株式会社新澤醸造店
3年連続世界一の背景にある常識にとらわれない姿勢

株式会社新澤醸造店

代表取締役 新澤巖夫

宮城県にある新澤醸造店は、「伯楽星」「愛宕の松」といった人気の銘柄を有する創業150年以上の歴史を誇る酒蔵である。今までなかった概念「究極の食中酒」を追求し、日本航空のファーストクラスにも採用されるほど、その品質の高さは国内外で認められている。しかしそこに至るまでは、多額の借金を抱え倒産寸前の時期や2011年の東日本大震災で蔵が全壊するといった大きな困難があった。今では世界酒蔵ランキング史上初の3年連続世界一の達成をはじめ、数々の賞を受賞するまでに生まれ変わった。その立役者である新澤社長はどのような想いで酒づくりに取り組み、ここまでの成果を上げたのか。今回の取材では同社の社風や独自性、展望を通して成長を遂げた背景に迫る。

伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質

攻めの姿勢と守りの知恵

同社の社風について新澤社長に伺うと、「矛と盾のように攻めと守りを両立していることだと語ってくれた。「矛」の面では、常に自由でありながらも人の真似をしないことにある。ただ規則を守るだけでなく、型を理解したうえでの自由が認められていることで、一人ひとりが責任を持って技術を磨く環境ができているのだ。例えば、AIやネットに頼らず、自分の言葉で発信することを大切にしている。誰かの真似をせず、まだ誰もやっていないことに挑戦する風土が、この会社ならではの誇りや情熱を生み出し「究極の食中酒」を生み出したのである。一方で「盾」の面では、社内で起きたイレギュラーに対して適切な注意を促す文化がある。最低限のルールを守り、型を理解したうえで自由に仕事に取り組むことが推奨されているのだ。このように、内と外の両面でバランスが取れているからこそ、社員は安心して新たな一歩を踏み出すことができるのだろう。

独自の選択が生む信頼と経験

よく考える時間をつくり、先回りするシミュレーションを行うという姿勢が、同社の独自性と新澤社長は語る。例えばコロナ禍においては、多くの企業がSNSを活用した販売戦略を展開する一方で、同社はそこには踏み込まなかった。その代わり、売れ残った酒を抱えて困っていた酒販店に自らの足で訪問し、商品を引き取る取り組みを行ったのである。この繋がりを通じて、その空いた棚に別の蔵のお酒を入れる店もあれば、同社の商品しか入れないと言ってくれる販売店もある。こうした動きから、わざわざ営業をしなくても深く付き合っていくべき酒販店が自然と見えてきたという。誰でも思いつくような対策を打つだけでは独自性や強みは埋もれてしまうと考えている新澤社長。誰もやらないことに挑戦するからこそ、自分たちにしか得られない経験や情報が集まり、それを通じて同業他社における信頼も獲得することができる。こうした「人と同じことをしない」という感覚が、同社ならではの独自性に繋がっているのだろう。

価格も技術も、世界一へ

新澤社長には大きく2つの構想がある。1つは世界酒蔵ランキング4連覇を獲得すること。そこから世界一の蔵というブランドを活かし、「世界一高価な酒づくり」を行うことである。これにより従業員の所得向上に繋がることはもちろん、従業員が世界最高の酒をつくる蔵で仕事をするという誇りと自信にもなってくる。もう一つは、価値の高い精米である。現在、同社は世界初の無農薬米専用の精米機をつくっている。その結果、無農薬精米にかかるコストが抑えられ、他社からの無農薬米の精米依頼も格安で受けることができるようになり、他の蔵も価格を抑えた美味しいオーガニック日本酒を続々と販売することで市場が活性化し、より日本酒業界が注目されていくことに繋がっていく。この構想を5年以内に形にすることを目標にしているが、まずは世界酒蔵ランキング4連覇を獲得するため皆がどう取り組み、万が一穫り逃した時はどうするのかという「人間力」を見てみたいと考えている。

「技術」で挑む、世界最高の酒づくり

会社の強みについて教えてください。

弊社は、あえて会社規模を大きくしないという選択をしています。規模を広げると金融面のテクニックや投資といった、本業の技術とは異なる分野の知識が必要になります。これまで私たちは、酒づくりの技術そのものに大きな投資をしてきました。これは、中小企業だからこそ可能なことだと考えています。永続する企業に必要なのは、目立ちすぎず、地に足のついた「適度な地味さ」だと思っています。その上で、いざという時に最も信頼される存在でありたい。だからこそ高級酒や日常酒に関係なく、どのお酒にも真摯に向き合い、丁寧につくる姿勢を大切にしています。技術を磨けば自然とプロフェッショナルが集まり、地方都市にあっても最先端の技術と知識を得られる環境をつくっていきたいと考えています。

