【前編】世界的ブランド「尾崎牛」に学ぶ。
和牛産業の危機と「本物」へのこだわり
健康な牛を育て、唯一無二の美味しさと確かな品質を守り続け、世界が認める和牛ブランド「尾崎牛」。 今回は、尾崎牛の生みの親であり、日本の和牛産業の第一人者の尾崎宗春さんと、志を共にするパートナー農家の加藤さん、佐藤さんのお三方に、牛業界のリアルと未来についてインタビューを実施しました。知られざる業界の裏側から、彼らが実践するサステナブルなシステム、そして「日本の『和牛』を守り抜く」という闘いに迫ります。

和牛産業業界とは
和牛産業業界の経営は、主に母牛から子牛を産み育てる「繁殖農家」と、その子牛を購入して食肉になるまで育てる「肥育農家」の分業体制で成り立っています。
牝牛は繁殖農家にとって欠かせない存在で、繁殖牛として生涯で約8頭の子牛を産んだ後に経産牛として出荷されミンチなどの形で私たちの食卓に届きます。一方、雄牛は最初から、肥育牛として育てられ、 直接食肉として出荷されます。

【課題】畜産家を苦しめる「利益構造の欠陥」と「モネンシンの罠」
牛業界は今、大きな課題に直面していると伺いました。現場では何が起きているのでしょうか?
尾崎氏
一番のネックとなっている課題は『利益構造』です。牛は出荷できるようになるまで、短くても約2年、長いと数年かかります。その間、莫大な育成費用や餌代はかかり続けますが、売上はゼロ。この期間の資金繰り・収入源の確保が本当に難しく、畜産家は常に厳しい状況に置かれています。
その厳しい状況を脱しようと利益を急ぐあまり、業界全体が「モネンシンの罠」に陥っています。 モネンシンは成長促進剤で、これを混ぜた安価な配合飼料を食べさせれば、牛は通常よりも早く太り、早く出荷できるようになる。一見、出荷までのスピードが上がり、利益率もよくなるように見えますが、ここに大きな落とし穴があります。
作り手側の「飼育コストを安く・出荷を早く」を追求するあまり、牛の健康や和牛本来の旨味といった、「和牛の価値」が損なわれているのです。その結果、市場に溢れるのは似たり寄ったりの低品質な肉ばかりになり、価格競争が激化。やっとの思いで出荷した牛一頭から生まれるはずの利益が、どんどん削られてしまう。
当たり前ですが、価値が下がれば、市場での買取価格も下落する。すると畜産家は、減った利益を補うために、さらに「もっと安く、もっと早く」と効率を追い求め牛の質が下がる。この負のスパイラルが、利益構造を根本から破壊しているのです。こうした「利益のための工夫が自分の首を絞める」という消耗戦が常態化し、利益構造が破綻してしまっているのが今の畜産業界の現実です。
その厳しい状況を脱しようと利益を急ぐあまり、業界全体が「モネンシンの罠」に陥っています。 モネンシンは成長促進剤で、これを混ぜた安価な配合飼料を食べさせれば、牛は通常よりも早く太り、早く出荷できるようになる。一見、出荷までのスピードが上がり、利益率もよくなるように見えますが、ここに大きな落とし穴があります。
作り手側の「飼育コストを安く・出荷を早く」を追求するあまり、牛の健康や和牛本来の旨味といった、「和牛の価値」が損なわれているのです。その結果、市場に溢れるのは似たり寄ったりの低品質な肉ばかりになり、価格競争が激化。やっとの思いで出荷した牛一頭から生まれるはずの利益が、どんどん削られてしまう。
当たり前ですが、価値が下がれば、市場での買取価格も下落する。すると畜産家は、減った利益を補うために、さらに「もっと安く、もっと早く」と効率を追い求め牛の質が下がる。この負のスパイラルが、利益構造を根本から破壊しているのです。こうした「利益のための工夫が自分の首を絞める」という消耗戦が常態化し、利益構造が破綻してしまっているのが今の畜産業界の現実です。
尾崎牛のこだわり


