株式会社鮑屋
株式会社鮑屋 代表取締役社長 市川将史
今回取材をさせていただいたのは、小田原で430年以上の歴史を持ち、神奈川県最古の株式会社である株式会社鮑屋様。そんな長い歴史を持つ同社は、水産の仲卸業からはじまり、長年に渡って小田原の水産物を業者へ卸してきた。現在でも水産物の仲卸業を主力として事業を展開しているが、小売業での販売店「魚商 小田原六左衛門」の直営や飲食店「さじるし食堂」の運営、メーカー業での水産加工など、業界では珍しく様々な分野に進出し、多角的に経営を行っている。430年という歴史を持つ老舗企業でありながらも、新たな事業に果敢にチャレンジし続けている同社。今回はそんな同社の18代目当主である市川社長に、展開している事業の強みや今後の展望について伺った。
伝統の継承と、未来の挑戦を可能にする革新企業の本質
‟まずはやってみる”チャレンジする社風
430年以上続く歴史の中で、形成されてきた同社の社風がある。それは例えば、通常9隻出てる漁船が急遽3隻だったとしても、同量の仕入れを行うような、「なんでもできると思ってまず考える、やらないのは優先順位が低いことだけ」というチャレンジ精神だ。やる人がいなければ、業務を他の人に移管して時間をつくり対応する。採算が合うのが前提だが、移管できる人がいなければ新たに人を採用する。お金がかかるのであれば、いくらあればできるか考える。このように、お客様から「これは流石にできないだろう」と言われることでも、まずできないかを考えてみるという。もちろん、はじめからこの考え方を体現できていたわけではない。社風になっていったきっかけは、成功体験を積み重ねたことである。チャレンジし、それが成功し、業績が伴うにつれて、社員の中でも「できる」という自信が生まれていったという。今では、みんなが「できる」と思っているからこそやっている、そんな感覚だと教えてくれた。同社はこれからも、できない理由を並べて諦めるのではなく、何事も積極的にチャレンジし、会社の未来を切り開いていくだろう。
3本柱のビジネス展開で、深いニーズを捉える
仲卸・小売・メーカーの3本柱でのシナジーにより、よりお客様目線に立ったサービス提供を行っていることこそが、同社の独自性であると市川社長は教えてくれた。実は仲卸がこのように複数の事業展開をするのは、業界でも珍しい例だという。もちろん容易にできることではないが、この独自性を持つがゆえ、お客様の気持ちに寄り添った、深いサービス提供ができている。例えば小売りをやっているからこそ、商品を卸す時に、お客様の「ここまでやってくれたら助かる」という気持ちを読むことができる。具体的に、お客様の予算に沿ってより詳細な料理内容まで提案できたり、仲卸だけだとイメージしづらかった売り方まで提案できるようになったという。また、メーカーとしての機能を持つことで、入ってくる情報の量が違う。展示会にも出ているので、全国のバイヤーと接点を持つことができる。このシナジーを活かし、同社はお客様の深いニーズを捉えている。
より、チャレンジの場を与えられる会社へ
「社員によりチャレンジの場を与えられる会社」を目指し、430年という歴史に甘んじず、市川社長は失敗を恐れず積極的にチャレンジを続けていく。市川社長がこのチャレンジ精神を持っているのは、チャレンジし、成功体験を積むことの楽しさを自身が誰よりも感じているからである。そして、‟個”としての成長機会を与えることで、‟社”としての成長に繋がっていくと考えているからだ。だからこそ、今以上に社員にもチャレンジする場を与えられる会社を目指していきたいと教えてくれた。具体的に考えているのは、積極的な社員へのポストの受け渡しである。現在、ホールディングス化した3社は全て市川社長が社長を務めているが、今後は社員に社長の役を任せていくことも考えている。ポストを受け渡すことで、その座にふさわしい待遇が与えられ、責任と権限が生まれる。そしてそこからまた、新しい可能性が広がっていくと考えているからだ。このように、市川社長は社員がチャレンジできる機会の創出を掲げ、今日も邁進していく。



食のプロとして、全ての美味しいを創造していく
どのような想いで430年以上の歴史を持つ会社を継ぎましたか?
