マルニ食品株式会社 代表取締役 二階堂玲子

明治18年創業のマルニ食品株式会社は、元々飲食業を起点とした歴史を持つ。登米市で小さな茶屋を営み、うどんやそばをふるまう中で、農家からの製粉・加工の依頼を受けたことが、食品製造業への転換のきっかけとなった。戦後には工場を構え、農村から都市へと広がる流通構造の変化に対応しながら、スーパーやコンビニ向けの製品開発を進めてきた。現在は5代目・二階堂社長のもと、冷凍やフリーズドライなど、時代に即した技術を取り入れつつ、麺づくりを基軸とした製品展開を行っている。原点である「お客様との接点」を重視し、直営レストラン『麺や文左』の運営も開始。ものづくりとサービスの両軸で、地域に根ざした価値を創造し続けている。二階堂社長は、同社の経営理念である「人材づくり」「感動づくり」「地域づくり」を大切にしており、先代から受け継いだ想いを次世代へと繋いでいくことを強く意識している。今回はその理念に込められた想いや、今後の展望について話を伺った。
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
140年以上の歴史が紡ぐ想いの共鳴
同社では、社員一人ひとりが経営理念に深く共感し、その理念に基づく仕事を通じて強い「繋がり」の意識を持っていることを大切にしている。多様な個性が尊重され、時には意見がぶつかることもあるが、その繋がりは決して揺らぐことはない。こうした精神は、社内の研修や経営方針発表会などを通じて、常に徹底され共有されている。また、140年以上の長い歴史の中で受け継がれてきた「目に見えない基準」や「霊的な空気感」も同社の大切な財産である。これらは形には現れないが、社員の行動や考え方の根底に強く影響を与え、社風を支えている。この独特の文化こそが、会社の強さと持続性を支えていると言える。
二階堂社長は会社の「預かり手」としての自覚を持ち、歴史と文化を次の時代へ繋げていく使命を強く意識している。経営者としての責任は単に経営を担うことにとどまらず、長い歴史の積み重ねを未来へと紡ぐことである。この考え方は社員にも浸透しており、会社全体が理念と歴史の中で一体感を持ち、より強い組織として成長を続けている。
震災を経験し、「生きていて良かった」と思える場所を
同社の独自性は、「人材づくり」「感動づくり」「地域づくり」という三位一体の経営理念に根ざしている。2011年に開業した直営レストラン『麺や文左』は、東日本大震災を契機に、「単なる復興支援」ではなく、「生きていて良かった」と実感できるような、心豊かな地域社会の実現を目指す象徴的な取り組みとして生まれた。レストランは、食事を提供する場にとどまらず、家族の誕生日など人生の節目を祝う空間として、また郷土料理や食育を発信する地域の拠点としても機能している。その場には、同社の経営哲学が色濃く息づいている。また、万人受けを狙うのではなく、自社の姿勢に共感してくれるお客様に深く寄り添い、信頼関係を築くことを重視しているのも特徴である。自社のリソースを最大限に活かし、社会や次の時代を見据えた柔軟な事業展開を行う姿勢も、同社の強みだ。単なる商売ではなく、「地域への貢献」と「人を育てること」を両立させることこそが、創業140年を超える同社としての誇りであり、真骨頂である。常に進化を、そして日本の麺文化を世界に
同社の今後の展望は、日本の麺文化をさらに進化させ、世界に誇れるブランドへと成長させることだ。140年以上にわたり培ってきた伝統の製麺技術を土台に、冷凍やフリーズドライといった先端の加工技術を融合させることで、これまでにない新しい食体験を提供する商品開発に力を注いでいる。現代の多様化したライフスタイルや海外市場のニーズに対応するため、常に革新的なアイデアを取り入れ、時代の変化に柔軟に対応することが重要であると捉えている。また、同社は「毎月同じ会議をしない」という独自の社内文化があり、社員一人ひとりが主体的に学び、変化に対応できる組織風土を醸成している。このような取り組みにより、伝統と革新が調和した企業文化を築き、社員全員が未来志向で業務に取り組む環境を整えている。これからも伝統に甘んじることなく、新たな技術やサービスを積極的に取り入れ、国内外の幅広い顧客層に高品質で魅力ある製品を届け続けることが、同社の最大の使命である。