そうした消耗戦から脱却するために、尾崎牛ではどのようなこだわりを持たれているのでしょうか?
尾崎氏
私たちは、モネンシンを一切使わず、草をベースにした『発酵飼料』で、安全で健康な牛づくりを徹底しています。そうすることで、和牛本来の力を引き出し、健康で本当に美味しい和牛を育てられます。
尾崎牛は「サシの量」よりも「赤身の質」を重視し、長期肥育によってアミノ酸が蓄積された深いコクと旨味を追求しています。 また、脂の融点が24〜28度と低いため、口に入れた瞬間に溶ける上品であっさりとした口溶けも大きな特徴。 この力強い赤身の旨味と軽やかな脂の甘みが絶妙に調和することで、胃もたれせず「毎日でも食べられる」唯一無二の味わいを生み出しています。
その結果、「尾崎の和牛」は、他の和牛ブランドとは一線を画す肉質と安全性を持つ、世界最高峰の牛として認められました。 その価値の高さから、買い叩かれるどころか、世界の料理人や美食家が「喉から手が出るほど欲しがる」牛になった。ここまで来れば、しっかりと利益を確保し、餌にも妥協せず、牛の健康のために十分な投資ができるようになる。こうして、安さを追い求める消耗戦とは真逆の、「正の循環」が生まれています。
尾崎牛は「サシの量」よりも「赤身の質」を重視し、長期肥育によってアミノ酸が蓄積された深いコクと旨味を追求しています。 また、脂の融点が24〜28度と低いため、口に入れた瞬間に溶ける上品であっさりとした口溶けも大きな特徴。 この力強い赤身の旨味と軽やかな脂の甘みが絶妙に調和することで、胃もたれせず「毎日でも食べられる」唯一無二の味わいを生み出しています。
その結果、「尾崎の和牛」は、他の和牛ブランドとは一線を画す肉質と安全性を持つ、世界最高峰の牛として認められました。 その価値の高さから、買い叩かれるどころか、世界の料理人や美食家が「喉から手が出るほど欲しがる」牛になった。ここまで来れば、しっかりと利益を確保し、餌にも妥協せず、牛の健康のために十分な投資ができるようになる。こうして、安さを追い求める消耗戦とは真逆の、「正の循環」が生まれています。


パートナーである佐藤さんや加藤さんは、現場でどのような想いを持って牛と向き合っているのでしょうか?
佐藤氏
僕は元々大きな動物が好きなのと、自分で事業を起こしたいという想いから牛飼いの世界に飛び込みました。だからこそ『動物も人も幸せに。』、牛にストレスを与えない、不快な思いをさせない環境づくりを徹底しています。
というのも、環境ストレスがかかると牛は途端に餌を食べなくなってしまい、結果的に肉の味が落ちてしまうんです。だから、『牛が幸せで健康であることが、最終的なお肉の美味しさに直結する』と信じて育てています。
というのも、環境ストレスがかかると牛は途端に餌を食べなくなってしまい、結果的に肉の味が落ちてしまうんです。だから、『牛が幸せで健康であることが、最終的なお肉の美味しさに直結する』と信じて育てています。

