現場を徹底的に学び、工場全体の管理を強化することに注力していきたいという大地さん。社長の息子としてのプレッシャーを感じながらも、将来的な経営者としての役割も視野に入れつつ現場の把握に努めている。また、自社商品の比率を増やし、山崎製作所のブランド価値を向上させることも目標として掲げている。異なる立場からの二人のアプローチは、会社の成長に寄与し、それぞれの役割を通じて同社の未来を切り開く力となっていくだろう。スピーディーな体制を整え
短納期を実現
女性社員が活躍できる環境
商品が誕生していく
親から受け継ぐ想いと未来を見据えた新たな挑戦
個人としての夢や目標を教えてください。(山崎大地さん)
まずは現場の状況を把握することでより全体を見渡せるようになることが目標です。というのも母と姉は、社歴はもちろん長いんですけど現場というところがちょっと弱いので自分が把握したいですね。イベ ントなどで取引先ともお話する場面が増えてきて「社長の息子」としてのプレッシャーを感じることもあ りますが、最近はそれを前向きに活かしていければと考える様になり、今は経営者側の視点に立てるようになったっていうんですかね、もちろん今は一般社員と変わらないようなようなことをやってるんですけど、将来的には経営者になることも視野に入れています。姉と協力しながらやっていきたいですね。また、会社としてはもっと知名度を上げて有名にしていきたいです。今後は自社商品の比率を増やし、山崎製作所のブランド価値を高めることが大きな目標です。「みんなの会社」という言葉はどのくらい会社に浸透していますか?(山崎瑠璃リーダー)
社長が事ある毎にメッセージを発信してくれているおかげで、まだまだではありますが、少しずつその考 えが浸透してきていると感じます。以前は「会社がやってくれない」「社長がやってくれない」という声 も聞こえてましたが、今は「自分たちで解決しよう」「自分たちで考えよう」という意識を持つ社員が増 えてきました。社長や上司が常に「自分たちが頑張れば、その成果は自分たちに返ってくる」という姿勢 を示し続けているので、少しずつその考え方が社内に根付いてきているんじゃないかと思います。自分も その考えに賛成で、より一層、浸透させていくためにも今まで以上に、率先して「みんなの会社という視点」での言動をとっていきたいと思います。山崎製作所で今後どのような取り組みをしていきたいですか?(山崎瑠璃リーダー)
女性や若い社員が今以上に働きやすい会社にしていきたいと思っています。多分これからが第二の人生というか、ステップアップだと思うんです。これまでの10年は、がむしゃらに仕事をしてきましたが、子どもが生まれたことをきっかけに働き方を見直さないといけないと思うようになりました。仕事と子育てを両立させながら、次の世代の女性にも「キャリアを諦めずに子育てができる」という希望を与えられる 存在になりたいです。それに加えて、自社ブランドをもっと広げていきたいですね。新しいブランドを作るのか、既存の商品を展開していくのかはまだわかりませんが、金属という素敵な素材はさらに大きな可能性を秘めていると感じているので、もっと多くの人にその魅力を知ってもらいたいです。株式会社山崎製作所
1967年 創業
1970年 設立
1989年 現本社工場建設
2009年 現代表就任
2012年 VPSS導入
2014年 経営革新計画認定
2015年 プロダクトブランド『三代目板金屋』立ち上げ
静岡県中部医療連携団体SPメディカルクラスター参加
2017年 しずおか女子きらっブランド認定
経済産業省 地域未来牽引企業選定
2018年 医療器具製造団体SPメディカル協同組合化
静岡県知事褒賞受賞
1970年 設立
1989年 現本社工場建設
2009年 現代表就任
2012年 VPSS導入
2014年 経営革新計画認定
2015年 プロダクトブランド『三代目板金屋』立ち上げ
静岡県中部医療連携団体SPメディカルクラスター参加
2017年 しずおか女子きらっブランド認定
経済産業省 地域未来牽引企業選定
2018年 医療器具製造団体SPメディカル協同組合化
静岡県知事褒賞受賞
創業年(設立年) | 1967年 |
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事業内容 | 精密板金加工全般 表面処理・組立作業を含めた製品の一貫生産から、パーツ部品製作まで対応。 レーザーパンチ複合加工、タレパン加工、ベンダー曲げ、アルゴン溶接、半自動溶接、レーザー溶接、スポット溶接、スタッド溶接、研磨、組立、後処理(鍍金、塗装、アルマイト、クロゾメ、パーカー処理、酸洗い、バフ、シルク印刷等) |
所在地 | 静岡県静岡市清水区原134番地の2 |
資本金 | 300万円 |
従業員数 | 25名 |
会社URL |
監修企業からのコメント
この度は、お忙しい中取材にご協力いただきましてありがとうございます。今回お話を伺い、山崎社長の多岐に渡る取組みは、製造業という業界の可能性を広げる大きなきっかけに繋がると感じました。これからの更なるご活躍を応援しております。
掲載企業からのコメント
この度は取材をしていただきありがとうございました。「ものづくり」は「心と心の絆」を創っていくことだと思っております。この取材を通して、社員1人1人が自分の力を開花させていける、そして地域で愛される開かれた工場になっていこう、改めてそんな会社にしていきたいと思います。