東日本大震災で蔵が被害を受けてから復興までのエピソードを教えてください。

震災によって蔵を失い、新たな場所でゼロからの再興は勝手も違い品質にも影響がでるので大変だ、と考える方が多いと思います。しかし、私はそもそもこの場所は酒造りに適していたのかというところから考えました。このような視点で見た時、山の反対側に空いた土地があり、岩盤で地震には強く、かつて酒蔵があり、しかも水が非常に良いところでした。それが今の川崎蔵です。そこからは、ここに来たからには泣く泣く蔵を移転するのではなく、美味しいお酒を造るための移転を決意しました。その結果、伯楽星が日本酒業界でトップ10以内に常に入れるようになりました。そんな発想の転換ができるようになったのは「お金がないなら知恵をだせ」ということを常に意識しているからだと思います。

社員の育成や、成長のための取り組みについて教えてください。

今の世の中、スピードが求められる分、修行する時間や技術に対してはもの凄く浅くなっていっていると感じています。弊社は皆がどんな質問に対しても全部返せるような知識を当たり前のように持っている「技術蔵」にしたいと考えています。そのための情報収集や、研究に使う経費は惜しまず、申告に関しても事後報告でも良いことにしています。それは気になった時に情報を取りに行かない人はチャンスロスをし、人間形成が失敗すると考えているからです。そして外で学んで来たことは、会議ではなく大学生が友達の家に行って、飲みながらだらだら喋ってるような感じで共有しています。会議だけだとやっぱり良いアイデアって生まれないと思ってるので、そうやっています。

酒づくりの楽しさと責任を胸に 進化を続ける女性杜氏

酒づくりの楽しさと責任を胸に 進化を続ける女性杜氏

株式会社新澤醸造店

杜氏 渡部七海

杜氏(とうじ)とは、酒蔵において酒づくりの最高責任者として現場を管理する役割を担う役職である。その最高責任者に当時酒造業界で最年少となる22歳で抜擢されたのが、今回お話を伺った渡部さんだ。母校である東京農業大学短大部での授業をきっかけに酒づくりに興味を持ち、同社に入社した渡部さんは杜氏として日々「究極の食中酒」づくりに奔走している。お話をお伺いした中で、特に印象的だったのは、酒づくり全体を統括する立場になってもなお、常に学び続けようとする貪欲な姿勢と圧倒的な行動力、そして自分の後を追う後輩を育成することへの熱意だった。そんな渡部さんが杜氏に抜擢された裏側に迫るとともに、現在の仕事のやりがいや今後の夢について伺った。

伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い

酒づくりの魅力に引き込まれて

酒づくりの最高責任者である杜氏として仕事に取り組んでいる渡部さんがお酒に興味を持ったきっかけは、当時通っていた東京農業大学短大部の「清酒学」という講義。発酵食品について学ぶ中で「並行複発酵」という、日本酒の製造過程で起こる独特の現象に魅力を感じ、よりお酒に心を惹かれるようになった。そんな中、研究室の先輩に紹介されて参加したお酒の試飲会のアルバイトで同社と出会う。このアルバイトの経験を通じて、お酒をつくる楽しみだけでなく、お客様に商品としてお酒を届けることへの魅力も感じたという。また、酒づくりの現場で活躍している女性社員の姿を見て、より自分の働くイメージが深まったことも入社を決めた要因の一つとなっている。そして、渡部さんの実力と向上心が認められた結果、入社3年目には、当時最年少の22歳にして杜氏に抜擢されたのである。これからも酒づくりの技術を極め、会社全体の技術力を高めていく一員としての活躍に期待したい。

挑戦を楽しみ、進み続ける

どんな役割にも楽しさを見いだす姿勢が、渡部さんのやりがいにつながっている。入社当初は、純粋に酒づくりの現場が楽しく、日々の作業に夢中で取り組んでいたという。しかし入社7年目を迎える頃から、お客様と直接接する機会が増え、「やっぱり伯楽星だよね」といった信頼をいただいている声を耳にするようになったことで、責任感が高まった。また、酒づくりに用いる原料や関わる社員が変わっても、渡部さんの「より良いものを届けたい」という想いは変わらない。そのためには、工程ごとの連携やチーム全体の意識の統一が不可欠だと話してくれた。各工程が噛み合い、目指す品質にぴたりとはまったときには、大きな達成感を味わえるという。現在はマネジメントを担う立場にあるが、酒づくりをすることも大好きだという渡部さん。とはいえ、どんな役割にも前向きに取り組めるのは、与えられた立場の中に楽しさを見つけ出しているからだ。目の前の仕事に工夫を重ねながら挑み続ける姿勢こそが、渡部さんの原動力となっている。

