株式会社住田光学ガラス
代表取締役 住田利明
今回取材させていただいた株式会社住田光学ガラスは、創業から102年の歴史を持つ光学ガラスの研究開発・製造を手がける老舗企業である。現在、同社を率いるのは3代目社長、住田利明氏である。住田社長は利益や会社の拡大ではなく研究者が自由な発想で製品を開発することを大切にしている。それは「目的のために製造する」のではなく「こんなものが出来たら面白そう」ということが重要と語る。事例として過去につくった製品が、その時代では活用手段がなかったが、数十年後に大きく評価されるということが度々あるという。独創的かつ地道な研究開発の積み重ねは、ガラスという素材の新たな可能性を切り拓き続けており、国内外から高い評価を受けている。そんな同社の独自性や未来に向けての展望などを伺った。
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
迎合せず進化する独自の路線
同社の社風は、「自由に、自在に、しなやかに」である。この言葉を体現するために、独立独歩の姿勢を貫くことにこだわっている。現在、同社の技術力や研究ノウハウに興味を持った大手企業などから資本提携や上場の打診が日常的に舞い込むが、そうした誘いには一切耳を貸さない。根底にあるのは、「やりたいことだけをやる」ことである。製品開発、技術研究など、どの領域においても自前でやることを前提としている。そうすることで社内には独自の技術とノウハウが蓄積されていき、この積み重ねが新たな素材を生み出すきっかけとなっている。ガラスの加工から出発した同社は、やがて自らガラスを製造し、さらには医療用の光ファイバーや非球面レンズなどを生み出していったという背景がある。それは表向きは変化していなくても、実は内部では常に挑戦し変革してきたという結果である。それは他の意見には耳を貸さず独自で「やりたいことだけをやる」を貫いた結果でもある。霧の中でも一歩を踏み出せば、次が見えてくると住田社長が語るように、日々、独自の進化を続けているのである。
流行を追わず、面白いものをつくる精神
同社の独自性は、「他がやらないことをあえてやる」という姿勢にある。それは一般的な企業の商品開発で着目する市場規模、トレンド、利益率といった正面玄関から入るのではなく、表側のことは一切考えず「面白いかどうか」ということだけを考えた裏口から入る会社だと言える。例えば光ファイバーの分野では、他社が絶対にやりたがらないような非常に手間のかかる製造工程を、職人の知識と経験で高い領域にまで持っていった。社長自身が工場に足を運び、製造工程を見る度「よくこんなものがつくれるな」と感心するほどの手間と細密な技術が、社内には息づいている。こうした独自技術は、会社としてマニュアル管理するというよりも、各研究者やベテラン社員の頭の中に蓄積されているという、ある意味自由なノウハウ保存という形で継承されている。だからこそ、会社を急拡大させる必要はない。つくったもので食っていければそれでよい、という潔さと覚悟がある。利益はあとからついてくる。その哲学が、同社の独立精神と独自技術の礎を支えている。
進化する「現状維持」
同社の展望は「現状を維持すること」である。この一見控えめにも思える目標だが、住田社長は「現状維持こそ最も難しい」と語る。今、同社は理想的な経営状態にあり高水準で安定した状態となっている。その状態を長く保ち続けることこそ、最大の挑戦であり使命と考えているのだ。しかし「維持」とは、何もしないことではない。社員の高齢化や時代の変化に対応しながら、誰もが快適に働き続けられる環境を整備する努力が日々続けられている。過去には試験的に工場の敷地で畑をつくり、高齢になった社員に作物の生産を行わせた。結果、予想よりも多くの収穫があったということもあった。そういった長年勤めた社員が年齢や能力に応じて関われる新たな役割を柔軟に生み出していくことも現状維持の一つの施策である。他には住田社長が唯一発信していることとして「年間10か月分のボーナス支給」という目標である。その目標を達成するためにはどうするべきかを考えさせている。その背景には漫然とものづくりを行うのではなく、価値のあるものをつくっていけば達成できるという「やるとできる」という住田社長のメッセージが込められている。



放し飼いのニワトリたちと更なる進化へ
住田社長が大切にしている価値観とは何ですか?
私が毎年掲げている経営指針には、社員に大切にしてほしい価値観を込めています。なかでも印象的だったのが、昨年掲げた「やるとできる」という言葉です。よく「やればできる」と言われますが、それはあくまで可能性の話にとどまります。しかし「やるとできる」は、実際に手を動かすことで道が開けるという実感を込めた言葉です。例えば、ペットボトルを右から左に動かしたいと思っているだけでは何も変わりません。実際に手を伸ばして動かしてこそ、はじめて変化が生まれるのです。ダイエットだって「痩せたい」と願っていても、行動しなければ成果は出ません。結局、実行するかどうかがすべてなのです。この言葉を通じて伝えたかったのは、まずやってみることの大切さ。やってみれば何かが起こるし、そこからまた新しい視点が生まれてきます。その積み重ねが、組織としての現状維持や発展にもつながるのだと考えています。
御社のマスコットの誕生には、どのような思いが込められていますか?