会社を継いだ時は、業績が良くありませんでした。正直、会社を潰すか存続するかという瀬戸際だったと言っても過言ではありません。けれど、そのような状況だったとしても「会社を存続させたい、そのために全力を尽くそう」という気持ちで会社を継ぎました。私がそのように感じたのは、‟鮑屋”という会社の子供として生まれ、代々の歴史を家族から聞く中で、会社に対して強い誇りがあったからです。「この歴史を自分の手で残していきたい」そんな想いがあったので、会社を継ぎました。債務超過を脱し、これからというところではありますが、今後は会社だけでなく、業界・地域の未来をリンクさせた事業展開を行って、さらに発展させていきたいと思います。
お客様にとって鮑屋の存在意義はどんなところにあると思いますか?
弊社では、「全ての美味しいを創造しよう」をミッションに掲げています。このミッションを胸に、関わる全ての人の想いを汲み、より価値の高いサービス提供ができるように心がけています。例えば、仲卸業であれば、漁師が命がけで取ってきた魚を、鮮度が良いまま消費者にお届けする。このように商品と共に漁師の想いを届けることが、仲卸業としてのミッションだと考えています。飲食業であれば1日に何百人とお客様が来店されますが、お客様にとっては特別な日の、心待ちにしていた食事かもしれません。メーカー業も同じで、つくった商品が、お客様にとってはかつて家族と食べた思い出の味になる可能性もあるでしょう。そのようなシーンを想像し、その想いを胸に留めて努力していく。そこに我々の存在意義があると考えています。
今後の事業展開について教えてください
実はまだお話しできないことが沢山あるんですが、色んな構想を練っているんですよ(笑)。最近では、うちの小売部門である「株式会社エンイート」が運営する直売ブランド、「魚商 小田原六左衛門」の豊洲への出店が決まりました。今は小田原店と、出店が決まった豊洲の2店舗のみですが、将来的には5・6店舗と増やしたり、都内の百貨店にも出店していきたいと考えています。やはりこのように色んなことにチャレンジしていくことや、構想を立てるのはとても楽しいですね。430年という伝統を大切にしながらも、「やってみよう」の精神で会社として色んなことに今後もチャレンジしていきたいと思います。今後の弊社の取り組みを、皆さん是非楽しみにしてて下さい!
自分の提供する価値を上げて、もっとお客様に寄り添っていきたい
株式会社鮑屋
営業二部部長 吉村一将
仲卸業として小田原で魚の買い付けをおこなう鮮魚部門と、小田原をはじめとした箱根・伊東エリアのホテルや旅館へ出荷する外食部門の部長を務めている吉村部長。鮮魚部門では、会社の数字に直結する重要な役割だからこそ、今まで経営者が担っていたせり業務を任されている。一方の外食部門では、部門の立ち上げから携わり、今でも部長として部門を牽引している。「経営や地域のことに、社長が手を掛けられる時間をつくりたい」と積極的に会社を引っ張る吉村部長。今回のインタビューを通して、吉村部長の感じている仕事のやりがいや誇り、そして未来の展望について紐解いていく。
伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
惹かれたのは、アットホームな職場で‟魚”に携われること
幼い頃から父親と共に釣りを楽しみ、数えきれないほど魚に触れる機会があったという吉村部長。学生時代も縁があり、飲食店のアルバイトで、魚を捌いていたという。学生時代の専攻とは異なっていたものの、やりがいを感じていたこともあり、魚に関わる仕事に進むことを決意した。そして最初の就職先に選んだのは、当時約500種類以上の魚介類を扱い、鮮魚市場として日本一と誇り高い‟築地市場”。大きなやりがいを感じてはいたものの、夜勤中心の生活リズムの見直しを図ったことをきっかけに、早朝からの出勤が可能な地元、小田原への転職を決意。「セリをやってみたい」とホームページから同社を見つけ、入社に至った。 実際に選考を受けた際、社員同士の仲が良さそうなアットホームな雰囲気に惹かれたという。また、面接の時に感じた、経営者との距離の近さは入社してからも変わらず、経営陣と共に会社をつくっていくことにやりがいを感じている。今後も会社の中核として、同社より成長させてくれるだろう。
経験を重ね提供できる価値を増やすこと
