株式会社スタンダード通信社
代表取締役社長 猪股延吉
1958年創業の株式会社スタンダード通信社は、海外広告からスタートし、大手代理店にはない自由な発想力とクリエイティブの力で勝負してきた広告代理店である。かつては大手自動車メーカーの広告コンペで7車種連続の受注を果たすなど、数々の実績を積み重ねてきた。同社を率いるのは、31年にわたり社長を務める猪股氏である。美術大学を卒業後、渡米して現地の美術大学に留学し、デザイナーとして経験を積んだ。さらにヨーロッパを2年間ヒッチハイクで巡るなど豊かな経験を重ね、帰国後に同社に入社。バブル崩壊による経営危機の最中、50歳で社長に就任し、以来豊かなクリエイターとしての感性を武器に、会社を牽引し続けている。
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
ハートを軸に据えた、少数精鋭の戦い方
「ハートで負けない」この一言に、同社の生き様が凝縮されている。大手代理店と比べれば、人員も予算も規模も到底及ばない。マーケッターや営業を何人も投入できる大手に対し、少人数で立ち向かわざるを得ない状況の中、猪股社長は「勝てるとしたら、ハートしかない」と語る。ただし、それは単なる気合や根性論ではなく、ハートさえあれば勝てるという単純な話でもない。人数やシステムで劣るなか、それでも、ハートで負けてしまえば、そこで終わりだという厳しい自覚が、同社を支える軸になっている。AIが台頭し、企画そのものは誰でも簡単に生み出せる時代になった。だからこそ同社が磨き続けているのは、AIには代替できない人間の感性である。某自動車の広告コンペで7車種連続の受注を勝ち取ってきた実績も、数字の論理だけではなく、こうした感性の勝負に徹してきた結果である。負けない覚悟を持ち続けること。それこそが、クリエイティブという仕事に懸ける同社の美意識であり、社風そのものである。
数字の延長線上にはない、感性の勝負
同社の独自性は、クリエイティブで勝負するという姿勢そのものにある。AIの登場により、企画の市場調査やアイデア出しは、誰でも瞬時にできる時代になった。しかし、数字をもとにしたマーケティングの結果から導き出すクリエイティブは、AIがあれば誰でも同じ延長線上にたどり着けてしまう。だからこそ最後にものを言うのは、その人自身の感性だと猪股社長は考えている。感性とは、教わって身につくものではなく、生活の中で自分自身が磨いているものであり、何を学び、何を経験するかは、その人次第だという。この言葉を体現するのが、猪股社長自身の若き日の経験だ。アメリカへの留学を経て現地の仕事に携わり、さらにヨーロッパをヒッチハイクで巡りながら数年間を過ごした。様々な国や人と出会ったこの豊かな経験こそが、後に数々のヒット広告を生み出す感性の土台になっている。自らの経験でしか培えない感性。AIが台頭する今だからこそ、この人間らしさ、そして「スタンダード通信社らしさ」こそ、他社にはない独自性となっている。
美意識だけは変わらない、スタンダードの芯
同社が見据える展望には、次の世代の感性に委ねるという、クリエイターらしい潔さがにじむ。猪股社長は、31年間社長を務めてきた今、具体的な経営の方向性を自ら描こうとはしない。「次どうやるかは、次の人が考えればいい」。この言葉には、マーケティングの正解をなぞらず、感性で道を切り拓いてきたクリエイターらしい思考が表れている。決められた計画に縛られるのではなく、その時々の感性で最善を選び取っていく。そうした姿勢を、次の世代にもそのまま託そうとしているのだ。「うちはクリエイティブで勝負していく」という一貫した考えのもと、具体的な戦略は次世代に委ねながらも、会社としてのあり方には明確な思いがある。それは「かっこいい会社」であり続けることだ。同社では、国際的に通用する感性を持つ集団であることも重要視しており、海外の案件が既に動き出すなど、その視野は国内にとどまらない。何をつくるかは次の世代が決めればいい。ただ、かっこよくあること。この美意識だけは、これからも同社の芯であり続ける。



型破りだからこそ、貫く信頼と誇り
就任直後の経営危機から、黒字化までの道のりを教えてください。
社長になったのは、急な話だったんですよ。当時の経営トップから「クリエイターに社長をやらせてみるか」って、軽い調子で声をかけられて、引き受けたんです。そうしたらすぐ、銀行に呼ばれましてね。「今期黒字化しなければ融資を止めます」って言われて、そこで初めて会社がずっと赤字だったと知ったんですよ。私のクリエイターとしての仕事は主に海外でCM撮影をしていましたので、会社の業績の実態まで把握できていませんでしたし、逆に売り上げの大きな部分を担っていたと自負しています。しかし、現実を知り悩みましたが社長を引き受けるに際して、焦って数字ばかりを追いかけていては今までの信頼されている仕事がおろそかになる可能性が頭をよぎりました。そこで、仕事に誇りを持って、面白い、かっこいいと思えるものを一生懸命つくっていたら、良い仕事が取れて、結果もついてきて。その結果が、次の仕事に繋がっていったんですよね。気づいたら、その年のうちに黒字になっていました。
自由さだけではなく、誠実さや信頼も大事にされていますが、どのようにお考えですか?