弊社には「ナゼ太郎」という、にわとりのマスコットキャラクターがいます。これは、社訓や企業理念をあえて文字ではなく、見る人自身に感じ取ってもらうための象徴として生まれました。モチーフは“放し飼いのにわとり”で、「自由に、自在に、しなやかに」という弊社の社風を体現しています。マスコットの誕生は約40年前。当時、社名変更を検討していたタイミングで、経営方針も表現したいという思いから誕生しました。「住田は放し飼いのにわとりのような会社だ」と先代が語った一言が、マスコット誕生のきっかけでした。社外の方が初めて会社を訪れる際には、玄関先でこのにわとりを目にした時「なぜガラスの会社に?」と興味を持ってもらえることも多く、そこから自然に弊社の考え方を伝える会話が生まれます。理念を押しつけるのではなく、気づきと共感を大切にする姿勢が、弊社の文化そのものなのです。
今後取り組んで行くべきテーマは何ですか?
これからの取り組みで必要なのは、AIの活用だと思っています。特に高齢化という問題には正面からの対処が難しい分、AIをうまく使って知見やノウハウを残していくことが大切だと感じています。AIがきちんと育てば、社長の代わりをすることだってできる時代が来るでしょう。実際、弊社でもAIを使った検査装置の開発や、生産現場での自動化に取り組み始めています。もともと製造設備は社内でつくっているので、そうした環境がAI導入の土台になっています。光学ガラスは非常に繊細で、炉の形や溶かし方一つで品質が左右されます。それを理解し、制御できるのは経験に裏打ちされた現場の知見です。その知見をAIに学習させて次の世代につなげる。それが、これからの技術継承のかたちだと思っています。自由な発想と緻密な技術、その両方を融合させて、これからも新しいものづくりに挑んでいきたいです。
伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
株式会社住田光学ガラス
素材開発部 課長 手塚達也
株式会社住田光学ガラスで素材開発部の課長を務める手塚達也氏は、大学卒業後に新卒で同社へ入社した「地元埼玉」を愛する技術者である。大学ではセラミックスの研究を行っていたが、未知なる素材であった「ガラス」に惹かれ、同社への入社を決意した。現在は電池材料「SELAPath」(セラパス)の製品開発を中心に、光学レンズ向けを中心としたガラス素材の組成開発を担当。素材を調合し、熱い炉の前で作業するという、生産と研究の両面を担うという仕事に日々挑んでいる。さらに現在は、出身校の大学院で博士号を取得するために籍を置き、同社での業務と大学院での研究を重ね、その成果を会社に還元すべく仕事と学業を両立している。そんな手塚課長のやりがい、夢などについて伺った。
自由の意味を突き詰め更なる進化の推進
未知の領域への好奇心
入社した理由は、大学の教授からの紹介で同社を知ったことがきっかけである。その中で「ガラス」という未知の素材に強く惹かれたということが決め手となった。大学時代、セラミックス材料を扱う研究室に所属していたが、その中でガラスについてはほとんど知識がなかった。だからこそ、逆に興味が湧いた。進路を考える中で、地元・埼玉での就職を希望していたところ、教授から「卒業生も多く在籍していて面白い会社がある」と紹介されたのが同社だった。実際、他の企業にも目を向けてみたが、ガラスという未知の素材に飛び込んでみたいという思いが強くなり、同社を選んだ。入社後もその期待は裏切られず、日々発見の連続である。特に同社は面白いものを開発するということが重要であるため、自由な発想を尊重してくれる。売れるものや流行を追うのではなく、誰もやらないこと、目立たないが面白いことを地道に追求する姿勢に魅力を感じている。入社の決め手となった「未知への好奇心」は、今も原動力になっている。
自由な発想を形に変えていく
同社の最大のやりがいは、自由な発想から生まれた自分のアイデアが形になり、最終的に製品として世の中に出ていくことだという。同社は開発型の企業であり、製品の多くは開発現場から生まれる。そうした環境で、自分の好奇心や気づきをもとに研究ができることは非常に魅力的である。実際に、開発テーマは上から降りてくるのではなく、現場で面白い現象があった時に「これをもう少し掘り下げてみよう」といった発想から始まることが多い。そこに明確なゴールがあるわけではないが、実験の副産物のようなかたちで、やがてユニークな製品の種が見えてくる。そうした流れで開発された製品が、数年後に評価されることも少なくない。さらに、この会社では「流行りを追わない」というスタンスも大きな特長である。目立たない分野、ニッチな素材や用途にこそ面白さがあり、そういった誰もやっていない領域を追求できるのは、技術者としての誇りでもある。大量生産ではなく、高付加価値でオンリーワンの製品をつくることに集中できるのも魅力だ。結果として、日々の実験の中から偶然の発見という楽しみが、自身にとっての最大のやりがいになっている。
