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抱月工業株式会社

抱月工業株式会社 代表取締役社長 大久保 尚容

大阪の地で創業以来約70年にわたり、建設機械や産業機械、産業車両向けの鋼板製品など多岐にわたる製品を提供してきた抱月工業株式会社。「設備力×人間力×仕上げ力」を軸に、人材育成に力を入れることで発展を遂げている。今回お話を伺った大久保社長は、卒業後、一般企業でシステム関連の仕事に従事した経験を持つ。その後同社に入社して現場での経験を積み、先代である父親から事業を承継。二代目代表として15年間会社を牽引してきた。固定観念にとらわれないチャレンジ精神で自社のみならず製造業全体の発展も見据えている大久保社長の視点から、会社の独自性や今後の展望について伺った。

伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質

固定観念を打破する新たな社風の実現

同社には社員の主体性を重んじ、自分が「面白い」と感じることに挑戦しながら自由に活き活きと働ける環境が整っている。しかし、この社風が形成されるまでには長い時間がかかったという。大久保社長が入社した当時、会社は昭和気質の職人が集まる3Kの職場であり、変革には根気強い取り組みが求められた。「会社の社風を変えるには、最低でも10年はかかると思います」とは大久保社長の経験からくる考えである。特に中小企業では経営者の影響力が大きく、まずトップが変わることが不可欠。職場環境や経営方針、組織の見直しも重要であり、それらが一体となって初めて社風が改善される。今後は若く主体性を持った人材を積極的に採用し、全社員が自ら「変えていきたい」と発信する文化を育成していく意向を示している。そのためにも同社は、指示待ちの社員の意識改革を行うため、「変えようと思えば変えられる」という自信を養う教育と経験ができる職場づくりをさらに進めていく。

技術×人材育成で会社の未来を切り拓く

同社の独自性は、技術力だけにとどまらない。鋼板の切断などの一次加工に加え、開先、マシニング、曲げといった二次加工を一貫して行える点に加え、特に力を入れているのは人材戦略である。「経営戦略と人材戦略は両輪だと思っているんです」と語る大久保社長は、優れた人材を集めることこそが経営の成功につながると確信している。昨今の中小企業が新卒採用に苦戦する中、同社はその波に逆行している。10年前に新卒採用に参入してから、採用ホームページの刷新だけでなく、学生が社長との食事の場を通じて就職活動や社会についての情報を得ることができる「タダメシ」という独自のイベントを通じて、学生を獲得している。そんな人材戦略に力を入れる同社が求めているのは、謙虚さと社長のビジョンへの共感を持つ人材である。「2050年に500億円の売上を達成するための準備を進めている」と話す大久保社長を中心に、同社は人材育成や環境づくりに力を注ぎ、社員の成長を支える要因を形成しているのだ。

自動化で実現する新たな働き方

同社が掲げるのは「楽しく仕事ができる環境をつくる」という目標だ。大久保社長は「仕事は楽しくなければ仕事ではありません。働くことは本来楽しく、儲かるものであるはずなんです。」と語ってくれた。しかし、日本の労働環境がそこに達していない現状に危機感を募らせている。そこで同社が今後取り組んでいくのが、ロボット導入等のシステム化である。2030年に100億という売上目標の達成を目指すため、ロボットの専門知識を持つ人材の採用、育成を行いながら約10年かけて自動化を推進していく。製造原価や労務費を下げ利益を増加させることで、「ものづくりは本来儲かるもの」であることを体現しようとしている。さらに、このノウハウを同業他社へ提供できる「システムインテグレーター」のような会社をつくっていきたいという。大久保社長のビジョンは同社の成長にとどまらず、ものづくり業界全体の発展にも寄与するものになっていくであろう。
多種多様なニーズに合わせた
最適な切断方法を提案
京都・ベトナムにも工場を設立
生産性の向上を図る
「変えようと思えば変えられる」
主体的な社員を育成

新たな挑戦=レールのない道を歩くこと

社長に就任した経緯を教えてください。

私は今、代表に就任して15年目になります。創業者は私の父になるのですが、自分の性格からして父のようなリーダーシップを取るのは無理だと思っていたので特に会社を継ぐつもりもなく、卒業した後は医療メーカーでサラリーマンをしていました。そんな時に父から会社を継いでほしいと連絡が来て、「このままサラリーマンを続けるより、社長になる方が面白いかもな」と思い、入社することにしました。当時は社員も少なく、環境や給料もよくない状況でしたが、現場に入りながら配達や営業、事務処理をしながら努力しました。もちろん社長に就任した時は不安もありましたが、現在は売上を10倍ほどに伸ばしてきました。今後もさらに100億、500億と売上を伸ばしていきたいと考えています。

どのような組織を目指していますか?