うちは正直、かなり自由にやってる会社だと思いますよ。人数もシステムも大手には敵わないから、感性やハートで勝負するしかない。型にはまったやり方はしていないんです。でも、そのハートで負けたら、もうそこで終わりなんですよ、うちみたいな会社は。だからこそ、誠実さだけは絶対に手放しちゃいけないと思っています。最近も、大手の代理店を巡る不祥事などのニュースがありましたよね。あのようなことを見ると、広告代理店というだけで「怪しい」と思われかねない。だからこそ、うちみたいな小さな会社ほど、目先の数字より、クライアントとの信頼を大事にしないといけないと思うんです。自由にやらせてもらっている分、あの会社に頼めば裏切られないなって思ってもらえる。それが、うちなりの誠実さの示し方ですね。
クリエイターとして、大切にしている考え方を教えてください。
私がいつもスタッフに言ってるのは、「自分が楽しいと思う仕事をプレゼンして、それを取ってこい」ということです。苦しみながらつくったものなんて、絶対に良いものにならないんですよ。まず自分自身が、これは面白い、やりたいと思えるところから始めないと。ある新型車のコンペでは、他社のような数字とデータを積み上げていくやり方ではなく、自分の感性に従って世界中のリゾート地を車で走るという企画を通したことがあります。ピラミッドや南米、ハワイまで、実際にロケ地を探して世界中を飛び回りました。大変ではありましたけど、私にとってはそういったことが、本当に楽しい仕事なんですよ。オフィスにも、古いジュークボックスを置いていたりして、そういう遊びの感覚は、仕事場でも大事にしています。楽しんでやってる姿勢が伝われば、それはクライアントにもちゃんと伝わりますから。
規模ではなく、クリエイティブで選ばれる理由
株式会社スタンダード通信社
クリエイティブ本部取締役 坂井一博
同社で取締役 兼 クリエイティブディレクターを務める坂井氏。テレビ、ラジオ、ポスターなど、広告に関わるあらゆる表現の意思決定を担い、クリエイティブ全体の質を統括している。コピーライターとして経験を積んだのち、同社の自由な発想力に惹かれて入社。以来、全国区の大手流通小売店の浴衣キャンペーンをはじめ、数々のヒット企画を手掛けてきた。長年培ってきた発想の手法は、いまや後輩たちにも受け継がれ、社内の他のクリエイティブスタッフにも広がっているという。取材を通して、坂井氏からは幾度も自分自身への「問い」という言葉が聞かれた。良い問いを見つけることこそが、良いクリエイティブを生み出す鍵になるという。その発想法や仕事への思いについて伺った。
伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
発想の自由さに惹かれた、入社のきっかけ
坂井氏が同社への入社を決めた理由は、「面白そう」という興味だった。当時、コピーライターとして経験を積んでいた坂井氏は、前職時代にスタンダード通信社と協業する機会があった。その時に感じたのは、発想の自由さだ。決められたルールに縛られて仕事を進めるのではなく、アイデアもやり方も自由に行き来する空気に触れ、クリエイターとしての興味関心をかき立てられたという。この自由さは、出社時間などの働き方の話ではない。アイデアの可能性を阻害しない、挑戦を否定しない自由さだ。同社は元々、海外への輸出広告からスタートした歴史を持ち、創業当初から海外のスタイルを先進的に取り入れてきた。かつてはオフィスの冷蔵庫にビールが常備され、自由にコミュニケーションする文化があったというのも、その象徴的なエピソードの一つである。当時から広告業界の中でも独立系として一目置かれる存在でありながら、自由な発想を大切にする社風。この会社なら面白い仕事ができるという興味こそが、坂井氏の入社の決め手になった。
AIの時代に、人間らしさが問われる面白さ
坂井氏がやりがいを感じているのは、AIの台頭によって、「らしさ」を打ち出せるかどうかを問われる時代が来たことだ。広告とは本来、人間が人間の感情に働きかけ、心を動かすための仕事である。バブル崩壊後の広告は、安さや機能性を打ち出す表現が主流となり、「面白くなくなった」と言われる時期が続いていた。誰でもクリエイティブをつくれる今だからこそ、改めて人間性が問われている。坂井氏は、AIと人間の最大の違いを、「何かをやりたい」と自ら始める気持ちだと考えている。人間の欲求や意志と、目の前の課題を掛け合わせることで、初めて新しいものが生み出せるという。そしてその「らしさ」は、一朝一夕には生まれない。坂井氏は、この考え方を、企業のあり方にも重ねている。長い歴史をもつ企業ほど「らしさ」は培われやすく、良いものが受け継がれた結果として残っていくものだ。そうした経験や財産を持っていることこそ、今の時代において大きな強みになる。だからこそ坂井氏は、人間らしさが問われる今の時代を、難しくもやりがいのある時代として前向きに捉えている。
