株式会社博水
専務取締役 江越雄大
創業122年を誇る株式会社博水は、福岡に根ざした練り物製造企業で、伝統的な製法にこだわりながらも革新を続けている。同社は、鮮魚市場から仕入れた未利用魚「えそ」を用い、自然の旨味を最大限に引き出す製品を提供。代表的な商品『ギョロッケ』は、えそを使用した魚のコロッケで、地元の食品業者や公共機関、特に工場直売店において一般消費者に愛されている。また、廃棄される魚や野菜を活用した新商品の開発にも力を入れ、SDGsにも配慮した商品づくりを実践している。
事業承継を控えている江越専務は、2025年に開催されたアトツギ甲子園で「地方創生賞」を受賞するなど、積極的に業界活性化に取り組んでいる。江越専務は、若い頃に劇団四季のミュージカルを見てキラキラした世界に憧れを抱き、現在はその情熱を自社の成長に注いでいる。今回は、そんな江越専務に今後の展望などをお伺いした。
伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
多様性が調和する、皆で学び合う文化
同社の社風は、風通しが良く、自由な発想と前向きな挑戦を大切にする環境である。同社は平均年齢30代と若い。社員同士の距離が近く、経営陣も現場の声に耳を傾ける姿勢を持ち、社員一人ひとりの個性や意見が尊重されている。
社員のバックグラウンドも多彩で、合気道を習っている方、本が好きな方、独立経験のある元飲食業出身の方、離島から地元愛を持って働く方など、バラエティに富んだ人財が集まっている。互いの違いを受け入れながらも、協調性を持ち、衝突よりも対話を重視する文化が根づいている。対話を通じて、社員が練り物業界に希望を持ったことで、特に近年は、社内の雰囲気が一層良くなってきていると江越専務は語る。
製造現場には水産加工やスーパーでの実務経験者も在籍しており、鮮魚の特性に応じた加工技術を現場で共有している。また、70代のパートスタッフも活躍しており、その経験が世代を越えて自然と受け継がれている。知識や技術を皆で学び合う姿勢こそが、同社の成長の土台となっている。
魚の命を、価値に変える力
同社の最大の強みは、市場で鮮魚を仕入れ、商品として完成するまでの全工程を一貫して行える体制にある。この一貫製造体制により、冷凍ではできない、魚の状態や個体差に応じた細やかな調整が可能となり、常に品質の高い商品づくりが実現できる。また、昔ながらの石臼を使った低温練りによって、魚本来の風味や食感を損なうことなく、清らかな地下水を使用した洗浄工程が臭みのない上質な味を生み出している。このような技術と設備があるからこそ、未利用魚を活用した商品開発や、学校給食、ふるさと納税への展開、さらには海外輸出といった事業の幅広い展開が可能となっている。水産資源が限られる時代において、命を余すことなく活かし、価値に変える姿勢は持続可能な社会づくりに貢献していると言える。お客様からは、「こうした誠実なものづくりをしている企業を応援したくなる」との声を多くいただく。この信頼と共感が、選ばれる理由となっており、今後も独自の挑戦を続け、さらに多くのお客様に選ばれる企業を目指している。
子どもたちに練り物を、世界に日本の味を
今後の展望は、日本の伝統食品である「練り物」を次世代へつなぐことにある。練り物は日本食文化の一端を担ってきたが、近年はメーカーの減少や消費量の低下が顕著であり、このままでは伝統が途絶えかねない。こうした危機感から、練り物の魅力を知ってもらうために、親子向け体験教室や料理教室といった「食育」の取り組みに力を入れ始めた。子どもの頃の食体験が味覚や嗜好を形成することを踏まえ、記憶に残るシーンとともに練り物の価値を根付かせていくことを目指している。
加えて、2012年から始めた海外展開も強化している。輸出先では中国などの廉価な商品が流通しているが、現地のバイヤーからは「日本の練り物の方が圧倒的に美味しい」との評価を得ており、価格差を超える付加価値の創出が鍵となる。練り物文化のグローバル認知には、業界だけでなく国を挙げた支援が不可欠であると江越専務は考えている。
その実現に向けて、より社員数を増やし、地域の「推し企業」として、地元に愛され、日本文化の発信拠点となる企業を目指している。



練り物業界は自分が活性化させるという覚悟
アトツギ甲子園に出場されたきっかけは何ですか?