住田光学のものづくりの原点を見つめ直す
手塚課長が思い描く夢として、ガラスという素材の価値を改めて見直し、ビジネスとして安定的に利益を生み出せる仕組みを構築することである。背景には、デジタルカメラの衰退やプラスチックレンズの台頭などにより、ガラスそのものの需要が年々低下しているということもあり、大手企業との価格競争に負ける場面もあるのが現状である。だからこそ原点に立ち返り、流行に乗らず、目先の売上に飛びつかないという姿勢をもう1回取り戻すことが大切だと考えている。その上で5年後、10年後を見据えて今は地味でも将来評価される製品づくりに注力したいと語る。売れるかどうかではなく「面白いか」「価値があるか」を基準にものづくりを進める姿勢が、結果として社会に必要とされる商品を生み出すと信じている。そして結果的に、売上や利益に縛られることなく、社員が無理なく働ける環境を維持し続ける企業でありたい。そんな持続可能なものづくりを実現するのが手塚課長の夢である。



更なる進化を見据えた深化の追求
開発に取り組む上で、大切にしている姿勢とは何ですか?
私が開発に取り組むうえで大切にしているのは「偶然をきっかけに深掘りしていく姿勢」です。例えば失敗しても成功しても、もっと違う方法ないかということを考えることが自由なんだと思っています。まずは与えられた課題に取り組み、そのなかで思ったものと違う結果が出たと感じたときに、そこを深掘りしていくことが、新しい発見につながります。成功も失敗も含めて、その積み重ねこそが自由なものづくりにつながっていくと思っています。ただ会社単位で見ると自分で課題を見つけて自由に取り組むスタイルが合う人ばかりではありません。ですので、自由さとある程度の方向づけや教育、この二つのバランスをどう取るかは、今後の進化だと感じています。例えばテーマを与えて、そこから自分なりの問いを見つけていってもらう仕組みづくりも必要だと考えています。自由とは、放任ではなく「自分で考えて進んでいける状態」そうした自由さをチーム全体で実現していけるようにしていきたいと思っています。
開発に携わった具体的な素材は何ですか?
私が開発に携わった素材の中で、特に印象深いのが「近赤外レーザーで光るガラス」です。これは、人の目には見えない近赤外レーザー光を、人の目に見える光に変換する特殊なガラスです。主にレーザー加工機に使われており、レーザーが正確な位置に照射されているかを可視化する用途で使われています。10年ほど前に開発しましたが、当初はほとんど売れませんでした。しかし、近年レーザー加工技術の普及とともに需要が急増し、ようやく評価されるようになりました。やはり世の中のニーズと技術の成熟が重なるタイミングがあるのだと実感しています。また現在は、全固体電池向けの材料開発にも取り組んでいます。こちらはまだ販売実績は少ないものの、将来的な成長を見越して研究を進めています。私たちは、従来のカメラ用レンズ材料に加え、こうした特殊性の高いガラスや素材の開発も多く、半分半分という割合で製造しています。
ご自身が進化させたいところは何ですか?
私が今、進化させたいと感じているのは、開発と製造現場とのコミュニケーションをより円滑にするための「仕組みづくり」です。ガラスの製品開発では、実験室レベルでの成果を生産ラインに乗せるには、製造担当者との密な連携が欠かせません。ただ、開発側と製造側にはそれぞれの考えやこだわりがあり、時に意見の食い違いが生まれることがあります。そのため、現場との押し引きのバランスを取りながら、信頼関係を保ち、効率的にものづくりを進めるための仕組みを整えていく必要があると感じています。定期的な打ち合わせは行っていますが、個別の製品については、現場に足を運んで直接会話しながら対応しているので、ある程度限界があるため、より伝達がスムーズになるような仕組みをつくっていけたらと思っています。製造現場の声を尊重しながら、開発の意図もきちんと伝わる、そんな体制が整えばより働きやすい職場づくりが実現できると思います。
創業年(設立年)
1923年
事業内容
光学機器用光学ガラス及び加工品
所在地
埼玉県さいたま市浦和区針ヶ谷4-7-25
資本金
49,347,000円
従業員
400名
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