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【後編】のれんではなく、クオリティ。持続可能なビジネスモデルと次世代への想い

【後編】のれんではなく、クオリティ。
持続可能なビジネスモデルと次世代への想い

和牛産業業界の未来
前編では和牛産業業界の現状課題と尾崎牛の魅力について、後編では尾崎牛に携わるお三方が考える和牛業界のあるべき姿と未来への展望についてご紹介いたします。
前編はこちら

【業界としてあるべき姿】「畜産家が守られる・支え合う」状態

人手不足が叫ばれる一次産業ですが、未来に向けて何が必要でしょうか?

加藤氏

大前提として、畜産家が経済的に自立し、守られる仕組みが不可欠です。現在、新規参入を促す補助金制度などは存在しますが、実態は、その補助金分を見越して業者が機械代や資材費を上乗せするケースが散見されます。結果として畜産家の実質的な負担は軽減されないという構造的な欠陥があります。名目上の支援ではなく、農家の手元に確実に利益が残る適正な支援体制が必要です。

尾崎氏

加えて、口蹄疫などの伝染病の恐怖です。 口蹄疫とは、牛や豚、山羊、羊など蹄が二つに割れた偶蹄類に発症する急性熱性伝染病です。水膨れから始まり、悪化すれば食欲不振や歩行困難を引き起こしますが、未だ治療法は確立されていません。その圧倒的な感染力から地域中の畜産業に壊滅的な打撃を与えるため、国際的にも最重要視されている家畜伝染病です。
恐ろしいのは、その感染力からわずか一匹でも感染が確認されると、半径10km圏内の畜産生物は全て殺処分されるというルールです。実際に宮崎県では2010年、約4ヶ月間で牛や豚など29万7808頭が殺処分され、県内の畜産業に約2350億円もの損失をもたらす壊滅的な被害を経験しました。
もちろん、殺処分されたほとんどは健康な動物たちでした。それでも例外は認められず、多くの畜産農家が一瞬にして全てを失い、数億円規模の借金だけを背負って、牛0頭からの過酷な再スタートを強いられました。

尾崎氏

畜産物の国際取引においては、口蹄疫などの重大な家畜伝染病が発生していないと認定された「清浄国」同士でしか輸出入が認められないというルールがあります。一度でも国内で発生すれば、日本全土からの輸出が即座に停止され、国家単位で巨大な経済損失を被ることになります。そのため、防疫は一自治体の努力に留まる話ではなく、日本の畜産という国家の根幹産業を守り抜くための、国を挙げた最重要課題です。

この不可逆的な悲劇を防ぐには、予防策を徹底する以外に道はありません。私は和牛を守るべき当事者の一員として、行政に対し、空港や港など入国時における消毒の徹底を強く訴え続けています。 しかし、これほどのリスクを抱えながら、水際での徹底した消毒を導入しているのは、現在日本で唯一、宮崎県だけという現実。この防疫意識が全国的なスタンダードとならなければ、和牛・そして畜産農家を守ることはできません。危機感を抱くばかりです。

実際、人手不足の中に身を投じた佐藤さん自身、どんな支援が大切だったと感じますか?

佐藤氏

私は、畜産農家同士の「横のつながり」や相互扶助の姿勢をこれからも大切にしていきたいと考えています。この業界は参入障壁が非常に高く、孤独な戦いになりがちな中で、持ちつ持たれつの「お互い様」という助け合いの精神が必要です。私も加藤さんのトラクターを借りたり、逆に私のダンプを貸して作業を一緒に手伝ったりという協力しているからこそ「農家」を続けてこれていると思います。

加藤氏

本当にそうですね、農家同士の助け合いは不可欠です。例えば牛のお産なんかは出すのがとても大変で、どうしても人手が足りない緊急時には、農協の人やご近所さんにも手を借りて引っ張ってもらうこともあるくらいですからね。そういった『お互い様』の精神がないと、この仕事はやっていけません。

身近な畜産家同士、そして地域や国レベルでの畜産家の連帯が不可欠なのですね。そんな中、皆さんで協働し、業界を変えるための取り組みをされているとお聞きしました。

尾崎氏

「尾崎の経産牛」ですね。 畜産業の構造上、子牛を育てる「繁殖農家」と、それを買い取って太らせる「肥育農家」の間には、どうしても立場の差が生じがちです。子牛の買い取り相場を決定するのは肥育農家側であり、繁殖農家は丹精込めて育てた牛を安く買い叩かれてしまう可能性がある。。しかし、土台である繁殖農家が疲弊してしまえば、産業全体が立ち行かなくなります。 だからこそ私は、肥育農家が単に自分の利益を追求するのではなく、繁殖農家も、肥育農家も関わる全員が潤う仕組みを作らなければならないと考えました。