自身の経験を増やし、解決できるお客様の悩みの幅が広がること。それこそが仕事のやりがいであり、何よりも喜びを感じると吉村部長は教えてくれた。「もの」を売るのではなく、自分の価値である「こと」を提供することで、お客様との信頼を積み重ねていく。では、それは具体的にどのような場面だろう。ここで一度、スーパーに水産加工品を卸す場面を想像してみてほしい。例えば冬の季節、どのような商品にニーズが集まるのだろう。寒さが厳しいからこそ「温かい鍋が食べたい」という気分に、多くの人はなるのではないだろうか。そこで、鍋材をメインに、タラ・牡蠣・鮭などを提案し、売り場を構築していくが、吉村部長の提案はこれに留まらない。幅広い事業展開を行っているからこその地域の情報を集約し、「今は近隣のスーパーで刺身が売れているから、販売するのはどうか」と提案をする。このように「もの」ではなく「こと」を提案することによって、お客様から「昨日より売れたよ!」と言われた日には、特に仕事へのやりがいを実感できるそうだ。
自身の発想で、価値あるものを多くの人へ
「この業界の人が、驚くようなアイデアを出していきたい」と吉村部長は教えてくれた。そのために、商品がお客様の口に届くまでの間で、何か変えられることはないのか、常に模索しているという。そのような夢を抱くのは、世の中には美味しい物が沢山溢れているが、お客様の口に届いていない商品があると、よく感じているからだ。どうしたら本当に価値のあるものを世の中の人に知ってもらい、食べてもらえるのか。一人でも多くの人に魚のお美味しい所を知ってもらうために、発想を変えたアイデアを出していきたい。「お!鮑屋それやったんだ!」と言われるような仕組みを、鮑屋の今後に残せる形で構築していくことこそが吉村部長の夢だという。自身が引退してからも、「良い商品だったね」と、誇りを持って話せるような、‟100年続く商売”を考えることが今後の目標だ。



「小田原と言ったら鮑屋」そんな地域に根差した企業になりたい
鮑屋をどのような会社にしていきたいですか?
「小田原と言ったら、鮑屋」と地域で言われるような会社にしていきたいです。入社した当初から、「地域に根差す」という部分に、もっと力を入れていきたいと思っていました。創業430年の歴史があるからこそ、地域にもっと貢献できる企業になりたいと。だからこそ、最近は地域の関わりに力を入れていて、催事や祭りを手伝ったり、商品をプロデュースしたり、地域を考えた取り組みを積極的に行っています。そうするうちに、有難いことに「小田原で魚と言ったら、鮑屋」と言ってもらえる機会が増えました。今後更に加速させ、「小田原と言ったら、鮑屋」と言われる会社を目指していきたいです。
吉村部長にとって、鮑屋はどんな会社ですか?
一言で言うと、‟スピーディーな会社”ですかね。時代の流れに乗っている、変化しているという印象です。やはりそれは、社長が「とりあえずやってみよう」というチャレンジ精神を持っているからではないでしょうか。まずやってみて、利益が出なかったり、お客様に喜んでもらえなければそこで止める。社長がそんな考えを持っているからこその、弊社の文化だと思います。私も変化することが結構好きなので、飽きずに毎日仕事をすることができて、とても楽しいです。そして、そのチャレンジを繰り返すスピードが早いからこそ、老舗企業にも関わらず進化し続けているのだと思います。
吉村部長にとって市川社長はどういう方ですか?
楽しく生き生き仕事をしている方という印象ですね。「楽しく仕事をしよう!」という気持ちで経営陣が仕事をしていると、それって社員にも伝染すると思うんですよね。現場の雰囲気もガラッと変わるんです。私自身が大切にしているマインドでもあるので、そのような部分をとても尊敬していますね。そして何より、自分にとって市川社長は、「今後も真似をしていくべき存在」です。市川社長は会社の方針を体現しているような方なので、同じような考え方をして、それに沿って行動することができたらとても強いのではないかと思います。良い意味でコピーのような存在を目指して、今後も力を合わせて頑張っていきたいと思います。
創業年(設立年)
1587年
事業内容
魚の卸売り、食品製造、小売り、外食
所在地
神奈川県小田原市早川1-4-10
資本金
3,800万円
従業員
88名
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