株式会社東海軒
“変わらないおいしさ”の裏にある100年企業の挑戦

株式会社東海軒

代表取締役社長 平尾 清

東海軒は明治22年、静岡の東海道線開通の年に竹皮包みのにぎり飯と沢庵を立ち売り販売する「加藤辨當店」から始まった。当時、価値の高かった「構内営業権」を巡りトラブルが頻発していた時代のなか、仲裁役として静岡市商工会議所の代表だった現平尾社長の曾祖父が経営に参画、そこから加藤家、平尾家による経営体制が始まった。そんな混乱期を乗り越え、今は駅弁業界の中でも確固たる地位を築き、地域に深く根付いた存在となっている。そんな同社を率いている平尾社長は、駅弁業界の厳しい現状に対応すべく、地域色を活かした新商品開発などを進めている。培われた伝統を守り抜く姿勢は変えず、新しい挑戦を続ける同社。今回はそんな平尾社長に、同社の社風や独自性、未来の展望についてお話を伺った。

“変わらないおいしさ”の裏にある100年企業の挑戦

社員と共に成長する、強い組織づくり

平尾社長が同社に入社した当初、社内には落ち着いた雰囲気がある一方で、変化や外部とのつながりに対して慎重な空気も感じられたという。地域に根ざしてきた企業だからこそ大切にされてきた風土だったが、活発な意見交換が少なく、社員の声が埋もれてしまうという場面もあった。そうした状況を前に、静岡県民独特の、穏やかな県民性にも配慮しながら、社員一人ひとりの気づきや行動を促すスタイルで、時間をかけて根気よく社内改革に取り組んできた。まず着手したのは会議の改善。どんな立場の社員でも安心して発言できる環境づくりを進めた結果、少しずつ対話が生まれ、今では意見交換も活発になっている。さらに、弁当をつくる会社として「美味しく質の高いものをつくり続ける」という共通の目標を掲げ、改めて「安心・安全」を徹底していった結果、社員が誇りを持って働ける環境が整い始めてきたという。今後の更なる進化が楽しみである。

地域に愛され続ける、安心・安定の味

同社の魅力を一言で表すと、「静岡市民に愛されている」ことだ。静岡市民で同社の名を知らない人はほとんどいないという。その背景には、同社への安心感・安定感がある。「他のお弁当を食べても、気づけばまた東海軒のお弁当を選んでいる」と話す市民も多いという。なかでも高く評価されているのが、お米の味。品質にこだわった米を使用しており、その違いは日頃から食べ慣れている市民にも確かに伝わっている。あるお客様から、その日食べた弁当の米が「いつもよりも米が固い」という電話が来たり、米の上に添えている梅を変えた際、その変化を指摘する電話が鳴りやまなかったという。一見、理不尽な内容にも感じるが、それだけ東海軒の弁当の味が地域に根付き、愛され続けているという証拠である。こうした市民の期待に応えるため、原材料が高騰している今も、味や品質には一切妥協せず、代々受け継がれてきた丁寧なものづくりの姿勢が、「信頼できる存在」として、しっかりと根付いているのだろう。

伝統を守りつつ、未来を切りひらく挑戦

全国的に見ると、駅弁事業だけで収益を上げる会社が非常に少なくなっている現在、同社は駅弁にこだわった新たな商品開発を行っている。例えば冷凍の駅弁や、弁当に使用しているそぼろを使った炊き込みご飯の素を販売するといった工夫をしている。特に冷凍の駅弁は消費期限が短いという問題を克服しており、長期保存が可能な商品として注目を集めている。また、平尾社長はそのような厳しい現状を見据えつつ、売上の半分を占める駅弁事業を中心として新たな事業展開を進めている。取引先の業者とコラボレーションしてつくられた静岡おでんの素や「全国駅そばランキングでトップ3に入る」と評される静岡駅の駅そばのような地域色を活かした商品群も開発しているのだ。平尾社長はこれらの取り組みを通じて、100年以上続いてきた同社の伝統を守りながらも、時代に合わせた進化を遂げることを目指している。駅弁業界が厳しい状況にある中、同社の挑戦はその先駆けとなるだろう。

社員の”気づき”が会社を育てる

社長に就任された経緯について教えてください。

元々私は、弊社の経営に関わるつもりはありませんでした。若い頃からその意向は先代である父に伝えていましたし、父もそれを了承していました。しかし父が85歳を迎えて引退を考えた時、次の社長候補の年齢があまりにも若く、経営が不安定になりそうだという懸念から戻ってきてほしいという依頼を受けました。また、この依頼の背景には母が亡くなったときの遺言で「東海軒を継いでほしい」という言葉が残されていたのです。それまで私は東京で海運業やリゾート開発の仕事に従事したり、ハワイでタイムシェア事業の先駆けの会社で社長をしていました。しかし父からの願いと、母の遺言に動かされ、59歳で静岡に戻り、東海軒を継ぐ決断をしました。現在も海外での経験を仕事に活かしています。