尾崎氏

その具体的な解決策として取り組んでいるのが『経産牛(母牛)の再肥育』です。繁殖用の母牛は、8頭の出産を終える頃には体が痩せてしまうため、価値の低い「ミンチ用」として安く取引されるのが業界の常識でした。 繁殖農家は、ある意味稼ぎ頭として支えてきてくれた大切な母牛を最後に安価に売り渡すことになってしまう。しかし、母牛も和牛です。
そこで、競りで比較的若い母牛を買い、約2年に尾崎牛の肥育技術でしっかりと育て直すことで、その価値を『尾崎牛』ブランドと同等の80万〜100万円以上にまで引き上げています。 利益が出るから、私もきちんとした適正価格で母牛を買い取れる。本来捨て値で扱われていた母牛に高い値段が乗ることで繁殖農家にとっての確かな収益源となり、次世代へと続くサステナブルな畜産を実現する大きな鍵となると思います。 

佐藤氏

また、畜産業界の厳しい資金繰りを解決し、本物の価値を届ける新たな仕組みとして「オーナー制」という取り組みが実施されています。これは、畜産や一次産業に関心のある全国の飲食店や経営者の方々に、牛のオーナーとして先行投資(牛の買い取り)をしてもらう制度です。確保した資金をもとに質の高い牛を育てることができるため、資金不足で育成を妥協するリスクがなくなり、価値を理解してくれる方へ最高のお肉を還元して届けることができます。
私もこの仕組みを活用して「経産牛の肥育代行」に関わっています。オーナーから集まった資金で経産牛を買い取り、代わりに肥育を行うことで、コスト高騰により繁殖経営単体では資金繰りが極めて厳しい僕のような若手農家にとって、非常に大きな助けとなっています。

最後にこれから一次産業を目指す若者にメッセージをお願いします。

佐藤氏

若い世代にとって、この業界への挑戦は決して不可能ではありません。しかし、単に「牛が好き」「育てたい」という愛情だけでは、厳しい現実を生き抜くことは困難です。 特に、牛が出荷されるまでの期間をどう乗り越えるか。キャッシュフローの管理やビジネスモデルの構築など、商売としての基礎を学んでから参入すべきだと強く伝えたいですね。だからこそ、国や行政に対しても、ただ「作り手を増やす」ための支援ではなく、持続可能な経営を支えるための「ビジネス教育」を含めた包括的な支援を期待しています。

加藤氏

私のキャッチフレーズは『農村風景を次世代に残そう』です。 現在の地方農業における根本的な課題として、所有者が不明になったり、相続後に管理されなくなったりして、農地がどんどん遊休地化(荒れ地化)している現状があります。一度草木が生い茂るような荒れ地になってしまえば、そこで新しく農業をやろうと手を挙げる人は誰もいません。完全に荒廃してしまったら終わりです。だからこそ、そうならないように、僕の代でできることとして今ある農地をしっかりと管理しています。
この風景を未来に引き継ぐためには、国が主導して小さな農地を集約化し、作業がしやすい大きな区画にまとめることが不可欠です。そうやって効率化さえできれば、企業が買い取ってもいいし、法人が借りて大規模経営をしてもいい、手段はなんだっていい。とにかく、この価値ある美しい農村風景を荒廃させず、持続可能な仕組みを作って次世代へと確実にお願いして残していってほしいと強く願っています。

尾崎氏

私たちが守るべきは『のれん』ではなく『クオリティ』という意識をみなさんで持っていきたいです。本当に良いものを作り、それに相応しい適正な価格で評価してもらう。この極めて健全なビジネスの構図を確立することで、世界を相手に勝負していくのです。 私は人生最後の挑戦として、世界に誇る「和牛」を「尾崎牛」というブランドを通じて、後世に語り継がれる「宝」にしたいと考えています。人手不足に対しても、私自身が畜産家として第一線で輝き、成功する姿を見せること。それが、後に続く若者たちに畜産業界の明るい未来や夢を示す、私なりの責任だと思っています。

編集後記
今回のインタビューを通して、一人ひとりの畜産家が置かれている過酷な現状、そして日本の大切な一次産業そのものが直面している厳しい現実を、改めて肌で感じました。
こうした環境の中では、もはや「ただ作る(育てる)」だけでは生き残ることはできず、「何を作り、誰に届けるのか」を徹底的に考え抜いたビジネスモデルが不可欠であると学びました。
畜産には生命と真摯に向き合う尊い側面がある一方で、「資金をどう回すのか」「自分たちの価値をどう正しく市場に届けるのか」といった、経営としての視点も欠かせません。
今回のお三方の言葉から、畜産とは「育てる仕事」であると同時に、「価値ある産業として成立させ続ける経営」でもあるという現実を、強く学ばされる取材となりました。

【尾崎牛を東京で味わうなら】
今回取材させていただいた、本物の価値を持つ「尾崎牛」。 その希少で極上な味わいは、東京・麻布十番にある「焼肉尾崎」でご賞味いただけます。 生産者の並々ならぬ想いとこだわりが詰まった唯一無二のお肉を、ぜひ一度、ご自身の舌で体感してみてください。

■ 焼肉尾崎(公式サイト) https://www.yakinikuozaki.jp/

焼肉尾崎

今日の私たちにできること

いいものを食べること

それは、目先の「安さ」だけで食品を判断するのではなく、「本物」の価値を見極めて選ぶことです。少し高くても、安全で丁寧に作られたお肉やお米を選ぶ。その消費者の一つの選択が、回り回って一次産業の未来を変え、日本の食を守る確かな力になります。

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