私たちが目指しているのは、フラットな組織です。上下関係をなくして、誰もが自由に意見を言える環境を作りたいんです。なぜか社会人になると学生の時と比べて一致団結するのが難しくなってしまい、上位職の人間が旗を振らないと動かない状況になってしまいます。そこで現在、弓指(ゆみさし)さんを中心に組織の立て直しを進めています。フラットな組織を実現することで失敗を恐れず挑戦できる文化が生まれ、クリエイティブなアイデアもたくさん出てくると思います。これからは社員自ら手を挙げて行動できる環境を整えて、新しい風を吹き込んでいきたいと考えています。フラットな組織をつくることで、全員が活躍できる場を提供し、共に成長していきたいです。

社長が大切にされている考えはありますか?

伝統は大切ですが、私が考える伝統は”形”ではなく”理念”です。私たちの会社は鉄鋼所で鉄の板を切ったり加工したりしていますが、それらは伝統そのものではなく、あくまで加工の手段に過ぎません。本当に重要なのは、会社の理念や今回つくったクレドです。これからものづくりはパラダイムシフトを迎えます。私自身も含めた経営者は、今とは違ったものづくりを考える準備が必要です。新しいことに挑戦する際、先輩たちの意見が役立つとは限りません。レールのない道を歩くには、ゼロベースで挑戦する勇気が求められます。そのために私たちは柔軟な発想を持ち続けて、新しい挑戦に取り組む必要があります。理念を大切にしながら、未来のものづくりを見据えて進んでいきたいと思います。

わずかな違和感から本質をとらえ 自分と会社の成長につなげる

抱月工業株式会社 執行役員CHRO兼経営戦略室長 弓指 利武

同社の事業推進部兼経営戦略室において様々な部署の成長を支えている弓指さん。前職ではその会社の安定した環境に感謝しながらも、更に成長をする場を求めていた。そんな折、共通の知人に「変わった人同士」として紹介された大久保社長の利益に縛られず自由な発想で新しい挑戦を促す姿に心から共鳴し、抱月工業へ入社した。入社後、弓指さんは若手を含めた3名を工場長に抜擢するなど、常識にとらわれない大胆な試みに挑んでいる。「やったことのないことをどう実現するか」を信念に、日々新たな舞台に臨む気持ちを大切にしている弓指さんの熱い想いに迫る。

伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い

自分らしさを求めた新たな一歩

大久保社長の型にはまらない考え方に強く共感し、同社への入社を決意した弓指さん。前職の食品会社で人事として働いていた時は、安定したブランドに守られていることに感謝しつつも、更に成長をする場を求めていた。そんな折、同社が取り組む「タダメシ」の事業で同社と繋がりのあった知人の営業社員から、自分と同じ変わり者だという理由で大久保社長を紹介されたという。大久保社長の利益に直結しない活動にも惜しみなく投資する姿勢に触れた弓指さんは、自身の柔軟な考えと共鳴しながらも「良い意味でぶっ飛んでいる」と感じ、転職を決意した。入社後は、ベテラン社員が担うことが一般的だった工場長のポジションに20代の若手を登用するなど、従来の枠にとらわれない取り組みを進めている。弓指さんは、自分や大久保社長の思いを軸に、「やったことのないことをいかにやれるか」を大切にしていると語り、その情熱が社内にも新たな風を吹き込んでいる。

「常に初舞台を踏むように臨む」正解のない挑戦

すべての事象に「こうすればいい」という正解が存在しない製造業の現場で、弓指さんは自ら試行錯誤しながら新しい答えを見つける喜びを見出すことにやりがいを感じている。自分の型やセオリーを持ちつつ、現在関わっている人々や商材、取引先の状況が自身の過去の経験とは異なることを意識しているという。「常に初舞台を踏むように臨む」それが、弓指さんの挑戦する楽しさ、やりがいに繋がっているのだ。さらに「わずかなノイズや違和感に気付くことが重要」とも語る。違和感こそ本質を捉えるチャンスであり、違和感を感じ取ることこそが現場での成功に繋がる大きな要素となっている。このように、微妙な変化を感じ取りながら挑戦を続けることで自分自身も成長し、会社にも新しい風を吹き込む存在となっている。正解のない現場でこそ弓指さんが持つ探求心が光り輝き、彼自身のやりがいを生み出しているのだろう。