クリエイティブで、もう一度一目置かれる存在へ
坂井氏が思い描く夢は、クリエイティブの力で、同社が改めて業界から一目置かれる存在になることだ。広告業界において、規模やメディアを支配する力では大手には到底及ばない。だからこそ、これまでもクリエイティブそのもので勝負を続けてきた。しかし今、時代は大きく変化している。誰もが同じような表現をつくれるようになった分、自由な発想力や提案力の価値は、これまで以上に高まっているという。坂井氏が目指すのは、そうした時代の中で自社の自由な発想や提案スタイルが世の中に認められ、「クリエイティブといえばスタツー(スタンダード通信社)」と言われる存在になることだ。ただし、それは規模の大きな仕事や派手な実績を求めているという意味ではない。目指すのはあくまで、人間の心を動かす「良いもの」をつくることである。可愛い、美しい、心が動くなど、そうした感情を揺り動かす表現こそが、広告の本質だと坂井氏は考えている。積み重ねてきたクリエイティブの力を、これからも磨き続けていくこと。それが、坂井氏と同社が描く夢である。



「良い問い」が生み出す、選ばれる理由
クリエイティブの発想は、どのように生まれるのでしょうか?
僕がずっと若いスタッフに言い続けているのは、「良い問いを見つけよう」ということです。課題を見つけて、良い問いにたどり着ければ、答えは大体最高のものになる。逆に言うと、問いさえ見つかれば、クリエイティブは勝手に生まれてくるものなんです。ただ、その「良い問い」を見つけるのが、実は一番難しい。お客さんはよく「売り上げを伸ばしたい」とおっしゃるんですが、そのまま受け取っても、良い企画にはならない。もっと核心に近いところまで、どんどん掘り下げていく作業が必要なんです。多くの会社さんには、この「問い」自体がないことが多い。うちがそこに気付いて、問いを提示できると、「確かにそこが課題だ」と納得してもらえる。そこまでいけば、あとは答えを一緒に考えるだけです。問いを立てる力こそが、僕らクリエイターの本当の仕事だと思っています。
貴社がクライアントから選ばれる理由は、どこにあるとお考えですか?
僕は問いの「深さ」だと思っています。多くの会社さんは、ネットの情報だけでなんとなく企画を組み立ててしまうんです。でも、それだと表面的なことしかわからない。例えば、浴衣をもっと気軽に買ってもらうための企画をやる時も、ターゲットになる10代や20代の女の子の気持ちは、僕ら世代には正直わからないんです。だから本人たちに聞きに行く。そうすると、「浴衣のおしゃれさではなく、可愛い写真が撮れるものを選んでいる」のような、まだ言葉になっていない本音が見えてくるんです。それを見つけて、ちゃんと言語化する。うちはそこをとことん考え抜く。問いの解像度をどこまで高められるか。「良い問い」にさえたどり着ければ、あとは自然と、その問いに応えるクリエイティブを発想していくだけなんです。
クリエイティブ作成において、大切にしている思いを教えてください。
メディアの力では、中小企業は大手の広告代理店に絶対に敵わないんです。でも、1本のCM、1枚のポスターに何を表現するかというところは、大手や中小に限らず、実はみんな平等なんですよね。だから、うちが勝負できるのはクリエイティブ。会社の規模では敵わないけど、クリエイティブでは勝ってきたという自負があります。その中で、僕がやりたいのは、タレントさんを使っているだけみたいな表現ではないんです。もっと自由で、人間的なクリエイティブが良い。人間の心にちゃんと作用するもの、今の時代の価値観を、少し新しく更新するような、意義のあるものをつくりたいと思っています。
創業年(設立年)
1958年
事業内容
・マーケティング/コミュニケーション計画の立案と実行
・企業/商品のブランディング立案と実行
・クリエイティブ制作全般
・メディアバイイング全般
・WEBサイト/Eコマースサイト構築、WEBプロモーションの立案と実行
・イベント、PRの立案と実行
所在地
東京都目黒区自由が丘 2-8-5
資本金
2,100万
従業員
50名
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