強いチームで未来を築く

渡部さんが描くこれからの夢は「強いチームをつくること」である。社員それぞれが得意分野を活かし合える環境を整え、一人ひとりが力を発揮できるチームをつくりたいと話してくれた。また、「究極の食中酒」というコンセプトを守りながらも、より幅広い種類の酒づくりに挑戦して、お客様の多様なニーズに応えていきたいという想いも持ち続けている。近年、同社の日本酒は国内外のコンテストで高い評価を得ており、注目度が高まる一方で、求められる品質も年々上がっている。ただ「良い商品」を届けるだけではなく、お客様の期待を超えるものをどう届けるか、そのために何ができるのかを、渡部さんは常に考えているのだ。例えば、自身の引き出しを増やすべく、他部署の効率的な取り組みを積極的に学んだり、異業種で働く友人たちからヒントを得たりと、視野を広げる努力を惜しまない。その前向きな姿勢が、やがてチーム全体、そして会社全体の技術力の底上げへと繋がっていくに違いない。

酒づくりのプロを育てる使命

現在行っている仕事内容について教えてください。

今は多岐にわたる仕事をしています。杜氏をメインに、社内の人事・労務や各部署のフォロー、それから私の会社になるんですけれども、SSS(サケサポートサービス)の仕事もしています。この会社では、他の業種からM&Aとして出資していただいて、新しくその酒造の免許でお酒づくりを始める方や、色々な事情で杜氏さんやつくり手がいなくなってしまったなど、それぞれのお困りごとに合わせたお手伝いをしています。以前は現場にどっぷりでしたが、今は後輩が育ってきたので現場のことはほとんど任せるようにしています。自分はついつい口を出してしまうので「ここ気になるな」という部分だけアドバイスをする程度にしています。今後は、次世代のリーダーを育てていくことが自分の役目だと思っています。

仕事をする上で特に意識していることは何ですか?

お酒づくりは一人で行うものではないので、私はメンバーの調子に応じて、役割を柔軟に変えることを意識しています。メンバーが多いことによって良いことってすごくたくさんあるんですが、大変なこともあります。たとえば調子のいいメンバーと、調子の悪いメンバーというのが時期によってあるんですけど、その時に調子の良いメンバーにはどんどんたくさんいろんなことをやってもらう。逆に調子のあまり良くないメンバーに関してはいつも通りのことをやってもらうっていう形で、その人その人のモチベーションや調子だったりとか、そういうのも見ながらやってもらう。で、最終的にはよりいい品質のものをお客様にお届けできればOKという感じの考え方でやっています。

後輩を育成する上で大切にしていることはありますか?

後輩を育成する上で大切にしていることは、個々の成長を見守り柔軟に対応することです。本来私は計画をがっつりつくって進めていくというタイプでした。しかし私の考えるスケジュールだと、ガチガチすぎて、何かがあった時に余裕がないことが多く、現在は個々の状況に応じてプランを見直すことが重要だと考えています。定期的に個別面談を行い、目標や成長の方向性について意見を交わし、合意形成をしています。仕事の時間は人生で最も長い時間を占めているため、全員が楽しく、前向きに取り組むことが大切だと思っています。現場ではマニュアル通りにいかないことも多いため、柔軟な対応が求められます。そうした中で、後輩達が自分で考え、成長できるようサポートし、共に学び合うことを大切にしています。

監修企業からのコメント

コメント
この度は取材にご協力いただきありがとうございました。以前から愛飲していた伯楽星を扱う貴社にお話を伺うことができ、非常に嬉しい限りです。震災をはじめとする様々な困難を乗り越えた貴社の取り組みには、非常に勇気づけられました。今後のさらなる成長を期待しております。

掲載企業からのコメント

コメント
この度は取材いただき、誠にありがとうございました。まずは世界酒蔵ランキング4連覇を目指して、社内の技術力も高めながら会社として成長を続けていきます。弊社が誇りをもって提供している伯楽星や愛宕の松、皆様も是非一度お試しください。

株式会社新澤醸造店

創業年(設立年)

1873年

事業内容

清酒およびリキュールの醸造

所在地

宮城県大崎市三本木字北町 63番地

資本金

1,000万円

従業員

41名(関連会社含む)

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