成長を促す職場環境の創造

弓指さんが目指すのは、「抱月工業でしか得られない体験」を社員に提供すること。福利厚生といった制度面に加え、社員の家族や子どもたちが職場を訪れる授業参観のような取り組み等、社員がどれほど真剣に仕事に向き合っているかを感じられる場を設けたいと考えている。また最近完成したというクレドについても、単なるスローガンにとどめず、日々の経営にしっかりと根付かせるつもりだという。クレドは同社が積み重ねてきた歴史や社員の声をもとにつくられており、その理念が実際の行動や価値観として共有されることを目指しているという。さらに今後社員が増えていく中で弓指さんが思い描いているのは、社員同士が本音で語り合い、互いにぶつかり合える組織。こうした環境で普段は見えないアイデアが引き出され、それが新たな挑戦への扉を開くことを期待している。社員一人ひとりが成長し、互いを誇りに感じられる職場を築くことで強固な組織となることで、社員のモチベーションも一層高まっていく。
社長と学生が食事の場で
交流を図る「タダメシ」
積極的にロボットを導入し
自動化を推進
毎年恒例の豆まき大会

イレギュラーを楽しみ、成長のチャンスに繋げる

弓指さん自身が働くうえで大切にしている考え方を教えてください。

うちの会社の理念は「出会えてよかった」なのですが、ただ単に出会って良かったと思ってもらうだけでなく、出会った瞬間の”IN”と、そこから成長した後の”OUT”の両面から、意味を深く考えることが大切だと考えています。お客様との出会いをきっかけに、社員自身が教育を受けながら実地研修やOJTで鍛えられ、一人前の社会人として成長していく。これがお客様にとって本来の「出会えてよかった」の形ではないでしょうか。そのためにも人材教育の設計を見直し、”IN”と”OUT”の発想を取り入れていきたいです。自分たちが一層鍛えられて成長した上で、お客様に喜んでもらえることが、本当の価値だと思っています。

会社が掲げる数値目標を達成するための課題を教えてください。

現在会社として2030年に100億、2050年には500億という数値目標を掲げているのですが、それを達成するにはITを活用できる体制が不可欠だと考えています。そのため、今後はITスキルを持つ人材も積極的に採用していく必要があるのですが、最終的には人の手を借りずに済む時代が訪れるでしょう。そのために、今の段階で人間がどれだけ考え抜き、その仕組みをつくり上げられるかが重要だと感じています。今私たち人間があれやこれやと試行錯誤しているのは、将来自分たちが考えることの負担を減らすためでもあります。今後は可能な限り自動化を進めて業務の効率化と精度向上を図ることで、さらなる成長に必要な基盤を整えたいと考えています。

今後入社する方に提供する独自の職場環境はありますか?

弊社には、他では味わえない貴重な体験を提供できる環境があります。オープンで柔軟な社風ですし、たとえ失敗しても社長を含めて誰も咎めないので、安心して挑戦できる場所です。自分のやりたいことがあれば積極的に挑戦してほしいと考えています。また、既存の部署に捉われず、社員の特性や目指す方向に応じて、必要であれば新しい部署をつくるという柔軟な発想も大切にしています。様々な“良いイレギュラー”を楽しむことで、実際に行動するからこそ得られる学びや成長があると思います。新しく入社する方々にも、この独自の環境で多くの貴重な経験を積んでいただき、会社と共に成長していってほしいですね。

監修企業からのコメント

この度は、取材にご協力いただきありがとうございました。この取材を通じて貴社が行っている取り組みから、製造業の明るい未来を強く感じております。今後の貴社のさらなるご発展を楽しみにしております。

掲載企業からのコメント

この度は取材いただき、誠にありがとうございました。今後も「ものづくりは儲かるもの」であることを体現し、ものづくりの未来をより楽しく、そして儲かるものに変えていくよう尽力してまいります。

抱月工業株式会社
1947年 抱月鍛造所創立
1961年 抱月工業株式会社に改組
1973年 冷蔵倉庫設立
1975年 熔断部交野工場設立
1976年 冷食加工工場設立
1979年 鍛造工場閉鎖
     熔断部港工場設立
1982年 冷蔵倉庫保税上屋認定
1987年 九条工場設立
1996年 熔断部交野第2工場増設
     九条工場閉鎖、交野工場へ移転
1998年 本社及び港工場、交野工場へ移転
2005年 八幡工場設立
2008年 冷蔵倉庫改装
     機械加工および製缶加工部門を設立
2010年 本社交野工場と八幡工場を統合
2013年 HOGETSU VIETNAM CO.,LTD.設立
2022年 ベトナム第2工場設立
2023年 京都工場設立
創業年(設立年) 1947年
事業内容 ガス切断・レーザー切断(ファイバー、Co2)・マシニング加工・曲げ加工・開先加工・ショット加工・溶接
所在地 大阪府交野市幾野6丁目48番1号
資本金 2,000万円
従業員数 120名(2024年11月現在)
会社URL

抱月工業株式会社