今後の会社の課題について教えてください。

特に幹部陣を中心として、社内コミュニケーションの質を高めていくことです。これまで10年間、会議での発言を増やすことを重視してきましたが、これに加え、社員たちにはまず自分の担当している仕事の質を高め、それを繰り返し行うことで成長していってほしいと考えています。具体的には、自分が行っている仕事を深掘りし、日々の業務を再評価していくことが重要になります。弊社の仕事はどうしても毎日同じような仕事の繰り返しになると思うので、改めて日々行っている自分の業務を見つめ直してほしいです。これを繰り返すことによって本当の意味で質の高い議論が生まれ、会社全体の成長に繋がると考えています。

駅弁業界全体における構想はありますか?

業界内のリーディングカンパニーとしての責任を果たしていきたいと考えています。例えば、大きなイベントやインターハイなど、1万食規模の弁当が必要になることがあります。しかし、今ではその規模を1社で賄える会社がなくなってきました。そこで私たちがその窓口となり、信頼できる他社と協力して需要に応えていきたいと考えています。このような場面は年に1~2回のことですが、私たちが中心となり協力体制をつくることで、お客様に安心感を提供できると思っています。また、衛生管理や品質管理についても、業界全体でまだまだ改善の余地があると思っています。私たちはこうした課題に対して、同業同士で協力しながら、向上していきたいと思っています。

現場力×発信力×文化愛 進化を続ける発信力

現場力×発信力×文化愛 進化を続ける発信力

株式会社東海軒

商品開発・広報企画リーダー 細澤百合子

地元である静岡県に根ざした長い歴史を持つ東海軒において、日々新たな挑戦を続ける細澤リーダー。その歩みは家業である弁当屋での経験や影響を色濃く受けながらも、決して過去にとどまらず、未来を見据えた活動に力を注いでいる。現在は営業や商品開発、広報活動など多岐にわたる業務をこなす中で、細澤リーダーが感じる達成感は、数値に表れる成果だけではない。彼女が目指すのは、ただの成功ではなく、日本独自の食文化である駅弁の価値を次世代へ繋いでいくことだった。今回は歴史や伝統を大切にしながらも使命感を持って仕事に取り組んでいる細澤リーダーが現在感じているやりがいや今後の夢について、お話を伺った。

伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い

地元に根ざし、挑戦する日々

同社への入社の決め手となったのは、自身の地元である静岡県に根ざした歴史ある企業であること、そして幼い頃から積み重ねてきた知識やスキルを活かせると感じたことだった。細澤リーダーは、両親が弁当屋を営んでいたこともあり、小学生の頃から店の手伝いをしていた。そうした背景から、もともと弁当業界には親しみを持っていたという。現在、細澤リーダーが担当している業務は多岐にわたる。既存の葬祭業者向け弁当の営業を中心に、商品開発や広報活動、さらにSNSの運用や販促キャンペーンの企画、それに伴うポップの作成など、幅広い業務に携わっている。そのなかでもコロナ禍に実施した「クラウドファンディング」は大きな成功事例となった。一つの部署にとどまらず、会社全体に関わるような仕事も多<、入社8年目にして社内で確かな存在感を放っている。自らの経験の延長線上にありながらも、東海軒という環境は細澤リーダーにとって新しい挑戦の場となり、成長を後押ししているのだろう。

努力と信頼で育む、部門全体の成長

細澤リーダーは、営業として売上が数値に表れることや、自ら開発した商品が売れることに大きな楽しみとやりがいを感じている。中でも特に印象的なのが、新規取引先の立ち上げに携わった経験。従来とは異なる商流でのやり取りだったため、軌道に乗るまでには多くの苦労があったという。注文が集中し、製造現場が人手不足になるような場面では、細澤リーダー自らが製造現場に入ったこともあった。これには小学生の頃から家業の弁当屋を手伝っていた経験が、今も現場で活きているのだろう。また、斎場で働くパート社員に向けて業務マニュアルの作成や、業務整理、更にはランチミーティングを企画し、社内のコミュニケーションを円滑にするための取り組みにも積極的に取り組んでいる。こうした活動が、サービスの向上に繋がり、取引先からの評価も上がった結果、全体の売上向上に繋がっている。細澤リーダーの細やかな配慮から、このような成果が生まれているにちがいない。