加藤氏
私は、牛も米も、『見える安心』を作ることにこだわっています。その実践が、循環型農業。 米作りでは、尾崎牛の糞から生まれる良質な『生堆肥』を田んぼに入れ無農薬にこだわっています。尾崎牛自体が成長促進剤を使わないので、真の無農薬と言えるでしょう。その安全なお米や藁から独自の発酵飼料を作り、牛の餌になる。この安心安全なエコな循環を実践しています。
なぜそこまで手間をかけるのか。それは『自分が本当に安心できるものを牛に食べさせたい』からです。外国から輸入される牧草がどう育てられているか、私たちには分かりません。だからこそ、自分でしっかり管理して、薬の入っていない安全な堆肥を入れて育った草をそのまま牛に食べさせる。これが一番安心で、戸惑いがないんです。ちなみに無農薬で作るうちの米は、カメムシなどに食べられて黒い斑点がつくことがありますが、それは農薬を使っていない『安全の証』なんですよ。
なぜそこまで手間をかけるのか。それは『自分が本当に安心できるものを牛に食べさせたい』からです。外国から輸入される牧草がどう育てられているか、私たちには分かりません。だからこそ、自分でしっかり管理して、薬の入っていない安全な堆肥を入れて育った草をそのまま牛に食べさせる。これが一番安心で、戸惑いがないんです。ちなみに無農薬で作るうちの米は、カメムシなどに食べられて黒い斑点がつくことがありますが、それは農薬を使っていない『安全の証』なんですよ。

ご自身の名前を冠して「尾崎牛」というブランド牛を確立されるほど「和牛の価値」にこだわる原動力は何でしょうか?
尾崎氏
それは危機感です。日本の誇りである『和牛』は、私たちが守り抜かなければならない存在です。しかし今、エストロゲン(ホルモン剤)を使用した安価な外国産牛肉が大量に輸入され、日本の食卓に広く流通してしまっています。さらに海外では『Wagyu』という商標が奪われ、日本の和牛が本来持つ美味しさや安全性とはかけ離れた牛肉が『Wagyu』として売られています。それでも『Wagyuだから』と買われてしまうことで、結果的に日本で育てる和牛の価値が落ち、固有のブランドとしての地位が脅かされ、結果的に、日本の産業そのものが弱められているんです。
だからこそ、目の前の安さに逃げる消耗戦から脱却しなければなりません。実は和牛は、個体識別番号で一頭一頭管理され、どこでどう育ったか、誰の所有する牛かなどがすべて照合でき、大切に守られています。これは世界の畜産でも唯一のシステムで、和牛には本来、それだけの価値がある。だからこそ、 日本や、牛飼い自らが安売りせず、和牛の価値を守り、高めなければならない。そう決意し、想いとクオリティに共感いただける料理人を探し、直貿易の取引先を世界55カ国にまで広げてきました。 その道筋は地道かつ戦略が必要なものでした。安価な牛肉を扱っている飲食店へ一軒一軒足を運び、尾崎牛を試食してもらい、、その圧倒的なクオリティを証明。単なる取引先・数字上の価格交渉ではなく、食の本質である「安心と味」を目指す者としてパートナーの関係性を築いてきまし
た。
自分や身近な人が安心して食べられる美味しい牛を作る。その想いを広げた先に、日本の畜産産業が明るくなると信じています。
だからこそ、目の前の安さに逃げる消耗戦から脱却しなければなりません。実は和牛は、個体識別番号で一頭一頭管理され、どこでどう育ったか、誰の所有する牛かなどがすべて照合でき、大切に守られています。これは世界の畜産でも唯一のシステムで、和牛には本来、それだけの価値がある。だからこそ、 日本や、牛飼い自らが安売りせず、和牛の価値を守り、高めなければならない。そう決意し、想いとクオリティに共感いただける料理人を探し、直貿易の取引先を世界55カ国にまで広げてきました。 その道筋は地道かつ戦略が必要なものでした。安価な牛肉を扱っている飲食店へ一軒一軒足を運び、尾崎牛を試食してもらい、、その圧倒的なクオリティを証明。単なる取引先・数字上の価格交渉ではなく、食の本質である「安心と味」を目指す者としてパートナーの関係性を築いてきまし
た。
自分や身近な人が安心して食べられる美味しい牛を作る。その想いを広げた先に、日本の畜産産業が明るくなると信じています。

後編では尾崎牛に携わるお三方が考える和牛業界のあるべき姿と未来への展望についてご紹介いたします。