140年以上の歴史で培ってきた想いとは
「人材づくり」とは具体的にどのようなことを大切にしているのですか。
弊社の「人材づくり」で最も大切にしているのは、「ありがとうと言われる人を育てる」という考え方です。お客様はもちろん、一緒に働く仲間や家族、地域の方々からも感謝されるような存在になること。それが、最終的には社会に貢献する人材に繋がると信じています。ただ、人は誰しも弱さを持っており、時には壁にぶつかり、悩むこともあります。だからこそ、私たちは人を育てる土壌として、安心して働ける、成長できる環境づくりに力を入れています。最近では、「良い会社委員会」を立ち上げ、若手社員を中心に職場の改善に取り組んでいます。ほかにも、月1回の従業員意識調査や、研修、メンター制度、元社員による相談会なども実施。社員一人ひとりが成長できる環境があり、「自分らしく働きながら誰かの役に立てる」、そんな組織を目指しています。「感動づくり」とは具体的にどのようなことを大切にしているのですか。
私たちが大切にしている「感動づくり」とは、「お客様の期待を超えること」だと考えています。安心・安全は当然の前提であり、その上で、どれだけ丁寧に、心を込めて届けられるかが問われます。直営店『麺や文左』では、接客や料理の提供において、あえて“面倒くさい”と思えるほどの手間をかけています。それは、お客様にただ満足していただくのではなく、驚きや感動を体験してほしいからです。私たちはメーカーとして、商品と一緒に行動することはできませんが、手に取った瞬間に「この商品に出会えて良かった」と思っていただけるようなものづくりを目指しています。誰かの喜びのために、自分の時間や労力を惜しまない。そんな姿勢こそが、感動を生み出す原動力になると信じています。「地域づくり」とは具体的にどのようなことを大切にしているのですか。
私たちは宮城県登米市で140年間、この地域の中で少しずつ移転しながらも、変わらず仕事を続けてきました。それはひとえに地域の方々の支えがあってこそ。いま私たちが全国や世界と仕事ができているのも、地元の人たちとの信頼関係が土台になっているからこそです。だからこそ、地域への感謝を忘れてはいけないし、私たちはこの地域の「希望」になるべきだと考えています。過疎化や限界集落といった言葉が並ぶ時代だからこそ、ここにこの会社があってよかった、そう思ってもらえる存在にならなければいけない。震災で荒れた地に直営店レストラン『麺や文左』を出したのも、光を取り戻したかったからです。社員とともに、ここで暮らし、働き、育つ人たちの未来に希望を灯していきたい。それが私たちの考える地域づくりです。
宮城県登米市から全国に「おいしい」と言われる企業を目指して
マルニ食品株式会社 係長 佐々木裕規
冷凍麺の新規事業において中心的な役割を担っているのが、開発部企画開発課・自社冷凍FD商品開発係の係長、佐々木さんである。現在は、職人が打つ麺の魅力を活かしつつ、スープや具材の選定、味の調整など、商品の完成度を高める開発業務に従事している。入社当初は資材の受発注部門に所属し、商品の裏側を支える業務を経験。その後、2年前に現在の開発部に異動し、現場で培った知見を活かして商品づくりに取り組んできた。
開発部は少数精鋭で構成されており、佐々木さんは係長という立場でありながら、実務を主導する現場の中心的存在だ。これまでの経験を糧に、味と品質の両立を目指した冷凍商品の開発に挑戦し続けている。
また近年では、テレビ取材や記事構成への対応といったの広報活動、東北大学との共同研究にも参画するなど活躍のフィールドを広げている。今回は、そんなオールラウンダーとして活躍する佐々木係長に、同社での仕事のやりがいや魅力について話を伺った。
伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
「おいしい」という価値を地元から届けたい