歴史を守り、未来に繋ぐ挑戦

駅弁という日本独自の食文化の奥深さを次世代へ繋げていくこと。それが細澤リーダーの描く夢だ。創業から136年の歴史を持つ同社の社内には、かつて使用されていた弁当の掛け紙や販売許可証など、数多くのお宝が今も大切に保管されている。細澤リーダーはこれらの資料を目にして「この紙一枚に時代の空気が詰まっている」と強く心を動かされたという。こうした駅弁の文化的価値や歴史を国内外へ広く発信したいという思いから、細澤リーダーは「駅弁文化伝承委員会」を一人で立ち上げた。実際に明治30年頃に使われていた「元祖鯛めし弁当」の掛け紙を江戸時代に流行した木版技術で復刻し、クラウドファンディングを通じて冷凍弁当として支援者に届ける取り組みも実施した。この結果、目標金額50万円を大きく上回る208万円の支援を集めた。今後は県内企業や同業他社との横連携を強め、こうした活動をより広げていきたいと考えている細澤リーダー。日本の歴史ある文化を繋ぐための今後の挑戦に注目していきたい。

「聞く力」でチームを強くする

入社当時に苦労したことはありましたか?

葬祭業界特有の言葉や式の流れに戸惑うことが多くありました。通夜や葬儀の時間は理解していても、実際にどのような準備をして、どんなスケジュールで動くのか、聞き慣れない言葉も多く、最初は苦労しました。そこで現場を理解するために自分も仲居として斎場に入り、実際の仕事を経験させてもらいました。今では仲居のリーダーを勤める方から業務内容や必要な情報が全て共有されるので、非常に助かっています。パートさん達と仲を深めるため、勉強会と称したランチミーティングを自主的に行い、コミュニケーションの場を設けたこともありました。少しずつ関係を築いていく中で様々なことを相談してもらえるようになり、今では現場との連携も上手く取れるようになりました。

平尾社長はどのような人ですか?

平尾社長は、考え方にアメリカ的な要素を持っている方だと感じています。海外で長くお仕事をされていた経験があるからか、会話の中で「アメリカではこうだった」といった話が自然に出てくることが多く、日本との考え方の違いを交えて話してくださいます。そうした視点があるからこそ、平尾社長から生まれる発想やアイデアには自分達よりも少し先に進んでいるような印象を受けることがあり、自分にとって刺激になっています。商品名や価格等、最終的な判断はもちろん社長が行いますが、私から提案したネーミングに対して丁寧に意見を返してくださるので、現場の声にも耳を傾けつつ、自身の考えを持ちながら導いてくださる方だと思います。

今後会社を良くするためにしていきたいことは何ですか?

駅でお弁当を販売してくださっている方、外商の営業担当、製造や配達担当、パートの社員さん等、関わる全員がやりがいを持って働ける会社にしていきたいと考えています。そのために自分にできることは、リーダーとして一人ひとりの声をしっかり受け止めて、それを少しずつ形にしていくことだと思っています。今は人員が限られていることもあり、部署や役割をまたいで業務を兼任している状況で、余裕がないと感じる場面もあります。新しいことに挑戦したくても手をつけづらいという現実もあるのが正直なところです。でも、単に人を増やすだけではなく、今の環境をしっかりと見つめ直して、やりがいを持てる働き方に繋げていけるように、これからも現場の声に耳を傾けていきたいと思っています。

監修企業からのコメント

コメント
この度は取材にご協力いただきありがとうございました。取材を通じて印象的だったのは、「変えてはいけないもの」と「変えるべきもの」の見極めを大切にしている姿勢です。地元の人々の期待に応えながら、時代に合わせて少しずつ前進していく。そのバランス感覚が、貴社が地元で長く愛され続ける理由なのだと感じました。

掲載企業からのコメント

コメント
弊社を取り上げていただきありがとうございました。弊社は、静岡の皆様に支えていただきながら歩んできました。変わらない味や丁寧なものづくりの姿勢は大切にしつつ、社員の声を取り入れながら、時代に合わせた変化にも挑戦しています。これからも地元を中心に、お客様に信頼される存在であり続けたいと思っています。

株式会社東海軒

創業年(設立年)

1889年

事業内容

弁当その他飲食物の製造販売 飲食店事業 酒類、たばこ販売業

所在地

静岡県静岡市駿河区登呂6丁目5-35

従業員

正社員:63名  パート・アルバイト:74名

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