正直に申し上げると、最初から家業を継ぐ覚悟があったわけではありませんでした。練り物を売っていきたいという強い思いも、当初は持っていませんでした。ただ、どこかで希望を持ちたかったし、自分自身の覚悟を決めるきっかけが欲しかったのです。そこで「アトツギ甲子園」に挑戦しました。予選の準備期間は短かったのですが、自社の強みを自分なりに整理し、納得できる内容で臨むことができました。決勝では周囲の熱量に圧倒され、自信を持ちきれませんでしたが、特別賞である「地方創生賞」を受賞することができました。これまでの10年間の歩みが無駄ではなかったと感じています。また、自分がやってきたことが地方創生につながっていたと知ることができ、新しい価値観を得られたのも大きな収穫でした。この経験が、未来を考える視野を広げてくれたと実感しています。
事業承継を控えて、今後挑戦したいことは何ですか?
弊社がこれまで大切にしてきたのは、「生法(なまほう)」、つまり鮮魚から製造するという伝統です。やめようと思えばタイミングは何度もあったと思いますが、安全・安心な食品づくりや、代々受け継いできた技術・想いを守ることが、何より大事だと考えてきました。現在、事業は順調に推移しており、大きく何かを変えるというよりも、今あるものをより良くする“進化”を目指しています。製造面では機械の見直しを進めながら、家業的な枠を超えて外部の知見も取り入れた「会社化」に取り組んでいます。また、地域に開かれた会社を目指し、例えばコミュニティスペースとして活用できる場を設け、社員や地域の方々が自然と集まれる関係性も築いていきたいと考えています。会社を、みんなでつくっていく。そんな未来を思い描いています。
江越専務が大切にしている考え方は何ですか?
私が大切にしてるのは、まず「好奇心に従ってすぐ動く」ってことですね。アトツギ甲子園や2024年に行った弊社を題材とした演劇『愛は練り物』の制作などはすべてこの考え方に基づいていると思います。あと、「一つのことにとらわれない」こと。会社と家の往復だけではなく、違う業界の人に会ったり、様々なコミュニティに顔出したりして、自分の考え方を柔軟に保ちたいと思ってます。根底にあるのは、海外での経験ですね。オーストラリアやフィリピンで、自分の先入観では計り知れなかった、人との距離感や文化の違いに触れたことが、自分を形づくっているなと。ネットの情報だけじゃなく、実際に自分で見て感じることが何より大事。だからこそ、社員にも外の世界に触れてほしい。将来的には、興味あるセミナーや勉強会への参加を会社として支援したいと考えてます。
日々改善していくことが「美味しい」をつくる
株式会社博水
工場主任 樋口朋彦
入社からわずか1年半で主任に抜擢された樋口主任は、製造現場の段取りから生産管理、製造まで工場全体を見渡しながら日々業務を進めている。主な担当は、練り物のもととなる生すり身の製造だ。ミンチ状にした魚を臼で丁寧に練り上げ、商品として仕上げていく過程では、徹底した品質管理と職人の繊細な感覚が求められる。樋口主任は、製品の品質を守りながら、常に高い精度で仕事を進めることに注力している。
さらに、新商品の開発にも積極的に携わり、現場の中核として多くの業務を担っている。2025年1月に主任へ昇進したばかりだが、現場ではすでに頼れる存在として信頼を集めている。その異例ともいえる早期昇進の背景には、柔軟な対応力とものづくりへの真摯な姿勢があった。現場の改善を繰り返すプロセスにやりがいを感じ、常に新しい挑戦を楽しんでいる。そんな樋口主任に、同社で働くやりがいや今後の夢について伺った。
伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
「やってみよう」と挑戦できる環境に惹かれて
中途で入社した樋口主任。前職を退職し、転職活動を進める中で重視したのは、「ものづくりに関われること」だった。自らの手で何かを生み出す現場で働くことに、大きなやりがいを感じていた。スーツを着てデスクに向かう仕事よりも、現場で手を動かし、製品が形になる過程に関わることに自らの働く意味を見出していた。 食品製造の経験はなかったが、ある日、調理中に偶然目にした同社のホームページが目に留まった。もともと同社の存在自体は知っていたが、そのタイミングで求人情報が掲載されているのを見つけ、「面白そうだ」と感じた直感が応募を後押しした。 入社後に実感したのは、家族経営ならではの距離の近さと温かい人間関係である。特に印象に残ったのは、社長や専務が「失敗してもいいからやってみよう」と背中を押してくれる姿勢だった。現状にとらわれず、改善や新しいやり方に挑戦する姿勢が歓迎される風土があり、試行錯誤をいとわない樋口主任の志向と見事に重なった。そうした柔軟で前向きな社風が、入社の決め手となったのである。
日々改善を積み重ねが商品の信頼に繋がる