佐々木係長が同社に入社を決めたのは、地元企業として地域とともに歩む姿勢に強く惹かれたからである。生まれ育ちは現在とは異なる地域だったが、幼い頃から同社の名前を耳にしており、地域に根ざした企業として自然と意識に残っていた。転職活動では「地元で働くこと」を軸に据え、地域イベントや直売所を通じて住民と直接関わる同社の取り組みに大きな魅力を感じたという。 また、学生時代に製菓を学んだ経験から「食」そのものへの関心が強く、「おいしい」という価値を届ける仕事に携わりたいという思いがあった。主食となる麺類を製造する同社の事業は、その志向とも一致していた。 入社当初はコンビニ向け商品の資材の発注部門に所属し、納期に追われる緊張感の中で日々の業務に取り組んでいたが、冷凍事業への異動をきっかけに働き方は大きく変化。現在は自社商品の企画や生産に携わり、自らスケジュールを立てて改善を重ねる日々である。主体性を持って業務に取り組めるようになったことで、手応えとやりがいを実感している。繋がりを大切に日々新たな挑戦を
佐々木係長のやりがいは、日々新たな挑戦と学びがある点にある。資材の受発注業務からキャリアを始め、現在は商品開発に携わっているが、その過程で多様な業務を経験し、常に自分をアップデートし続けてきた。とりわけ、伝統的な手延べ麺の製造技術を守りながら、冷凍食品など新しい事業領域へと進化する過程に関われることに、深い誇りと責任を感じている。 自身が携わった商品を通じて、消費者から「おいしい」という声を直接聞けたときの喜びは格別である。営業担当者やスーパーのバイヤーから届くその反応は、開発業務に対する確かな手応えとなり、ものづくりの醍醐味を実感させてくれる。 また、常に変化する市場に対応するうえで、過去に築いた人との繋がりや業界知識を活かすことを重視している。かつてのコンビニ事業で生まれたネットワークが希薄になった経験を通じて、繋がりの大切さに気づいた。現在は同社の一員として、地域や取引先との関係性を育みながら、知見を深め続けている。AIを活用し、全国にマルニ食品のおいしさを発信したい
佐々木係長の夢は、大きく分けて二つある。一つは、広報やプロモーションの分野において、会社や商品の魅力をより多くの人に伝え、ファンを増やしていくことである。得意な分野ではないとしながらも、テレビ取材や記事構成の対応などに積極的に携わり、社外への発信力を高める役割を担っている。もう一つは、自身の業務領域を広げ、職種にとらわれず組織を支える存在になることだ。表に立つだけでなく、周囲を支える縁の下の力持ちのような存在として柔軟に貢献していきたいという想いがある。 その実現に向けて、AIの活用にも意欲的であり、デジタル技術を積極的に取り入れている。こうした取り組みを通じて、より伝わる広報活動を展開している。 最終的には、全国に商品の魅力を発信し、「おいしい」と言われる企業へと成長させることが目標である。そのために、外部との接点を増やし、発信機会を創出していくことが今後の鍵となる。


「おいしい」を生み出す原動力とは
佐々木係長のイチオシの商品を教えてください。
私のイチオシ商品は、日高屋さんが監修した冷凍の野菜タンメンです。お店の味にできるだけ近づけることに強くこだわり、関東にいなくても手軽に本格的な味を楽しめるのが大きな特徴です。特に単身赴任の方や忙しい方には、鍋に入れるだけで簡単に調理できるため非常に便利だと好評です。実際にテレビでも紹介され、多くの方に注目されています。商品の開発には半年から1年ほどの時間をかけており、その間に何度も味の調整を繰り返しました。監修者の方にも試食をしていただき、細かいフィードバックをもらいながら改良を重ねています。中でも特に苦労したのが麺の部分で、冷凍や煮込み調理でもおいしさを保つために何度も試作を重ねました。週に1回以上のペースで見直しを行い、納得のいく味に仕上げています。自信を持っておすすめできる商品です。二階堂社長はどのような方ですか?
二階堂社長はとにかく社員想いの方ですね。毎月、社員の世代ごとに分けて教育の場を設けていて、若手から係長クラスまで、それぞれに合った話をしてくれます。単なる面談じゃなくて、会社をもっと良くしていくために会社の数字の話も交えながら具体的な指導をしてもらえるんですよ。こういう場で自分たちの課題も指摘してもらい、日々成長に繋げられていると感じています。また普段のコミュニケーションもすごく近くて、商品開発の試食会などで直接意見交換できる機会も多いですね。また、半年に一度は全社員を集めてビジョンや今後の方針を伝えてくれますし、個別面談も行って一人ひとりの話をじっくり聞いてくれる。経営者としてだけじゃなく、社員と距離が近く厳しくもあり、親身に支えている存在だと思います。佐々木係長が仕事をする上で意識していることは何ですか?
私が仕事で一番意識しているのは、「引き出しを多く持つこと」です。商品開発では急にいろんな要望が来るので、すぐ対応できるように材料や手法を日々チェックしています。メーカーとこまめにやり取りし、新しい材料や市場の動きを把握しておくんです。そうすれば「こういう味がいい」と言われた時でもすぐ代替案を出せます。もし1週間も悩んでいたら次の案もなかなか出てこないと思うので、即対応できる体制を心掛けています。今は3人で開発をやっていて、机が横並びなので何かあればすぐ声をかけて集まり、昼には試作品を食べて意見交換しています。私はもともと工場の資材受発注を担当していたので、製造現場とも密にコミュニケーションをとり、工程改善などの相談もしています。だからチームも製造現場も連携が良くて、仕事のつながりが強いのかなと思っています。マルニ食品株式会社
1885年 初代 二階堂文左衛門が麺茶屋を創業
2代目 二階堂康三郎が加工業を開始
1960年 有限会社二階堂製麺工場 設立
3代目 二階堂茂がチルド麺の製造を開始
1989年 マルニ食品株式会社 改組
4代目 二階堂學が調理麺ベンダー事業を開始
2004年 南方新工場 稼動
常温麺製造開始
2005年 菓子製造販売業 花蓮堂 設立
2005年 Patisserie かぼちゃの花 設立
2011年 直営レストラン『麺や 文左』を登米市に開業
2013年 5代目 二階堂玲子が社長に就任
2020年 2店舗目の直営レストラン『二階堂製麺所 レストランBUNZA』を仙台市一番町に開業
本社敷地内にアンテナショップ『二階堂商店』、『二階堂製麺研究所』をオープン
2023年 『二階堂製麺所 レストランBUNZA』「麺や文左登米本店」へ店舗統合
冷凍麺ライン設備設置
乾燥室設置
放射光を利用したフリーズドライ麺の研究開発
2代目 二階堂康三郎が加工業を開始
1960年 有限会社二階堂製麺工場 設立
3代目 二階堂茂がチルド麺の製造を開始
1989年 マルニ食品株式会社 改組
4代目 二階堂學が調理麺ベンダー事業を開始
2004年 南方新工場 稼動
常温麺製造開始
2005年 菓子製造販売業 花蓮堂 設立
2005年 Patisserie かぼちゃの花 設立
2011年 直営レストラン『麺や 文左』を登米市に開業
2013年 5代目 二階堂玲子が社長に就任
2020年 2店舗目の直営レストラン『二階堂製麺所 レストランBUNZA』を仙台市一番町に開業
本社敷地内にアンテナショップ『二階堂商店』、『二階堂製麺研究所』をオープン
2023年 『二階堂製麺所 レストランBUNZA』「麺や文左登米本店」へ店舗統合
冷凍麺ライン設備設置
乾燥室設置
放射光を利用したフリーズドライ麺の研究開発
創業年(設立年) | 1885年 |
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事業内容 | 麺を主体とした食品の開発、製造、販売 取扱商品 |
所在地 | 宮城県登米市南方町鴻ノ木123番地1 |
資本金 | 5,800万円 |
従業員数 | 110名 |
会社URL |
監修企業からのコメント
この度は取材にご協力いただき、誠にありがとうございました。取材を通じて、創業から140年以上、大切にされてきた想いが伝わってきました。「生きていてよかった」と思える場所を提供されたという震災後のお話には、心を動かされました。今後のさらなるご活躍を楽しみにしております。
掲載企業からのコメント
この度は弊社を取材いただき、誠にありがとうございました。取材を通じて、私たちが大切にしてきた理念や取り組みに込めた想いをお伝えできたことを、大変嬉しく思っております。今後も、地域の皆様にとってかけがえのない存在となることを目指すとともに、日本の製麺文化を世界へ広めてまいります。