現場の段取りや作業工程の見直しを通じて、日々改善を積み重ねること。それが樋口主任のやりがいである。入社当初に比べ、現在は残業時間も削減されており、その背景には樋口主任の工夫と行動がある。業務の無駄や手順を一つひとつ洗い出し、効率化を図ることで、目に見える成果を生んでいる。こうした改善が従業員全体の働きやすさにつながり、ひいては商品の品質向上にも貢献するとの信念を持つ。 現在、特に力を入れているのが、生すり身の品質管理である。同社の多くの商品の基礎となるこの素材に対し、魚の状態や温度、鮮度、匂い、魚体サイズのばらつきなどを記録し、データを基に最適な加工方法を都度調整している。鮮魚から加工しているからこそ、冷凍状態では見えない変化を読み取り、均一かつ高品質なすり身を安定的に製造できるようにする工夫は、日々の観察と蓄積の賜物である。 現場の声に耳を傾け、品質にこだわり、着実に改善を続ける。そんな姿勢が商品の信頼につながっていると、樋口主任は実感している。
「美味しい」を追求し新しい挑戦を
樋口主任の夢は、現場の働きやすさを向上させ、そこで生まれた時間を新しい挑戦に活かすことだ。現場環境の整備を進めることで、従業員の生産性を高め、企業全体の成長を促すことが目標である。働きやすい環境を提供することで、従業員に創造的な業務に取り組む時間が生まれ、より良い商品を生み出すための土台ができると信じている。 さらに、練り物の消費促進に向けた取り組みとして、食育活動を進めていきたいと考えている。親子で練り物をつくる体験を提供し、子どもたちに食材への親しみを持たせることで、家庭での消費を促進することを目指している。 そのためには、「美味しい」ことがすべての原点であると樋口主任は語る。子どもの頃に触れた「美味しい」と感じる味が、その後の食の価値観を形成し、食に対する興味や関心を育てるからである。美味しいものをつくり続けることこそが、樋口主任の使命であり、顧客に喜びを与える原動力である。



挑戦し続け、こだわり抜く。最高の一品を目指して。
博水の商品のこだわりは何ですか?
生すり身が一番こだわっているところです。弊社の商品はほとんどがこの生すり身を使っており、えそという未利用魚を活用したコロッケ『ギョロッケ』も、すべてこのすり身が土台になっています。だからこそ、すり身の質がそのまま商品の出来を左右すると言っても過言ではありません。弾力や粘りといった“力”があるかどうかが重要で、ざらつきのない、しっとりとした状態を見極めるのは、長年の経験と感覚の積み重ねによるものです。逆に、粘りがなくドロドロしたものでは、いくら加工しても良い商品にはなりません。そして生すり身の最大の強みは、どんな加工品にも応用がきくこと。味や食感のベースをしっかり支えながら、決して主張しすぎない。その“縁の下の力持ち”があるからこそ、弊社の商品は毎日食べても飽きのこない、やさしい味に仕上がっているのです。
江越社長、江越専務はどんな方ですか?
江越社長は、とにかく任せてくれる方です。入社当初から「失敗してもいいからどんどん試してみて」と言ってくださり、実際に新しいアイデアをどんどん取り入れてくれるんです。社長は、細かいところに口を出すのではなく、大枠で任せるタイプ。だからこそ、若手にも挑戦させてくれるんですね。また、わからないことがあればすぐに質問して、それに答えてくれるところがすごいと思います。
江越専務は業界全体を見据えた取り組みを進めている方です。家業の跡取りとして、業界が先細りしている中で新しい方法を模索し、会社だけでなく業界全体を盛り上げることを考えて行動されています。常に会社の未来を見据え、商品の開発や業界の情報収集に熱心です。社長と専務は、アプローチの仕方は違いますが、どちらも新しい挑戦をどんどん試していく姿勢は共通しています。
樋口主任が仕事をする上で意識されていることは何ですか?
まず「全体のスケジュールを計画通りに進める」ことです。最初に立てたスケジュールがずれ込むと、後々仕事が詰まって、結果的に納期に間に合わないことになりかねません。だからこそ、スケジュール管理には特に気を遣っています。最近では、仕事の進行を1時間ほど早く進められるようになり、日々改善を重ねています。ただし、トラブルや予期せぬ事態に備えて、あえて計画は8割程度に留め、残り2割で対応できる余裕を持たせるようにしています。これにより、万が一の事態にも冷静に対応できるようにしています。また、同じ作業でも「どうやったらもっと効率良くできるか」を常に考えています。飽きっぽい性格だからこそ、同じことを繰り返すのは苦手で、工夫を重ねることで仕事の質を上げることが楽しいと感じています。日々進化することが私のモットーです。
創業年(設立年)
1903年
事業内容
生産食品製造業
所在地
福岡県福岡市南区清水2丁目18-36
資本金
1,000万円
従業員
10名
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